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今シーズンの滋賀の躍進と日本代表の未来を託されたシェーファー アヴィ幸樹が果たすべき成長

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
実戦経験を積む場を求めて滋賀に移籍したシェーファー アヴィ幸樹選手(筆者撮影)

【まさかのアーリーカップ1回戦敗退】

先週末のアーリーカップは、滋賀レイクスターズにとって悪夢のような出来事だったはずだ。

1回戦でB2のバンビシャス奈良と対戦し、ゲーム序盤から奈良に主導権を奪われると、そのまま反撃の糸口を掴めないまま80―102と大敗したのだ。この大会で3試合戦うことを計算に入れていたショーン・デニスHCは「(開幕までの)実戦が2試合減ってしまった。練習で補っていくしかない」と厳しい表情を浮かべた。

【勝敗を分けたのはチーム状態の差】

この試合の勝敗を分けたのは、チーム状態の差だった。スコアからも明らかなように、チームとしての仕上がり度に格段の差があったのは明らかだった。B1に先駆け、今週末からシーズン開幕を迎えるB2の奈良に対し、一方の滋賀は、諸事情により準備不足の面があった。

デニスHCは「なんの言い訳にもならない。奈良が勝ちに相応しいプレーをしていただけ」と話しているが、実はすべての選手が揃っての練習がわずか1日しかなったのだ。しかも1日しか練習できなかったのは新加入のフロントコート2選手だったのだから、むしろチームとして機能しろという方が酷な状況だった。

その2選手の1人が、最後に滋賀入りが決まったシェーファー アヴィ幸樹選手だ。

【滋賀が求めていた最後のピース】

シェーファー選手といえば、アメリカ人の父と日本人の母を持つ兵庫出身の21歳で、205センチ、106キロというバスケ選手として恵まれた体格を有する、将来を嘱望された若手有望選手の1人だ。

昨シーズンはNCAAディビジョン1のジョージア工科大学に所属していたが、シーズン途中にアルバルク東京に電撃移籍。しかしリーグ2連覇を達成した東京では選手層の厚さから出場機会に恵まれなかったこともあり、活躍の場を求めて滋賀に期限付きレンタル移籍することになった。

シェーファー選手の移籍が決まるまで、滋賀には200センチを超える選手が新加入のチャールズ・ローズ選手しかおらず、フロントコートのコマ不足は明らかだった。まさにシェーファー選手は、滋賀が今シーズンを戦うために必要不可欠な最後のピースだったといえる。

【デニスHCも主力の1人として期待大】

シェーファー選手は今回のレンタル移籍移籍について、以下のように説明している。

「頼られるチームに行きたいというのがあったのでここに来たわけですし、リバウンド、ディフェンス、ブロックなり何でもインサイドの仕事をこなして、スクリーンをかけたりだとか存在感を出さないといけないと思っています。

実際(このチームで)僕が一番身長が大きくて、実際5番というのは僕とチャールズだけだと思うので、そういう意味ではだいぶ期待も感じているので、もっと存在感を上げていけなきゃとは思っています」

もちろんデニスHCも、シェーファー選手の活躍を大いに期待している。

「彼は我々にとって大きな助けになるだろう。彼のサイズは、昨シーズンの我々に無かったものだ。ここではしっかり出場時間を得ることになる。

現時点では15分から20分程度の出場を期待しているが、外国籍選手たちとの間でいい強度が生まれてくるようになれば、さらに出場時間が増えていくことになるだろう」

【絶対的に不足している実戦経験】

現在のシェーファー選手を形容する上で、すでに単なる“若手有望選手”という域を超えているのかもしれない。

すでにご承知かと思うが、彼が滋賀の練習に1日しか参加できなかったのは、日本代表選手の1人としてFIFAワールドカップに参戦していたからだ。もちろん来年の東京五輪でも、主要な代表入り候補選手の1人に数え上げられる。

残念ながら今回のワールドカップでは、出場時間に恵まれなかった。その最大の理由こそ、絶対的な実戦での経験不足だった。そのため出場時間が確約された滋賀に移籍し、今シーズンはじっくり実戦経験を積み重ねていく道を選択したのだ。

「Bリーグでは外国籍選手はほぼみんなビッグマンが揃っているので、その中で(NCAAの)ディビジョン1でプレーしたり、NBAで経験している選手も多いので、ビッグマンのレベルはすごく高い。

そういう中で揉まれるのはすごくいいなと僕は思っていて、自分自身は経験が足りないというのを感じていて、代表活動中でもずっとプレータイムが少なかったので…。

そういう意味ではこの1年間経験を積めたら、来年のオリンピックはもちろん、次のシーズンだったり、次の代表活動だったりに繋がって、だいぶ成長できるかなと思います」

【東京五輪に“選ばれる”のではなく“結果を出す”こと】

この夏はまずB代表としてウィリアム・ジョーンズカップに出場し、そこでのプレーが評価されワールドカップ直前のA代表合宿にも召集されたシェーファー選手。最終的にA代表に選出されたことも、「残る自信はあったので驚きはなかったです」と言い切る。

だがその一方で、代表を活動を通じて「すべてにおいて足りないものがあった」ことも痛感させられた。ドリブルやシューティングの技術は練習を積み重ねることで向上できるが、リバウンドに負けないように如何に身体を使っていくことなど、やはり実戦の中でしか学んでいけない部分の方がはるかに多い。

「僕の意識としては東京五輪に残るというより、東京五輪で結果を出すかにシフトチェンジしているので、そのためにはとにかく成長しなくてはいけないので、まだまだ全然足りないと思います」

今シーズンの滋賀の躍進のみならず、日本代表の未来を見据えるためにも、今シーズンのシェーファー選手の成長に目を向けていかなければならないだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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