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すでに伝説に? 定価1万6000円の元NFL選手記念ジャージーが販売開始後数分で完売してしまったワケ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
人種差別の抗議活動参加者の中にはキャパニック選手のジャージーを着用する人が多い(写真:ロイター/アフロ)

【ナイキ社がキャパニック選手の記念ジャージーを販売】

 米Yahoo!が9月18日報じたところでは、ナイキ社が元NFL選手のコリン・キャパニック選手の記念ジャージーを同17日朝から販売を開始したところ、販売開始数分で売り切れてしまう人気ぶりだったという。

 この記念ジャージーは、キャパニック選手が現役時代に、米国内の人種差別と社会的不平等に抗議することを目的に、公式戦試合開始前の国歌斉唱時に片膝をつく行為を行ってから4年が経過したことに敬意を表し販売されることになった。

 このジャージーは全面黒で、背中にはキャパニック選手の名前と現役時代に使用していた7番がデザインされている。また首回りの内側には「true to 7(7への忠実)」という文字もあしらわれている。

【キャパニック選手のSNSにメッセージを投稿】

 今回の記念ジャージー販売に合わせて、キャパニック選手自身もジャージーの画像とともに、メッセージをインスタグラム上に投稿している。

 メッセージの全文は以下の通りだ。

 「4年前、自分は社会構造的な人種差別と社会的不平等に抗議するため膝をついた。その日から私のジャージーにあった背番号は、フットボールや自分の存在をはるかに上回る存在になった。

 それ以来7番という数字は、黒人社会の改善と解放を推し進めるシンボルになった。真実を見つめ続けてくれていることに感謝したい」

 米Yahoo!の記事には、今回の記念ジャージーがどれほどの数販売されていたのかなど、詳細が報じられていない。だが定価は150ドル(約1万6000円)と高額だったのにかかわらず、数分で完売したことからも、今もキャパニック選手が米国社会で大きな影響力を有しているのが窺い知れるだろう。

【今も人種差別抗議活動の象徴的存在】

 今年のテニスの全米オープンで大会2度目の優勝を果たした大坂なおみ選手が、警官に射殺された黒人被害者の7人の名前をあしらったマスクを着用して登場してくる抗議活動を実施し、日本でも話題となったのはつい先日のことだ。

 大坂選手に限らず、現在の米国のスポーツ界では黒人アスリートを中心に、多くのアスリートたちが人種差別に抗議する発言や活動に力を入れている。

 また社会全体でも、今年5月にミネソタ州で起こった白人警察官による黒人男性暴行死事件に端を発し激しい抗議活動が巻き起こり、さらに8月になってウィスコンシン州で白人警官による黒人発砲事件が起こり、抗議活動がまったく沈静化する様子は見られない。

 抗議活動は一部で暴動化するなど、今も社会問題になっているが、こうした抗議活動の象徴的な存在になっているのがキャパニック選手だ。人々は抗議活動の一環としてキャパニック選手同様に片膝をつく行為を行い、また抗議活動を取り締まる警官たちも片膝つき行為を行い、活動に参加する人々と敬意を示すようなになっている。

【政治的なイメージがNFL復帰の障害に?】

 ちなみにキャパニック選手は現役引退を表明しておらず、現在もNFL復帰を目指している。

 すでに本欄でも報告しているように、このオフにシーホークス関係者からなどキャパニック選手の獲得に興味を示すチームの存在が明らかにされるなど、4年ぶりのNFL復帰が期待されていたが、シーズンが開幕した今でもキャパニック選手の所属先は決まっていない。

 今やNFL選手の枠を超えて社会的影響力を持つ存在になったキャパニック選手だけに、獲得に二の足を踏むチームが存在してもおかしくはない。

 果たしてキャパニック選手は、再びNFLのグラウンドに立つことができるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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