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LDHが総合演出! 娯楽性を増した大阪エヴェッサホーム試合の全貌に迫る

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
まるでライブコンサートのような選手紹介シーン(筆者撮影)

【遂にヴェールを脱いだLDHの総合演出】

 シーズン開幕前に、今シーズンのホーム全試合をEXILEらの人気アーティストを抱えるLDHに総合演出を委託したことを発表した大阪エヴェッサ。10月13日に実施された琉球ゴールデンキングスとのホーム開幕戦で、遂にそのヴェールを脱いだ。

 さすがに所属アーティストのライブクリエイティブを手がける『TEAM GENESIS』の演出だけに、ライブコンサートの雰囲気をそのままバスケットのコートに持ち込んでおり、試合前セレモニーに新たな娯楽性を生み出している。

【ライブ演出技術をフル活用したライブ付きセレモニー】

 試合前に行われた選手紹介セレモニーは、さながらライブコンサートを彷彿させるようなものだった。セレモニーの始まりからレーザー光線やプロジェクションマッピングなどのライブ演出技術をフル活用。明らかにアリーナはライブ会場と化していた。

 また今回はホーム開幕戦だったこともあり、LDH所属の『BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE』が参加。セレモニーでは選手紹介前にミニライブを披露し、場内の空気を盛り上げた。

LDH所属アーティストがミニライブを披露(筆者撮影)
LDH所属アーティストがミニライブを披露(筆者撮影)

 ミニライブから選手紹介に至るまで、様々な演出が施されており、セレモニーだけで1つの完成されたエンターテインメントとして確立していた。間違いなくエヴェッサのホーム試合に新たな付加価値をもたらしている。

 今回はLDH所属アーティストの参加でセレモニーに華を添えることになったが、エヴェッサによると、今後もセレモニーにはライブ感覚を取り入れていく予定で、エヴェッサ所属のガールズパフォーマンスユニット『BT』がミニライブを担当していくという。

【エヴェッサ選手たちにも好評価】

 LDHの総合演出を初めて体験した、エヴェッサの選手たちも好意的に受け取っている。

 まず橋本拓哉選手は以下のように感想を述べている。

 「今は千葉さんとかも(プロジェクション)マッピングやっているじゃないですか。たぶんウチの方がヤバイでしょ(笑)。以前のシーズンとかアウェー(の試合)に行った中でも、やっぱりウチが一番派手で、すごい演出をしているんじゃないかなと思いますし、僕ら的にもモチベーションの1つになります」

プロジェクションマッピングをフル活用するセレモニー(筆者撮影)
プロジェクションマッピングをフル活用するセレモニー(筆者撮影)

 これまで過去10シーズンにわたり計6ヶ国の欧州リーグに在籍してきた、新加入のリチャード・ヘンドリックス選手は「こんな演出は今まで体験したことがない」とした上で、以下のように歓迎している。

 「バスケットの試合でこのレベルのエンターテインメントを体験したことはない。見た限りでは家族みんなが楽しめる雰囲気を醸し出していると感じた。選手として慣れるのにちょっと時間がかかるかもしれないが、とにかく壮観なものだったし、自分もファンが楽しめる雰囲気に中でバスケットができることに高揚している」

【米国では+αを加えるのは常識】

 スポーツ産業の先進国である米国では、スポーツ観戦はライブコンサートなどのエンターテインメントと同じカテゴリーとして捉えられている。それだけにMLBやNBAなどの人気プロリーグでは、毎年のように最新技術を取り入れながらファンを盛り上げる試合演出に取り組んでいる。

 さらに単に試合を提供するだけでなく、試合後に人気アーティストのライブコンサートや映画上映会を実施するなど、スポーツ興行の枠を飛び出し、より一層エンターテインメントビジネスとしての歩みを強めている。

 エヴェッサも開幕戦に限らず、今後もLDH所属アーティストの参加を計画しており、コアなブースター以外のライト層の集客に繋がる可能性は十分にありそうだ。

【垣間見られた不安要素】

 エヴェッサの新しい試みはBリーグが日本に浸透していく上で歓迎すべきことだが、だがその一方で、多少の不安要素も垣間見られた。

 それはアリーナの設備環境の問題だ。

 今回の試合前セレモニーで感じたことだが、LDHのライブ演出を最大限に引き出せていなかった。ミニライブではアーティストの歌声がこもり歌詞がよく聞き取れないし、選手紹介のアナウンスも同様だった。これは音響施設がライブ仕様に対応していなかったためだ。

 またセレモニー中は演出のためアリーナ内の照明を消すことになるが、古い照明施設のため、再点灯するたびにある程度の時間を要してしまい、セレモニーから試合に移行する動線にどうしても細切れ感が生じていた。

【地方行政の協力が必要不可欠】

 だがこれらを改善していくには、エヴェッサだけでは無理だ。

 エヴェッサの本拠地アリーナは大阪市の所有物であり、アリーナの設備管理はすべて市に委ねられている。つまり大阪市が協力してくれない限り、セレモニーの質を向上させるのは難しいわけだ。

 米国では各都市が、地元に大きな経済効果をもたらすプロスポーツチーム誘致に積極的に取り組んでいる。そのために最新のアリーナやスタジアムを建設し、施設を建設した後も設備投資を行い、最新の装備を調える。

 そうした最新装備の施設を用意しておけば、チームは残り続けてくれるし、ライブコンサートや他イベントにも対応でき、施設をフル稼働することができるからだ。

 エヴェッサのみならず、Bリーグ発展のためには地方行政の協力が必要不可欠だ。エヴェッサの試みがさらに広がっていくためにも、ぜひ官民一体となって日本のスポーツ観戦環境を見つめ直して欲しい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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