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なぜWBCが2023年以降まで延期されてしまうのか? MLBならではの理由を考える

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
この光景は2023年までお預け?(筆者撮影)

【WBC延期を報じたESPN】

 MLBの2020年シーズンの実施案がオーナー会議で承認され、いよいよシーズン開幕に動き出そうとする中、来年開催予定だった第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が延期される見通しとなった。

 第一報を報じたのは、ESPNのエンリケ・ロハス記者。彼の記事によれば、WBC関係者の話として、来年のWBCは一端中止にし、早くても次回開催は2023年になるとの見通しを明らかにしている。

【延期は既定路線?】

 実はすでにWBCの延期が、既定路線だった部分は否めない。

 というのも、2月の時点で本欄でも紹介しているように、来年の本大会を前に、今年3月に12ヶ国による予選ラウンドがアリゾナで開催される予定だった。

 しかし新型コロナウイルスの感染拡大でMLBがスプリングトレーニングの中断を決定したことにより、予選ラウンドも中止に追い込まれていた。

 当然のことだが、この予選ラウンドで出場国を決定しなければ本大会を開催することはできない。仮に来年予選ラウンドと本大会を同時開催しようとしても、スプリングトレーニングの短期間で、すべての日程を消化するのは不可能といっていい。

 それ以上に重要なのは、WBCがMLBと選手会の共催イベントだということだ。現在両者は2020年シーズンの開幕をどうするかで手一杯の状態であり、ロハス記者に語った関係者の言葉を借りれば、「(WBCは)現時点で重要なものではない」のだ。

【労使協定がネックに】

 それでは東京五輪のように1年ずらして、2021年予選ラウンド、2022年本大会にすれば良さそうなものだが、なぜ2023年以降まで開催できないのだろうか。

 これはMLBと選手会の間で厳しいルールがあるからだ。数年ごとに更新される統一労働規約(Collective Bargaining Agreement)、いわゆるCBAの存在だ。

 CBAは選手の最低年俸や契約金など労使関連のルールを決めるだけでなく、CBA期間中に実施される国外試合の開催場所や時期なども明確に決められている。

 昨年日本で7年ぶりにMLB開幕戦が実施され、日本のファンの目前でイチロー選手が現役生活を締めくくることになったが、あの試合もCBAで合意されていたものだ。

 この現行CBAが2021年12月で失効してしまうため、現行CBA期間内でのWBC開催は不可能になってしまうのだ。前述通り、WBC関係者が「延期」ではなく「中止」という言葉を使っているのはそのためだ。

【順調なら2022年予選ラウンド、2023年本大会】

 つまりWBCを開催するためには、新しいCBAにMLBと選手会が合意しなければならないということだ。

 労使交渉が順調に進み、現行CBAの失効前に合意できれば、2021年12月から新しいCBAの下、MLBが動き出すことになる。そうなれば2022年予選ラウンド、2023年本大会──という流れになるので、関係者証言通りというわけなのだ。

 すべてCBAで規定されているMLBならではの日程変更といえるだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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