89年間の慣例を破り二刀流枠を新設したMLBと大谷翔平の二刀流出場を切望したジョー・マドン監督の深慮
【ダルビッシュ投手と菊池投手もオールスター戦出場へ】
MLBが現地時間の7月4日、先日発表されていたファン投票選出の両リーグの先発選手17人以外の投手及び控え野手を発表した。
それによると日本人選手は、すでにア・リーグのDH部門でファン投票です1位に選出されていた大谷翔平選手に加え、ダルビッシュ有投手と菊池雄星投手が選出された。ダルビッシュ投手は4年ぶり5回目で、菊池投手は初選出。
日本人選手が一度に3人選出されたのは、2003年(イチロー選手、松井秀喜選手、長谷川滋利投手)、2007年(イチロー選手、齋藤隆投手、岡島秀樹投手)、2014年(ダルビッシュ投手、上原浩治投手、田中将大投手)に次ぐ、4度目の快挙だ。
【89年間の歴史で初めて二刀流枠を新設したMLB】
ただ今回の発表で特筆すべきなのは、ファン投票以外でどんな選手が選出されたかよりも、1933年から始まったオールスター戦の歴史の中で初めて二刀流枠が新設されたことだろう。
MLBはすでに大谷選手の出現で、公式戦の出場ロースターにも二刀流枠を設けていたが、今シーズンの投打にわたる活躍に加え、彼のオールスター戦初選出に伴い、遂にオールスター戦でもこれまでの慣例を打ち破り、二刀流枠を創設したのだ。
もちろん大谷選手を二刀流枠に入れたということは、MLBが彼を二刀流出場させるという意思表示であり、告知を意味するものだ。これで余程のことがない限り、大谷選手の二刀流出場は既定路線になったといえるだろう。
【MLBを動かした選手投票】
今回のMLBの決定に、選手投票が大きな影響を及ぼしたようだ。
日米の主要メディアが報じたところでは、大谷選手は選手投票で121票を獲得し、先発投手部門で5位に入ったようだ。
実はオールスター戦に選手投票が導入されて以降、先発投手部門上位5人、リリーフ投手部門上位3人が自動的に選出されるようになっていた。つまり大谷選手は、ファン投票でDHとして、さらに選手投票で投手としてそれぞれ堂々の選出だったのだ。
この結果を目の当たりにして、MLBとしても二刀流枠を新設せざるを得なかったというわけだ。
【二刀流出場は上層部に委ねていた大谷選手】
ただオールスター戦初選出が決まったばかりの大谷選手は、二刀流出場に決して積極的な姿勢を示していなかった。7月2日のオンライン会見で以下のように話している。
「(二刀流出場は)できないと思うことはないです。
ただDHでの選出ですので、そこで投げるのが適切なのかも正直分からないですし、そういう意味で僕から他の監督(オールスター戦でア・リーグ監督を務めるレイズのケビン・キャッシュ監督)に何か言うことはないです。
もちろん投げて欲しいと言われれば投げると思いますけど、僕から何か言うことはないと思います」
日本人らしい控えめな発言と受けるべきだが、今回MLBが二刀流枠を設けたことで、何の障害もなくなった。これで大谷選手はオールスター戦の舞台でも、心置きなく二刀流にチャレンジできるだろう。
【二刀流出場に対するマドン監督の深慮】
ところで大谷選手がオールスター戦での二刀流出場をキャッシュ監督に委ねていたように、キャッシュ監督もその決定をエンジェルス及びジョー・マドン監督や大谷選手の判断に委ねていた。
その一方で、マドン監督は7月2日の時点でキャッシュ監督と数日前に話し合ったことを認めるとともに、大谷選手とペリー・ミナシアンGMと相談した上でチームとしてのアイディアをキャッシュ監督に伝えることを明らかにしている。
つまり大谷選手は上層部に委ね、キャッシュ監督はエンジェルス及びマドン監督に一任していたということは、裏を返せば、大谷選手の二刀流出場方法を考案しているのは、誰あろうマドン監督なのだ。
実は7月2日のオンライン会見で、マドン監督は以下のように語っている。
「彼がオールスター戦でHRダービーに出場し、さらに翌日の本戦で投げて、さらに打つようなことになれば、そんなことは今まで起こらなかったことだ。
まさにこれは、一生に一度のようなものだ。野球ファンでなくても惹きつけられ、興味を抱くことになるだろう」
マドン監督は以前から、今シーズンの大谷選手の二刀流挑戦について「全米中の子どもたちに、自分たちが彼のようなことをしてみたいと夢を与えるだろう」と話していた。今回の発言にも、二刀流をオールスター戦の大舞台でやらせて上げたいという、マドン監督の深い思いが込められているのだろう。
現時点で大谷選手がどのようなかたちで二刀流出場するのかは定かではない。だがこれまでも選手起用でファンを驚かせてきたマドン監督が、どんなアイディアをキャッシュ監督に伝えたのか、実に興味深いところだ。