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殿堂入りベテラン記者が指摘するアーロン・ジャッジにできて大谷翔平にできないこと

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
シーズン後半戦に入り打撃不振のチームを1人で支えているアーロン・ジャッジ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【史上稀に見る混戦模様のア・リーグMVP争い】

 MLBの2022年シーズンも残すところ1ヶ月を切ってしまったが、すでに日本でも繰り返し報じられているように、ア・リーグのMVP争いが混迷を極めている。

 シーズン開幕から異次元レベルで本塁打を量産し、2001年以来となる年間60本塁打達成を目前に控えたヤンキースのアーロン・ジャッジ選手に対し、昨シーズンは満票でMVPを受賞し、今シーズンは打撃のみならず投手として飛躍的成長を遂げた大谷翔平選手が、まさにデッドヒートの争いを繰り広げている。

 後半戦開幕当初は本塁打を固め打ちしていたジャッジ選手が有力視されていたが、8月に入ってからは大谷選手が昨シーズンを上回る打撃を披露し始め、今や両者の評価はほぼ二分されている状況だ。

【大谷選手の猛追が事態をより混迷に導く】

 ESPNの「ベースボール・トゥナイト」ポッドキャストでホストを務めるバスター・オルニー記者も、「オオタニが(MVP争いを)混迷させている」と評している通り、ここに来て大谷選手の評価が米メディアの間で急上昇しているようだ。

 すでに日本でもジャッジ選手、大谷選手それぞれを推す米メディアの評価が紹介されるようになっているが、どう考えても両選手の活躍度に優劣をつけるのは簡単ではなく、ア・リーグMVPの投票権を有している記者は投票締め切り日まで頭を悩ませることになりそうだ。

 いずれにせよ今シーズンのア・リーグMVPは満票得票など夢の話で、最終的に受賞者が決まった後でも侃侃諤諤の論争が巻き起こってもおかしくない状況だと感じている。

【MLB屈指のベテラン記者がジャッジ選手を推し続ける理由】

 そんな状況の中、前述のポッドキャストに週一で出演している球界屈指のベテラン記者が独自の理論を展開し、ジャッジ選手を推している。

 この記者の名はティム・カークジャン記者だ。本欄でも何度か紹介したことがあるので、その名を記憶されている方もいるのではないだろうか。

 彼は1981年からMLB取材に携わり、昨年末に全米野球記者協会(BBWAA)により「BBWAA Career Excellence Award」に選出され、今年の殿堂入り式典で表彰されている。現在は殿堂博物館内にある図書館に展示もされている。

 カークジャン記者はかなり早い段階からジャッジ選手を推しており、今回も以下のように話し、今も考えが変わっていないと説明している。

 「間違いなくオオタニの存在が複雑化させている。自分はオオタニに投票する記者がいてもそれを支持するし、議論する気などまったくない。だが自分が(ア・リーグのMVPの)投票権を有しているならば、やはりジャッジに投票するだろう。

 ジャッジは毎日出場し続ける主力選手としてキャリア最高のシーズンを過ごし、彼の存在なくしてチームはポストシーズン争いしている現在の位置にいなかっただろう。

 自分は古いタイプの人間で、偉大な選手はチームをプレーオフに導くものだと考えている。それも重要な評価ポイントになっている。

 勝てないチームを過小評価するつもりはないし、オオタニに何の落ち度もない。だがエンジェルスは勝てていない一方で、ヤンキースが現在の位置にいられるのも、ジャッジが最大要因になっているのは間違いないところだ」

【シーズン後半戦の大不振を1人で支え続けたジャッジ選手の功績】

 カークジャン記者が説明するように、現在のように選手の活躍度を数値化するWARのような指標が登場する以前は、投打の主要部門の個人成績とともに、チーム成績も考慮される傾向にあり、比較的強豪チームの主力選手たちが受賞してきたように思う。

 それが最近では、マイク・トラウト選手のようにチームが下位に低迷しても、選手個人の活躍次第でMVPを受賞できるようになっている。もちろん昨シーズンの大谷選手もその1人だ。

 もちろんチーム成績は、選手1人だけで左右できるものではない。ただカークジャン記者が指摘するように、今シーズンのヤンキースに関しては、ジャッジ選手の存在を絶対に見過ごすことができない。

 シーズン前半戦は年間最多勝記録を狙えるような快進撃を続けていたヤンキースだったが、シーズン後半戦に入った途端大失速してしまった。最大15.5ゲーム差まで広げながら、現在はレイズに5ゲーム前後まで詰め寄られてしまった。

 その最大の原因こそ、アーロン・ブーン監督が繰り返し指摘しているように打撃陣の不振だ。それを何とかチームの総崩れを押しとどめ続けたのがジャッジ選手だった。それはシーズン後半戦のジャッジ選手と残り選手の打撃成績を比較すれば明らかだ。

 ジャッジ選手:打率.338/22本塁打/48打点/OPS1.318

 残り選手:打率.208/26本塁打/120打点/OPS.583

 このままヤンキースが何とか地区優勝を飾るようなことになれば、ジャッジ選手が果たした役割は相当に大きかったと判断されるべきだろう。

 個人レベルではジャッジ選手と大谷選手の活躍度が拮抗しているということになれば、カークジャン記者の説明通り、彼らが置かれた状況も判断基準に加えていかねばならないのかもしれない。

 とりあえず両選手の歴史的な賞争いを最後まで見届けたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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