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DH解除の大谷二刀流劇場が遂に開演!A・ロッドが予想する大谷フィーバーの予感

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
DH解除の二刀流挑戦のシーズンをスタートさせた大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【まさに歴史的快挙となった今季初登板】

 大谷翔平選手の二刀流完全復活を印象づける衝撃だった。

 MLB移籍後初めてDH解除で今シーズン初登板に臨んだ時点で、すでにその事実だけでもMLBでは歴史的な快挙だった。「2番・投手」として先発するのは、1903年9月7日にカージナルスのジャック・ダンリービー選手以来のこと。実に118年間も起こりえなかったことが、大谷選手によって再現されたのだ。

 さらに1回の第1打席で、初球の真っ直ぐを振り抜き、右翼席に叩き込む第2号先制本塁打を放つと、さらに歴史を塗り替えることになった。1973年にア・リーグでDH制が採用されて以降、本塁打を打った初めての投手になったのだ。

 しかも、だ。この本塁打の打球速度115.2マイル(約185キロ)は、今シーズンすべての打者の中で最速を記録。エンジェルス史上でも2018年にマイク・トラウト選手が計測した116.8マイル(約188キロ)に次ぐ速度だというモンスター級の本塁打だった。

 投手としても圧倒的だった。初回から100マイルを連発。あくまで試合途中の参考記録ながら、速球の平均球速が100.6マイル(約162キロ)だったようで、これもMLBの全先発投手の中で今シーズン最高を記録していた。

 まさに投手、打者としてMLB最高峰にいることを、改めて証明してみせたのだ。

【A・ロッドが予測する全米に広がる大谷フィーバー】

 この日のエンジェルス対ホワイトソックス戦は、ESPNが全米中継していた。

 日本ハム時代の2016年にパ・リーグで初めてDH解除の二刀流に挑戦し、投打にわたり想像を絶する活躍をみせ、日本のファンに与えた衝撃が、遂に全米中に届けられたのだ。

 あまりにインパクトある活躍に、解説を務めていたアレックス・ロドリゲス氏も、以下のような予想を口にしている。

 「これからはオオタニが投げる試合は、プラチナチケットになるだろう。そして彼が投げる度に、球場は満員になるだろうね」

 本拠地、敵地、そしてお気に入りチーム、敵チームに関係なく、米国中の野球ファンが大谷選手の二刀流を目撃したいと球場に集結する──。そんなロドリゲス氏の予想に真実味を感じてしまうほど、この日の大谷選手は光彩を放っていた。

 今後も異次元世界のような活躍を続ければ、全米中で大谷フィーバーが起こることになりそうだ。

【最後まで信頼し続けた指揮官】

 ただ、すべてが完璧というわけにはいかなかった。

 試合前のマドン監督の青写真では「(投手として)90球前後、5~6イニング」を思い描いており、この日の試合展開を考えれば、何とか勝利投手の権利を獲得する5回までは投げきって欲しかったはずだ。

 だがシーズン前のオープン戦で、大谷選手は最多で63球しか投げていなかった。しかも公式戦初登板で投球の強度が上がることを考えると、4回を終え球数が64球に達した時点で、大谷選手の身体に相当の負担がかかっていたのは間違いない。5回が入ると同時に、中継ぎ陣が用意し始めていたのもそのためだ。

 それを物語るように、5回の球速はやや落ち、打者が放つ打球もかなり鋭くなっていたように見えた。

 投手コーチがマウンドに行った後、牽制悪送球で2死三塁を迎え、アダム・イートン選手と対峙する場面で、ロドリゲス氏は「どんな結果になるにせよ、これが(大谷選手にとって)最後の打者になるだろう」と解説していた通り、イートン選手に四球を与えたところで、交代させるというオプションがあったように思う。

 それでもマドン監督はそのまま続投させる判断をし、結果的に逆転を許し、走者と接触し転倒するというアクシデントに見舞われてしまった。マドン監督の温情采配が裏目に出てしまった部分は否めない。

 だがマドン監督の考え方は、まったく違っていた。

 「あの時点でも彼は素晴らしいボールを投げていたし、彼に対し自信も抱いていた。確かに2つの四球を与えてていたが、まだ相手打者にいいスイングをさせていなかった。(交代時期という)評価に同意できない」

 すでに今シーズンの大谷選手に、マドン監督が絶大の信頼を寄せているのは明らかだ。

【今シーズンは基本的に全登板試合でDH解除に】

 というのも、この日大谷選手が完璧なかたちで試合を締めくくるため無理する必要はなかった。大谷選手のDH解除は、今シーズンこれが最後ではないからだ。

 すでにマドン監督が「ナ・リーグなら投手は打席に立つ。ただ違うのは打順が違うだけ」と話しているように、日々の会話で状態確認をしながら最終決断を下すことになるが、大谷投手の登板試合は基本的にDH解除していく方針を打ち出している。

 マドン監督がこのプランに本気に取り組んでいるのは明白で、大谷選手が早期降板した時のリスクを考え、すでに中継ぎ投手陣に打撃練習させていることも明らかにしている。

 つまりDH解除の大谷二刀流劇場は、今まさに開演したばかりなのだ。そしてこの公演は、10月3日まで続く。しかもすべての公演で満員が予想される人気公演なのだから、公演初日から主役に無理させるのは得策ではなかったはずだ。

 とにかく今は、大谷選手がフィナーレまで完走してくれるのを期待している。今シーズンの大谷二刀流劇場は、間違いなく人々に感動と熱狂を与えてくれることになるだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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