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八村塁が登場した今だからこそ見つめ直したい日本バスケ界の育成環境

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今後も日本バスケ界から第2、第3の八村塁選手は登場するのだろうか?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【八村塁が日本バスケ界を明るい未来へと導く】

 八村塁選手が日本人として初めてNBAドラフトで1巡目指名を受けて以来、今もなお連日のように関連報道が後を絶たない。

 ここ数年、日本バスケ界には追い風が吹き続いている。FIBAから問題視されたリーグ統合問題がようやく解決され、2016年にBリーグが誕生すると、日本代表チームも徐々に強化が進み、昨年21年ぶりにFIBAワールドカップ地区予選を突破した。

そうした地道な活動がようやく実を結び、最終的には念願だった東京五輪の出場がFIBAから認められることになった。そんな日本バスケ界の明るい未来を象徴する人物こそ、八村選手だといえるだろう。

【今こそ傾聴すべき田臥勇太の金言】

 改めて八村選手が日本バスケ界の歴史に新たな1ページを加えたという快挙は、賞賛してもしきれないくらいだ。だが時折メディアの中で使用されている、“日本バスケ界が輩出した”という八村選手の形容表現は、やや現実味を欠いていないだろうか。

 これまで八村選手が登場するまで、日本人初のNBA選手になった田臥勇太選手をはじめ、富樫勇樹選手、渡邊雄太選手らがNBAに挑戦してきた。そうした彼らもまた、八村選手のように高校や大学から米国の地に飛び込んでいった。彼らはどちらからといえば、“日本バスケ界が輩出した”というよりも、本来は“米国バスケ界で鍛えられた”選手たちだ。

 そこでNBA挑戦の先駆者である田臥選手の言葉に耳を傾けて欲しい。彼は八村選手について以下のように話している。

 「(ゴンザガ大に入ったことで)戦う姿勢をアピールするようになった。日本のままだと違った。自分を表現する力、バスケットの捉え方などが自然に身に付いたのでは」(日刊スポーツ電子版6月21日)

 自分なりに田臥選手の言葉を受け止めると、八村選手がゴンザガ大進学を選ばず日本に留まっていたならば、彼がドラフト1巡目指名を受けるような選手になれたかは疑わしいということになる。

【現在の日本の育成環境は理想的なのか?】

 今や八村選手に限らず、日本国内には多くの若手有望選手たちが早い時期から米国を目指すという潮流が拡大し始めている。例えば中学時代から代表候補合宿に招集され、将来の日本代表ガートとして期待されている田中力選手はIMGアカデミー(高校)に進学している。

 さらにBリーグの滋賀レイクスターズはつい先日、ユースチーム所属の選手を選抜し、NBAマーベリックスの育成キャンプに派遣することを発表。これを機に、ユース選手を毎年派遣できる環境を整備しようとしている。

 繰り返すが、八村選手の登場が日本のバスケ界に明るい未来をもたらしているし、彼が特別な存在であるのは間違いない。だが八村選手の競技人生には限りがあるし、彼が未来永劫バスケ界を支え続けることはできない。今後も第2、第3の八村選手が登場してこなければ、日本バスケ界が繁栄し続けることは不可能だ。

 その意味でもこうした潮流が広がっているのは嬉しい限りだが、少し視点を変えれば、現在の日本バスケ界は若手有望選手を育成する上で十分な環境ではないという裏返しにならないだろうか。

【長身選手の起用法で生じるプロアマ格差】

 ここ2年間Bリーグの取材をしてきて感じているのが、長身選手の起用法におけるプロとアマの格差だ。毎シーズン多くの現役大学生が特別指定選手としてBリーグにやってくるが、プロとしては3番向きながら、大学では4番や5番として起用されている選手たちを複数目撃してきた。

 残念ながら3番と4、5番ではプレースタイルはまったく変わってくる。最終的にこうした選手たちがプロに入ったとしても、大学時代までの経験をそのまま生かすことができなくなる。

 新しいポジションに慣れるには時間も必要になってくるし、中には上手く適応できない選手も出てくるだろう。そうなればバスケ選手の競技人生は決して長くない中で、選手として遠回りを余儀なくされる。もしアマチュア時代から選手が持つ才能、可能性を発揮できるような一貫した指導、育成環境が整っていれば、こうした格差は軽減されるはずだ。

【今後も世界で通用する若手有望選手を育成するために】

 これは大学に限ったことではないようだ。以前にジュニア選手から話を聞かせてもらったことがあったが、選手のポジション決めは、各選手の基礎能力(ドリブル、パス、シュート力など)以上に身長によって判断されるのが普通だという。

 もしジュニア期からバスケ選手としての将来を考えるのであれば、誰もが全ポジションをこなせ、あらゆる基礎能力を備えたオールラウンド選手を育成し、次のカテゴリーに送り出すのが理想的ではないだろうか。

 今後も若手有望選手を米国に送り続けることは、必要不可欠なことだ。ただすべての選手を米国に送り出すことは不可能だ。ならば日本バスケ界の環境を見直していくしかない。もっと積極的に高校生や大学生をプロ選手としてBリーグに受け入れるのも1つの手だろう。

 サッカーを見てほしい。世界的に有名なレアルマドリードと契約し、現在八村選手と同じほどの注目を集めている久保建英選手は、FCバルセロナのユースを経て選手の成長過程で一番大事な時期をJリーグでプレーし、再び世界に羽ばたこうとしている。かつてNBAでセンセーションを巻き起こしたリッキー・ルビオ選手も、スペインリーグでプレーしながら18歳でNBAからドラフト指名を受けている。

 八村選手が登場した今だからこそ、日本バスケ界は知恵を絞り出し、更なる発展を目指していくべき時ではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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