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好調滋賀を支える新任のルイス・ギルHC!現役スペイン代表コーチが若手中心のチームにもたらしたもの

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今シーズンから滋賀を率いるルイス・ギルHC(中央・筆者撮影)

【5勝1敗で地区首位タイに立った滋賀】

 オフに大物選手たちの移籍が相次ぎ、シーズン第2節終了時点で全勝チームが消えてしまうなど、かつてないほどの混戦模様を呈している今シーズンのB1リーグ。

 そんな状況を色濃く象徴しているのが西地区だろう。現在シーズン第3節を終了した時点で、5勝1敗で首位に立っているのは、昨シーズンB1に昇格したばかりの広島ドラゴンフライズと、Bリーグ発足以来一度もチャンピオンシップに進出できていない滋賀レイクスターズの2チームだ。

 広島はオフに辻直人選手やニック・メイヨ選手などを積極補強しており、チーム力が大幅に上がっているためさほどの驚きはないが、滋賀は昨シーズンのメンバーが2人しか残っていない新生チームで、しかも昨シーズンB1で50試合以上出場している選手も3人しかいない若手中心のチームだ。

 ここまで強豪チームと対戦していない面があるとはいえ、現在の滋賀の躍進を想像できた人は少ないはずだ。

【チームに刺激を与え続ける新任のギルHC】

 そんな滋賀を支えているのが、今シーズンから指揮をとっているルイス・ギルHCだ。

 昨シーズンまで2シーズンにわたりB2の佐賀バルーナーズでHCを務めていた人物だが、元々は3つのカテゴリー(U-18~20)でスペイン代表HCを歴任し、スペインリーグや英国リーグなどのチームでも指揮をとってきた、現在50歳のベテランコーチだ。

 また現在もスペインA代表のACを兼任しており、東京五輪にも参戦している。そんな強豪スペイン代表を長年支え続けたギルHCが、着実に滋賀の選手たちにポジティブな刺激を与え続けているのだ。

 それは、ここまでの滋賀の戦いぶりにも表れている。

【とにかく選手全員で戦うスペイン代表流バスケ】

 まずギルHCの特徴は、選手起用がかなり柔軟な点だ。スタメンにあまり頓着せず、相手チームや試合状況に合わせて選手を入れ替えていく。

 例えばシーズン開幕戦の三遠ネオフェニックス第1戦では、前半終了時点で35対52と大量リードを許す展開になってしまったが、後半はディフェンスを強化するためスタメンを変更。その作戦が見事に的中し後半は58対31と圧倒し、逆転勝利を飾っている。

 シーズン第3節の京都ハンナリーズ第2戦でも、マークしていた選手の動きを抑えきれていないと判断すると、後半からスタメンを入れ替え京都の攻撃を崩すことに成功。後半は滋賀の一方的な展開に持ち込み、95対72と完勝している。

 「前半で得点されてしまった選手は、自分たちが絶対にやられたくない相手だった。自分たちがやりたかったことは第3クォーターで見せたもので、ディフェンスの部分が一新されたと思います。

 そして自分たちのキーになっているのが、(試合によって)日本人選手の誰かが秀でたプレーをして活躍してくれることです。ハヤシが出てきたり、オザワが出てきたり、レオン(澁田選手)が出てきたり…。そういうことができているのが自分たちのキーになっていると思います」

 京都戦後にギルHCが語っているように、相手チームに合わせて戦術、選手を入れ替えることで、ヒーローが日替わりで誕生する相乗効果をもたらしている。

【試合中はラテンの血をたぎらせる熱血漢】

 ただ試合中のギルHCは、かなり恐ろしい存在だ。やはりスペイン人らしくラテンの血がたぎるのか、相当な熱血漢ぶりを披露している。

 常にベンチから声をかけ続け、プレーごとに大声を上げ続ける。時にはミスをした選手に対し、鬼のような形相でまくし立てることもある。試合中滋賀のベンチで最も大きな声を出しているのは、間違いなくギルHCだと断言していい。

 京都戦第2戦では、その熱血漢ぶりが災いしテクニカルファウルを宣告されてしまったが、それでもギルHCの熱血ぶりがひるむことはなく、日本人ACがなだめに入るほどだった。

 だが滋賀の選手たちは、ギルHCの熱すぎる態度をまったく気にしていないどころか、むしろ歓迎している感さえある。キャプテンの柏倉哲平選手が、以下のように説明してくれた。

 「あれはルイス(ギルHC)のキャラクターというか、周りからしたらめちゃ怒られているという感じだと思いますけど、僕らからすればしっかりアドバイスしてくれているだけなので、彼の口調がきついように見られがちですが、(自分たちは)何も感じないです。

 それに(ギルHCから)自分はこういうタイプだから強く言うけど、それは期待の裏返しだからと最初から言ってくれていたので、正直ルイスに言われなくなったら終わりだなというのは、みんなが思っていることだと思います」

【柏倉選手「話しやすい優しいおじいちゃん」】

 実のところギルHCは、コート上で見せる厳しいコーチ以外に別の顔を持っているようだ。

 柏倉選手によれば、コートを離れたギルHCは「優しいおじいちゃん」なのだという。コート上の姿からは想像のできないが、選手からも話しやすく、またギルHCもすべても選手に気さくに話しかけてくれるらしい。

 そうしたギャップも相俟って、滋賀の選手たちはすぐにギルHCを信頼するようになったという。やはり柏倉選手が説明してくれた。

 「バスケに対する考え方、状況判断などを事細かく教えてくれて、(それらのことが)この夏の練習から自分の中で大きく変わったポイントです。

 自分はどちらかと言うと固定観念に囚われていたんですけど、そうではなくその時の状況判断でシンプルにバスケをしようというのがルイスの考え方です。

 自分たちもやっていて新しい発見とかもありますし、ルイスを信じてやっていこうと決めた以上、やっていて自信にも繋がりますし、成長していけるんじゃないかなと思います」

 ギルHCが合流してから3週間弱でシーズン開幕を迎える慌ただしさだったが、ギルHCは短期間のうちに選手たちを虜にしてしまったようだ。

【選手のパフォーマンスを最大限に引き出す】

 繰り返しになるが、ギルHCの戦術や選手起用は、スペイン代表で長年踏襲されてきたものだ。彼の言葉からその特徴的な部分を列挙すると、以下のようになる。

・すべての選手の100%のパフォーマンスを出せるよう出場時間を28分以内に抑える。

・選手にタイムシェアをさせるため毎試合11~12人の選手を起用する。

・試合の重要な局面は第3クォーターなので、できるだけ多くの選手を使ってローテーションしていく。

・高いディフェンスを維持するため1人の選手を連続で8分以上コートに立たせない。

・スタッツはプラスマイナスが重要で、コートにいる選手たちは最低でも同じ点差をキープするのが大事。

 滋賀はシーズン第4、5節で、川崎ブレイブサンダースと名古屋ダイヤモンドドルフィンズの強豪チームとの対戦を控えている。

 「ここからのスケジュールはタフになり、プレーオフ(チャンピオンシップ)を争うようなチームとの対戦になります。

 こういうチームとの対戦は自分たちに自信を与えてくれるものだと思っています。そういうチームと競い合って、自分たちは成長していきたいと思います」

 ギルHC率いる滋賀の快進撃がどこまで続くのか、今後も見守っていきたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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