Yahoo!ニュース

予選全敗で終わった男子バスケの渡邊雄太の思いと田臥勇太が提言する「精度と連携」

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
主将の1人として日本代表を牽引した渡邊雄太選手(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【ファンに向けメッセージを投稿した渡邊選手】

 1976年のモントリオール大会以来の五輪出場を果たした男子バスケの日本代表。大会前に実施された強化試合でフランス代表に勝利し、本戦での勝利が期待されていたが、FIBAランキング上位のスペイン、スロベニア、アルゼンチン相手に勝利を飾ることができず、予選敗退が決まった。

 田中大貴選手とともにキャプテンを務めていた渡邊雄太選手は8月3日夜に、チームの集合写真とともにメッセージをTwitter上に投稿し、現在の思いを語っている。

 メッセージの全文は彼の投稿で確認してもらうとして、2年前に久々に世界の舞台に立ったW杯では、代表として戦う姿勢がなかったチームを痛烈批判していた渡邊選手だが、今回はチームとして最後まで戦う姿勢を見せられたとしている。

 その上で3戦全敗した事実を受け止め、「勝てるチームにはまだなっていません」とし、「一年や一日でどうにかなる問題ではもちろんないです。今後何年もかけてこの差を埋めなければいけません」としている。

 つまり渡邊選手の感覚からすれば、今回の五輪でようやく代表として機能する土台が出来上がり、これから世界との差を一歩ずつ埋めていく作業に入れる段階に入ったということなのだろう。

【田臥選手が明かした日本代表への提言】

 今回は自国開催枠で五輪出場を果たしたが、3年後のパリ五輪では予選を勝ち上がらないと出場できない。現在FIBAランキング42位の日本は、アジア枠でも8位でしかなく、予選を勝ち抜くだけでも至難の業だ。

 パリ五輪予選まで残された時間の中で、日本代表はどんな強化をしていかなければならないのだろうか。アルゼンチン代表に敗れ予選全敗が決まった後、コメンテーターとして五輪特番に出演していた田臥勇太選手が、2つの提言をしている。

 1つ目は、チーム全体のシュートの精度を上げること。そして2つ目が、八村塁選手と渡邊選手と個で打開できる選手が現れたので、残りの選手たちがしっかり彼らに連携していくこと──だとしている。

 実は五輪に出場した12チームの予選グループでのデータを比較すると、田臥選手の提言が如何に的確なのかが理解できる。

【日本代表のシュート成功率は出場12ヶ国中11位】

 まずシュートの精度に関してだが、FIBA公式サイトに掲載されている予選グールプでのデータを比較すると、日本代表のシュート成功率は41.6%で12ヶ国中11位だった。

 ちなみに、日本代表と同様に予選敗退したイラン代表が40.5%で最下位、ナイジェリア代表が43.7%で同9位、チェコ代表が49.0%で同3位だった。つまりシュート成功率が悪かったチームが基本的に予選敗退しているのだ。

 日本代表では2大エースの1人渡邊選手が45.2%と、まずまずのシュート成功率を残しているが、八村選手は40.9%に止まっている。やはりエースの不調はチームにも大きく影響を及ぼすことになる。

 2選手以外では、馬場雄大選手が54.5%、比江島慎選手が47.6%と健闘しているが、残りの選手たちは皆チーム平均を下回っている。

【明らかに2大エースに偏った攻撃パターン】

 次に2大エースと他選手の連携に関してだが、予選第2戦でギャビン・エドワーズ選手が負傷してしまった影響もあり、明らかに2選手に頼ってしまった感は否めない。

 実際予選グループにおける全選手の平均出場時間を見ると、八村選手が37.6分で全体の1位、そして渡邊選手が35.5分で同2位と、明らかにチームとしてのバランスを崩していた。

 それは攻撃パターンにも影響しているように思う。予選グループにおける各チームの2点シュート数、3点シュート数、フリースロー数の割合を比較したところ、やはり日本代表と強豪チームには明確な違いがあることが浮き彫りになった。

 まずFIBAランキング1位の米国と同2位のスペインの割合を見てほしい。2点シュートと3点シュートのバランスがほぼ均等なのだ。米国に至っては3点シュートが2点シュートを上回っているのだ(別表参照。括弧内はシュート成功率)。

(筆者作成)
(筆者作成)

(筆者作成)
(筆者作成)

 次に日本代表を見てみよう。2点シュートへの偏りが強く、しかもフリースロー数も2チームより少ないのが理解できる。それだけファウルが奪えていない証拠でもある。

(筆者作成)
(筆者作成)

 とりあえず予選突破した8チームと日本代表を比較したところ、2点シュートの割合が50%を超えていたのは日本代表だけだった。それだけ日本代表は世界と比べても、3点シュートを有効活用できていないのだ。

【外国籍選手に頼りがちなBリーグでどう成長に繋げるか】

 日本代表の予選3試合を見ていても、トランジションオフェンスはなかなか効果的だったが、ハーフコートオフェンスになると、かなり単調だった。上記のデータからも理解できるように、2大エースに頼り過ぎてしまった。

 その一方で対戦相手は、コート上の選手たちがチームとして連動し、的確にボールを回しながらフリーの選手がシュートを打てる場面を創り出していた。

 やはり田臥選手の提言通り、今後は2大エースを軸にどれだけ周りの選手が連動し、フリーの選手がシュートを狙えるような多彩な攻撃パターンをつくれるかが求められているように思う。

 八村選手と渡邊選手は今後もNBAという世界最高峰の舞台でレベルアップを図ることができるが、残りのほとんどの選手たちはBリーグでその作業に取り組んでいくしかない。

 まだ日の浅いBリーグはどのチームも外国籍選手に頼りがちな傾向が強い中で、如何に自分の成長に繋げていけるのか、選手たちの高い意識にかかっている。

 渡邊選手のメッセージではないが、世界と向き合う準備ができた日本代表各選手の成長に期待したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事