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最下位を脱出したオリックスがすでに投手王国の道を歩み始めている確かな物的証拠

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今やオリックスの絶対的エースとして投手陣を支える山本由伸投手(筆者撮影)

【シーズン開幕から続く“打高投低”傾向】

 日本野球機構(NPB)が、シーズン開幕してから約1ヶ月が経過した。

 ここまで顕著に表れているのが、“打高投低”傾向だ。ここまで7月13日時点で、各チームのチーム防御率を見てみると、セ・リーグで3チーム、パ・リーグで4チームが4.00を上回っている(中日に至っては5.05)。

 昨シーズンはセ・パ両リーグでチーム防御率が4.00を上回っていたのは3チーム(ヤクルト、オリックス、西武)のみだったことを考えると、開幕から激しい乱打戦が続いていると考えていい。

【完投率はわずか1.7%】

 そうした傾向に伴い、各チームの投手起用法も確実に変化してきている。すでにNPBでも投手の分業制が叫ばれて久しいが、さらにその傾向を強めている。

 ここまで119試合が実施され、雨天コールド試合だった7月4日のロッテ対楽天戦、同10日の阪神対DeNA戦を除いた、全チームにおける先発投手の完投状況を調べたところ、完投率は1.7%に留まっている。

 これは昨シーズンの2.9%をさらに下回っており、ほぼ昨今のMLBとほとんど変わらない状況になっている(ただしMLBは2018、2019年では1%未満まで低下している)。

 つまり現在のNPBはMLB同様に、もう“先発完投型”という考え方は完全に古く、如何に中継ぎ陣を使い分けながら試合を作っていくか、という時代に移行しているのだ。

【中継ぎ陣を生かすのも先発陣次第】

 だが逆の見方をすれば、シーズンを通して中継ぎ陣をフル回転し続ければ、必ず疲弊し崩壊してしまう。彼らを効果的に起用していくには、中継ぎ陣の起用を少しでも抑え、彼らに休養を与えられる、安定して長いイニングを投げられる先発投手が必要になってくる。

 現在では先発投手は6イニング以上、3失点以下の登板試合で、クオリティ・スタートとして評価される。しかし6イニングまでの登板では、基本的に残りイニングで3人の中継ぎ陣が必要になってくる。先発投手がさらに長いイニングを投げてくれれば、それだけ中継ぎ陣の起用を最少人数に抑えることができるわけだ。

 現在のNPBでは、先発6人でローテーションを回すのが基本的だ(日本ハムのようにオープナーを採用するチームもある)。1週間の6連戦を6人の先発投手で乗り切るかたちになる。

 そうなってくると、1週間の中で先発投手の2人以上が7イニング以上投げてくれれば、相当楽に中継ぎ陣を回していけるようになる。メディアなどでは“表ローテ”と“裏ローテ”という表現を使うが、表で1人、裏で1人、7イニング以上投げる先発投手が現れるのがより理想的といえる。

【すでにNPBトップクラスのオリックス先発陣】

 そこで下記の表をチェックして欲しい。

(筆者作成)
(筆者作成)

 チームごとに先発投手が7イニング以上投げた試合数と投手数をまとめたものだ。試合数と投手数が違うのは、1人の投手が複数回達成しているためだ。

 試合数、投手数が少なければ、その分チームは中継ぎ陣をフル回転させていることを意味する。その分シーズンが進行していけば、中継ぎ陣は疲労を蓄積していくことになる。

 そこで気づいて欲しいのが、オリックス先発投手陣の充実ぶりだ。開幕当初はロッテ相手に6連敗を喫し、厳しいスタートを切ったオリックスだったが、実は先発陣はすでにNPBトップクラスの安定感をみせているのだ。

 実は7月10日からソフトバンク先発陣が3試合連続で7イニング以上投げているので、投手数では抜かれてしまったが、それまで試合数、投手数ともにリーグトップを走っていた。

 それを裏づけるように、今シーズン先発投手のみの防御率では3.35と、リーグで唯一3点台に留まっている(資料元:『データで楽しむプロ野球』)。

【無理をさせないオリックスの投手起用法】

 しかもオリックスは、7イニング以上投げる先発投手に決して無理をさせていない。

 セ・リーグでは広島が試合数、投手数ともにリーグトップにランクしているが、7試合中4試合で先発投手が110球以上(最大で136球)投げている一方で、オリックスでは6試合中110球以上投げた先発投手は、7月12日リーグ初の完投勝利を飾った山本由伸投手(119球)ただ1人だ。それだけ次回登板に影響が及ばない範囲で7イニング以上投げさせているということになる。

【すでに中継ぎ陣も復調の兆し】

 オリックス先発陣がここまで安定している最大の要因は、山本投手が絶対的エースとしてローテーションを支えているかに他ならない、彼が常に7イニング以上投げていることを前提に、他の先発投手が7イニング以上投げられるようになれば、前述通り、その週の6連戦は無理なく中継ぎ陣を回すことができるのだ。

 ここまで中継ぎ陣の防御率は4.44とリーグ5位に沈んでいるが、それを立て直す上でも中継ぎ陣に休養を与えられる先発陣が重要になってくる。実は6連敗後の6月30日以降では、12試合中10試合で先発投手は5イニング以上、4試合で7イニング以上投げており、中継ぎ陣の負担はかなり減ってきているのだ。

 しかも7月11日に初勝利を飾ったタイラー・ヒギンス投手が8回を任せられるような存在になれば、さらに中継ぎ陣は安定していくはずだ。

今季初勝利を挙げたタイラー・ヒギンス投手(筆者撮影)
今季初勝利を挙げたタイラー・ヒギンス投手(筆者撮影)

 それに脇腹痛のため先発2試合目で戦線離脱した、昨年の最高勝率投手の山岡泰輔投手が復帰してくれば、さらに先発陣は充実することになる。

 今シーズンのオリックス投手陣は、かなり面白い存在になりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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