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現役オールブラックスSHがNTTドコモにもたらそうとしている“勝ち癖”

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
NEC戦で2トライを奪う活躍を見せた新加入のTJ・ペレナラ選手(筆者撮影)

【伏兵のNTTドコモが開幕2連勝】

 新型コロナウイルスの影響を受け、約1ヶ月遅れで開幕したラグビーのトップリーグ。先週末に第2節を終え、優勝候補と目されている神戸製鋼、パナソニック、サントリーらの強豪チームが順調に開幕2連勝を飾っている。

 そんな中、開幕2連勝を飾った6チームの中に、これまで下位に低迷し続けていたNTTドコモが入っているのだ。

 開幕戦のキヤノン戦では後半終了間際に得たペナルティゴールを決め、26対24で逆転勝ちすると、続く第2節のNEC戦では終始リードを保ちながら38対19で勝利をもぎ取っている。

 2011-12シーズンにトップリーグ初昇格を果たして以来、チームの最高順位は2014-15シーズンの11位。これまで2度の降格を経験し、トップリーグの通算成績も22勝52敗2分けに止まるなど、決して強豪と呼ばれる存在ではなかった。

 それだけこの開幕2連勝はチームにとって大きな価値があるものであり、2試合ともにボーナス点を得ることができず勝ち点の差で、ホワイトカンファレンス3位になっているが、パナソニック、神戸製鋼に続く3位は、まさに大健闘といっていい。

【新体制で臨んでいる今シーズン】

 だからと言って、NTTドコモの開幕2連勝は決してフロックなどではない。彼らがこのオフに、ワールドクラスの選手たちを獲得していることをご存じの方も多いはずだ。

 日本で開催された2019年のワールドカップで南アフリカの優勝に貢献した俊足ウィングのマカゾレ・マピンピ選手、同じくニュージーランド代表としてワールドシリーズに出場していた大型SHのTJ・ペレナラ選手の2人だ。

 またペレナラ選手とともにハーフ陣を形成するSOとして、ウェールズ代表に名を連ねたこともあるオーウェン・ウィリアムス選手も新たに加入。確固たるチームの司令塔を揃えている。

 さらにスーパーラグビーで実績を積んできたヨハン・アッカーマン氏をHCに迎え入れるなど、まさに新体制で今シーズンに臨んでいるのだ。

【2試合出場はペレナラ選手ただ1人】

 ただ今回の開幕2連勝に、前述の3選手がすべて勝利に貢献したというわけではない。ウィリアムス選手はNEC戦に先発出場したものの、マピンピ選手はアッカーマンHCの判断で、2試合とも出場登録すらされなかった。

 つまり2試合ともに出場したのは、ペレナラ選手ただ1人だけだったのだ。それだけ彼の存在感と、チームに与える影響力は計り知れないものであり、2連勝に大きく貢献している。

 キヤノン戦では後半残り5分を切って一度は逆転を許しながら、ペレナラ選手の冷静な判断で、前述の終了間際の決勝ペナルティゴールをお膳立てし、チームを勝利に導いている。

 続くNEC戦でも、後半に相手の反撃を受け流れが悪くなりかけた時間帯で、ペレナラ選手が2連続トライを決め、再び流れを味方に引き戻すことに成功している。

 常勝オールブラックスでSHを務めるだけあって、やはりペレナラ選手の状況把握、試合勘は明らかに卓越したものだった。

NEC戦で交代時にファンに向かって深々とお辞儀するTJ・ペレナラ選手(筆者撮影)
NEC戦で交代時にファンに向かって深々とお辞儀するTJ・ペレナラ選手(筆者撮影)

【ペレナラ選手「トライを取るのはそれほど大事ではない」】

 184センチ、90キロの体格は、SHとしては世界的に見ても大型だ。単にSHとして試合をコントロールするだけでなく、フィジカルを生かした突進力もあり、ラグビー選手としてまさにオールラウンド・タイプといえる。

 それを物語るように、オールブラックスでキャップ数69を誇るとともに、テストマッチで通算14トライも記録している。ここまでNTTドコモでも2試合で計3トライを記録しており、今後もさらにトライを期待できそうだ。

 だがペレナラ選手本人は、あまりトライへのこだわりはないようだ。

 「トライを取るということに関しては、それほど大事ではない。多分SHの誰もトライを取ろうと思って試合に臨む選手はいないだろう。SHとしてまず大事なのはゲームをマネージメントすることだ」

 あくまでペレナラ選手にとってトライは、試合をコントトールする中で生まれる副産物でしかないと考えているのが理解できるだろう。

【チームに示し続けるひたむきなプレー】

 つまりペレナラ選手がチームにもたらそうとしているものは、単にトライを奪ってスコア的にチームを助けるだけではなく、それ以上に試合をコントロールしながらチームとして勝利をもぎ取る集団を作り上げることに他ならない。

 「チームの士気を高めるという点はすごく大事な部分だ。ハーフ陣は他の選手よりコンタクトの頻度が少ないので、その分できるだけそちら(選手を鼓舞する)に注力するようにしている」

 そうしたペレナラ選手の姿勢は、NEC戦で奪った2つのトライにも表れている。いずれも集中力を切らさずボールを追いかけ、ルーズボールをキャッチしてゴールラインまで走り切ったものだった。

 「ラグビーボールのバウンドは予想がつきにくいが、しっかり攻撃的に攻めて追いかければ手に入ることが多い。もちろんそうじゃないこともあるが、それが今日はいい方向に向いてくれた」

 こうしたペレナラ選手のひたむきなプレーは、確実にチーム内にも浸透してくはずだ。まだチームのみならず自分自身も「まだまだ完全ではない」と話すペレナラ選手の言葉には、力強さを感じずにはいられない。

 今シーズンのNTTドコモは、まだまたチームとして進化していくことになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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