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復帰までわずか8ヶ月! リッチ・ヒルが実証してみせたトミージョン手術とは違う新たな術式とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨年10月に左ヒジの手術を受けながら完全復帰を果たしたリッチ・ヒル投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【現役続行に意欲を見せる40歳のヒル投手】

 今も低迷が続くMLBのFA市場だが、ベテランFA選手の1人、リッチ・ヒル投手が現役続行に意欲を見せているようだ。

 40歳で迎えた2020年シーズンは、前田健太投手とともにツインズの先発ローテーションの一角を担い、8試合に登板し、2勝2敗、防御率3.03の成績を残し、チームの地区優勝に貢献している。

 米メディアの取材に応じたヒル投手は、以下のように話し、来シーズンも現役を続けたい熱意を明らかにしている。

 「ワールドシリーズに勝ちたい。その一員になりたい。

 今も自分は申し分ないコンディションを維持していると感じている。もちろんまだまだ(ワールドシリーズを勝つために)多大な貢献ができると思っている」

 今オフは先の読めない状況が続いているが、ヒル投手の希望通り強豪チームと契約できることを願うばかりだ。

【知人から聞き及んでいたヒル投手のヒジ手術】

 この記事を米のスポーツ専門サイトで発見した際、あるMLBチームで働く知人のメディカルスタッフの言葉をふと思い出していた。

 新型コロナウイルスの影響でMLBが活動自粛していた、春のことだった。知人の話してくれた内容は、以下のようなものだった。

 ・ヒル投手が今までと違う術式の左ヒジの手術を受けたこと

 ・この手術はトミージョン手術と違い、短期間で復帰ができること

 ・もしヒル投手が無事に復帰できれば、今後MLBでその手術が注目されることになるかもしれない

 言うまでもなく、今シーズンの成績をみれば、ヒル投手が完全復帰をしているのは明らかだ。そこですぐさまヒル投手の手術について調べたところ、知人が話してくれたとおりのものだった。

【初めて聞いた“プライマリーリペア”手術】

 2019年シーズンはドジャースに在籍していたヒル投手は、昨年10月に左ヒジの手術を受け、術後にMLB公式サイトの取材を受けたものが記事になっていた。

 同シーズンのヒル投手は、左前腕部の屈筋腱損傷との診断を受け、6月下旬から9月中旬まで戦線離脱を余儀なくされていた。だがシーズン終了後に改めて診断を受けた結果、実際は屈筋腱ではなく、左ヒジの内側側副靱帯の部分断裂だと判明した。

 ヒル投手は2011年に同箇所を断裂したためトミージョン手術を受けており、新たに移植した内側側副靱帯が再度部分断裂してしまったのだ。

 このようなケースならば、ヒル投手は2度目のトミージョン手術を受けなければならないと考えられるのが一般的だろう。だが昨年の時点で39歳だったヒル投手がトミージョン手術を受け、リハビリのため2020年シーズンを棒に振るのは、現役生活を継続する上でも相当なリスクがある。

 そのためヒル投手が選んだ手術が、“プライマリーリペア(primary repair)”という手術だった。

【復帰までわずか8ヶ月】

 この手術は新しい靱帯を移植するのではなく、損傷した靱帯の内部にテープを通し、“内部支柱(internal brace)”をつくり、損傷箇所を補強するというものだ。

 損傷した靱帯にテープを挿入するだけなので、別の場所から靱帯を摘出し、骨に穴を空けて新しい靱帯を移植するトミージョン手術よりも、身体的負担が軽いというのが特徴だ。

 記事によれば、この手術を受けたヒル投手は、手術後3ヶ月後の1月にはキャッチボールを再開でき、6月に実戦に復帰できると説明を受けていた。つまり手術から次戦復帰までわずか8ヶ月で、復帰まで12~18ヶ月と言われるトミージョン手術よりも短期間で復帰することができるというものだ。

 そして今シーズンのヒル投手が、その手術の効果を実証してくれたわけだ。

【ベテラン投手には理想的?】

 確かにヒル投手が術後9ヶ月(短縮シーズンのため実際は7月から試合で登板)で完全復帰を果たしているのだが、現段階ではテープで補強した損傷箇所の強度がどの程度保たれるのかは未知数だ。

 補強したテープの効果が短期間でなくなってしまうようであれば、やはり新しい靱帯を移植するトミージョン手術の方が有効性は高いということになってくる。

 ただ今回のヒル投手のように、現役生活をあと何年続けられるか分からないようなベテラン投手には、長期間のリハビリを余儀なくされるトミージョン手術よりも、短期間で復帰できるプライマリーリペア手術を選択したいと考えるのは至極当然だと思う。

 果たしてプライマリーリペア手術は、今後MLB界でさらに認知されていくことになるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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