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コービー・ブライアントをはじめ人気アスリートたちの命を奪った自家用機事故のやり切れなさ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
コービー・ブライアント氏の死を悼むロサンゼルスの人たち(写真:ロイター/アフロ)

【世界中を駆け巡ったブライアント氏の訃報】

 コービー・ブライアント氏のあまりに突然の死は、まさに世界に衝撃を与えた。

 NBAを代表するスター選手として世界中にファンを擁し、これまでエンドースメント契約を含め総額約8億ドル(『Forbes』誌調べ)を稼ぎ出した人物だけに、現役引退後も米国はもとより、世界中に影響を与えてきた人物だった。

 すでに日本でも大々的に報じられているが、今回の痛ましい事故は昨年自身が開設した『マンバ・スポーツ・アカデミー』で実施されるバスケの試合に向かう途中で起こったものだった。

 英雄を失ったロサンゼルスの街は、すっかり悲嘆に包まれている。NBAもそうした状況を考慮してか、1月29日にロサンゼルスで予定されていたレイカーズ対クリッパーズ戦の延期を発表している。

 改めてブライアント氏や愛娘のジアナさん、さらにパイロットを含めた同乗者の方々のご冥福を祈りたい。

【自家用ヘリを愛用していたブライアント氏】

 今回の報道で明らかになったことだが、墜落したヘリコプターはブライアント氏が所有していたもので、以前からヘリコプター移動を頻繁に利用していたようだ。

 ブライアント氏を長年取材してきたメディアの人々も、現役時代も自宅近くの空港からブライアント氏が所属していたレイカーズの本拠地アリーナまでヘリコプターで移動していたと証言している。

 ブライアント氏が自宅を構える高級住宅街から、アリーナのあるロザンゼルスの中心街までは激しい交通渋滞に見舞われるケースが多く、彼にとってヘリコプター移動はかなり重宝するものだった。

 ただ事故直後の映像を見る限り、現場周辺の上空はほとんど視界の効かないほどの濃霧に包まれていた。現地のTV報道でも、フライトするには不向きな天候不良だったと指摘している。普段から日常の移動手段として利用していたこともあり、多少の油断はなかったのだろうか。

【人気アスリートのステータスでもある自家用機】

 自家用機を使うのは、ブライアント氏が特別なわけではない。高額契約を手に入れ、スケジュールに忙殺される人気アスリートなら、時間的融通が利く自家用機やプライベートジェットを使って移動するのが一般的だ。

 中にはパイロットライセンスを取得し自ら自家用機を操縦するなど、フライト自体を趣味にするアスリートも少なくない。ある意味高額所得者の仲間入りをした一種のステータスといっていいだろう。

 だがその一方で、そうした自家用機などを愛用するアスリートたちの痛ましい事故も起こっている。

【不遇の事故死に見舞われたアスリートたち】

 自分が記憶する限りでも、以下のアスリートたちが不慮の自家用機(もしくはプライベートジェット)事故で命を落としている。

 ●ロイ・ハラデー(享年40)

 昨年野球殿堂入りを果たした、通算203勝の右腕投手。現役引退後の2017年11月7日、フロリダで自家用機を操縦中メキシコ湾に墜落して死亡。

 ●コーリー・ライドル(同34)

 メッツを皮切りにMLB7チームを渡り歩いたユーティリティ投手。ヤンキースに在籍していた2006年10月11日、小型飛行機を操縦中ニューヨークの市街地に墜落して死亡。

 

 ●ペイン・スチュワート(同42)

 4大トーナメント3度の優勝、PGAツアー11勝を記録し、ハンチング帽とニッカボッカーの半ズボン姿で人気を博したプロゴルファー。1999年10月25日にトーナメント間の移動でプライベートジェットを利用したところ、機内に異常が発生し、搭乗者全員が意識不明に陥り墜落して死亡。

 ●サーマン・マンソン(同32)

 1977年からワールドシリーズ連覇を達成したヤンキースで主将を務めていた捕手。1979年シーズン中のオフ日(8月2日)に、小型飛行機の着陸練習を行っている際に墜落して死亡。ヤンキースはすぐに彼が使用していた15番を永久欠番にする決定を下した。

【事故死の悲しさとやり切れなさ】

 念のため断っておくが、ここで自家用機やプライベートジェットの安全性を疑問視しているのではないし、アスリートたちが自家用機やプライベートジェットを使用するべきでないといっているのでもない。

 むしろ今後も彼らはそれらを利用し続け、自ら操縦する人たちも後を絶たないだろう。それは重々理解していることだ。

 ただブライアント氏をはじめ、ここに挙げたアスリートたちの訃報に触れる度、本当に彼らが天寿を全うできたのか、なんともやり切れない気持ちを抑えきれないのは自分だけではないだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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