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大谷翔平を納得させられるのはマドン監督でもミナシアンGMでもない!すべてはモレノ・オーナーの決断次第

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
チームを根本的に変貌させるにはモレノ・オーナーの決断が必要だ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【波紋を広げた大谷選手の意味深発言】

 すでに日本の主要メディアが大きく報じているように、大谷翔平選手が先発登板に臨んだ9月26日(現地時間)のマリナーズ戦後に発した発言が、各地で波紋を広げている。

 「もちろんファンの人も好きですし、球団自体の雰囲気も好きではあるので、ただそれ以上に勝ちたいという気持ちの方が強いですし、プレーヤーとしてはその方が正しいんじゃいないかと思っています」

 確かに聞き方によっては、なかなか勝てないエンジェルスより勝てるチームに移籍する考えがあると受け取られても仕方ないだろう。だが同様の発言をマイク・トラウト選手は毎年のように繰り返しており、勝ちたい、ポストシーズンで戦いたいという思いは、エンジェルス選手たちの偽らざる本音だろう。

 ただトラウト選手は2030年までエンジェルスと契約している選手である一方で、大谷選手はまだ年俸調停期間の選手で2023年オフにFAになる選手ということで、どうしても将来的なことを含め、その発言が注目されてしまったようだ。

【解決策はエンジェルスが強豪チームに変貌すること】

 その後ジョー・マドン監督やペリー・ミナシアンGMが、大谷選手の発言について事情説明を行っているが、結論を言うならば、来年以降にエンジェルスがポストシーズンを争えるような強豪チームに変貌すればいいだけの話なのだ。

 そうなれば大谷選手は、前述した通りエンジェルス自体は気に入っているのだから、自分からチームを離れようなんて気持ちになるはずもないだろう。

 チームを変革していく上で、マドン監督とミナシアンGMは重要な役割を担っている。また彼らは現職に就任して以降、それを目指して取り組んでいる。それでも強豪チームになれないということは、2人の力だけでは不十分ということになる。

 やはりチームオーナーであるアルテ・モレノ氏の全面支援無しでは、実現するのは難しいのだ。

【ずっと指摘され続けたエース投手不在】

 契約最終年を迎えるマドン監督にとっても、来シーズンは勝負に年になる。是が非でも勝率5割とポストシーズン進出は達成したいところだ。

 つい先日もメディアから現在のチーム状況について聞かれ、もっと上を狙えるチームだが、ロースターはまだ完全ではなく、特に先発投手陣の整備が必要だと指摘している。

 このマドン監督の指摘は、今シーズンに限ったことではなく、ここ数年ずっとチームの課題になっていたことだ。それでも十分な補強ができなかったのだ。

 恐縮だが大谷選手がチームの年間最優秀投手賞を受賞しているのは、まったく理想的ではない。もちろん投手陣にとって大谷選手の存在が大きいのは、これからも変わらないだろう。

 だが二刀流を続けている大谷選手は、登板日がどうしても流動的になってしまうため、ローテーションの核になるのは難しい。だからこそエンジェルスとしても、大黒柱になるエースが必要だと指摘されてきたのだ。

【他チーム以上に制限が厳しい年俸総額】

 なぜここまで課題が解決できない状態が続いているかといえば、制限されたエンジェルスの年俸総額であり、補強策の失敗に他ならない。

 例えば今シーズンの開幕時点で、年俸2500万ドル(約27.5億円)を超える選手がMLB全体で20人いたのだが、エンジェルスはその内3選手を抱えていた。これはドジャース、アストロズと並びMLB最多だ。

 そしてこれら3チームの年俸総額を比較すると、トップがドジャースの2億6720万ドル(約294億円)で、次いでアストロズの1億9170万ドル(約211億円)、エンジェルスは最も低く1億8070万ドル(約199億円)だった。

 つまりエンジェルスは、ドジャースやアストロズに比べ、高額年俸選手以外に十分な予算が割けなかったということになる。

 しかも高額年俸選手3人は、ドジャースがすべて投手、アストロズが投手2人に対し、エンジェルスは野手3人と、明らかに投手陣に資金を投入していないことが理解できる。

【ぜいたく税を回避し続けたエンジェルス】

 またエンジェルスは高額年俸選手が揃っているにもかかわらず、ずっとぜいたく税を回避する方針を貫いてきた。

 ぜいたく税制度が1996年に登場する一方で、エンジェルスは2011年10月にジェリー・ディポト氏がGMに就任し、FA市場でアルバート・プホルス選手やCJ・ウィルソン投手を獲得するなど、大型補強路線を打ち出し始めた。

 それでも年俸総額はできる限りぜいたく税の枠内に抑え続け、結局今シーズンまでぜいたく税を支払ったのは2004年シーズンの1回に止まっている。

 そしてビリー・エプラー氏がGMを引き継いだ後もその方針は変わらず、トラウト選手やプホルス選手という高額年俸選手が揃う一方で、年俸総額はぜいたく税の限度枠内に止めてきた。

 ただ2019年オフにある程度の予算をもらい、FA市場でゲリット・コール投手ら大物投手の獲得を目指したが、結局獲得に失敗し、大型契約でアオンソニー・レンドン選手という更なる野手を獲得している。

 この補強も、現在のエンジェルスを苦しめる原因になっている。

【負のスパイラルから抜け出せない】

 そして昨オフからミナシアンGMが引き継いだわけだが、やはり年俸総総額が制限される中で3人の高額年俸選手を抱えている状態では、大物投手を獲得するのは不可能だった。

 シーズン途中でプホルス選手がチームを離れたことで、年俸総額に多少余裕ができたので、今オフは大物投手を獲得できるかもしれない。だがそうなると再び高額年俸選手が3人揃うことになり、結局高額年俸選手以外に予算を割けなくなってしまうことになる。

 それだけではない。来シーズン以降に必ず訪れる、大谷選手との契約延長、もしくは再契約するための予算も捻出するのが難しくなってくるだろう。まさに現在のエンジェルスは、負のスパイラルの中にいるのだ。

 これを打破するには2つの道しかない。ぜいたく税を気にせず予算を拡充するか、もしくは年俸総額に見合わない高額年俸選手を整理していくしかない。この決断ができるのは、モレノ・オーナーしかいないのだ。

 果たしてモレノ・オーナーは、大谷選手を満足させるチームに再建することができるのか。すべては彼の決断次第だ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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