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NPBやJリーグとは全く違うNBAが果たそうとしている“社会的責任”とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
NBAが新たに開設した新型コロナウイルス関連サイト(サイト画面を抜粋)

【NBAが選手会と協力し新キャンペーンを立ち上げ】

 日本国内における新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、開幕時期、シーズン再開時の白紙を決定したNPBとJリーグだが、今回の決定にあたり両リーグが連携して実施した「第5回新型コロナウイルス対策連絡会議」で、専門家から両リーグに対し「社会的責任」という側面から更なる延期を進言されたのが大きな判断材料になったとされている。

 だが国内2強の人気プロリーグが果たすべき社会的責任とは一体何なのか。公式戦を延期することで、その役割を本当に果たせているのだろうか。

 米国では、4大プロリーグの1つであるNBAが選手会と協力して、新型コロナウイルス対策の新たなキャンペーンを立ち上げた。キャンペーンを告知する目的もあり、人気選手らのメッセージを集めた動画を公開している。

【NBAが知識を広めるプラットホームに】

 今回のキャンペーンに合わせ、NBAは新たな公式サイト「NBATogether.com」を開設している。NBAはこのサイトを通じて、緊急事態を迎えている米国民を叱咤激励するとともに、人々に新型コロナウイルスについての知識を広めるプラットホームになろうとしている。

 サイト内では新型コロナウイルス関連の各種情報を公開しているのだが、その中には選手たちが専門家相手に新型コロナウイルスに関する質問をぶつける動画も含まれている。

 またリーグやチーム、選手たちが行っている社会活動などを紹介するとともに、人々に娯楽を提供するため、選手によるSNSを使った生配信スケジュールを告知。

 まさにこのサイトは、人々が一体となってこの難関を乗り切ろうとする、NBAの姿勢を表したものだといっていい。

【NBA以外でも続くスポーツ界全体の社会活動】

 こうした活動はNBAに限ったことではない。すでに日本でも報じられているように、MLBやNHLなど各リーグ、チーム、選手たちがシーズン中断で職を失ったスタッフの金銭補償に乗り出し、新型コロナウイルスと戦う地方行政(選手の出身地やチームの本拠地など)に献金するなどの活動を続けている。

 さらにリーグのみならず関連企業の「Fanatic」(スポーツ関連アパレル製造業)や「New

Balance」(シューズを中心にした総合スポーツグッズ製造業)なども、通常業務を中断し、マスクや医療用ガウンの製造を行うなど、スポーツ界が一丸となって新型コロナウイルスに立ち向かおうとしている。

【日本のリーグの内向性】

 改めて日本に目を転じてみよう。

 現在日本国内でも7都府県に非常事態宣言が出されるほど新型コロナウイルスの感染が広がっていく中、これまでNPBやJリーグは社会に向けどんなメッセージを発信してきただろうか。

 これまでの彼らの発言を見聞きする限り、自分たちがこの事態にどう対処すべきか、という内向的思考に閉じこもっているようにしか思えない。

 スポーツが人々にとって大切なエンターテインメントであることは、日米に変わりはない。そしてスポーツというものが人々の安全が担保されない限り成立できないということも、まったく同様だ。

 今回の一件で、各リーグは間違いなく甚大な損害を負うことになるだろう。だが彼らだけでなく、スポーツを愛する人々も同様の苦しみを味わっているのだ。

 米国の主要リーグのように、多額の金額を寄付しろと訴えているのではない。日本でもそれぞれのリーグが、自分たちのやり方で社会的責任を果たせるはずだと感じているだけだ。

 今こそリーグが率先して、新型コロナウイルスに立ち向かう姿勢を見せるべき時ではないだろうか。 

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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