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大阪エヴェッサを巣立ち白血病と戦ってきた少年が抱く将来への思い

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
公式戦最終戦後に終了式に臨んだ森川遥翔くん(中央・筆者撮影)

【6760人に見送られた感動の修了式】

 大阪エヴェッサの2018-19シーズンの本拠地最終戦は、異様な盛り上がりを見せた。会場となった『おおきにアリーナ舞洲』は立ち見客が現れるほど超満員に膨れ上がり、今シーズン最多の6760人が集結した。

 大多数のブースターの声援に後押しされるように、試合自体も熱戦の末52-51で京都ハンナリーズに勝利。さらにハーフタイムにはDJ KOO氏がパフォーマンスを披露するなど、終始アリーナ内は熱狂の渦に包まれた。

 そんな素晴らしい公式戦最終戦の後、コート上では今シーズンでチームを巣立っていく1人の少年の修了式が実施された。少年は中学2年生の森川遥翔(もりかわ・はると)くん。昨年8月まで白血病のため長期入院生活を余儀なくされた後、同9月に大阪エヴェッサが森川くんの入団を発表。今シーズンは時間が許す範囲でチームスタッフの1人としてチームの試合や練習をサポートしてきた。

【最後は念願のエヴェッサ選手と1on1対決】

 森川くんについては本欄でも、入団当初から2回ほど彼の活動について報告してきた。改めて入団の経緯を紹介しておくと、NPO法人『Being ALIVE Japan』が企画運営し、『B.LEAGUE Hope』のSR(社会的責任活動)パートナーである日本財団の助成によって行われたもので、森川くんサイドが彼らの活動を知り連絡をした結果、バスケ少年だった森川くんが憧れ続けていたエヴェッサに入団することができた。

 修了式後は森川くんが活動開始当初から夢見てきたエヴェッサ選手との1on1対決が実現。残念ながら勝利することはできなかったが、最後の最後まで夢のような体験を味わい、活動を締めくくった。

藤高宗一郎選手との1on1対決に挑む森川遥翔くん(右・筆者撮影)
藤高宗一郎選手との1on1対決に挑む森川遥翔くん(右・筆者撮影)

【活動を通じて明確になった将来の目標】

 こうしてシーズンを通して森川くんの活動を取材してきた強く感じたのが、目を見張るような彼の成長ぶりだった。活動開始当初は、両親も認める人見知りぶりを発揮し遠慮しがちな部分があったが、シーズン終盤は完全にチームの一員となり、選手のサポートを続けるとともに、試合展開に合わせ選手たちと一喜一憂するようになっていた。

 その中でも印象的だったのが、森川くんは今回の巣立ちを“修了”とは捉えていないという点だ。

 「(自分としては)入団して一旦チームを離れるというか、僕は(ここに)戻ってくるのが夢ですし、それを目標に頑張っているので、活動終了とういか休暇というふうに考えていて、これから先、今の中学校でも高校でも頑張っていって、Bリーグでもエヴェッサに参加できるようにということで、(自分の)練習のための休みみたいな感じでいようかなと思ってます」

 森川くんの言葉からも一目瞭然だろう。彼はシーズンを通して憧れの選手たちと交流することで、バスケの魅力を再確認するとともに、自分もプロ選手になりたいという明確な目標を得ることができたのだ。

【選手たちから植え付けられたアスリートとしての自覚】

 今や森川くんにとってプロ選手になるという目標は、単なる憧れから来る漠然としたものではない。ずっとエヴェッサ選手と交流しながらプロ選手の厳しさと楽しさを理解したからこそ、高いモチベーションを持った中での目標になっているのだ。

エヴェッサ選手たちからサイン入り色紙を受け取る森川遥翔くん(中央・筆者撮影)
エヴェッサ選手たちからサイン入り色紙を受け取る森川遥翔くん(中央・筆者撮影)

 「中学生だったら先生が来るまでは(練習を)緩くやっちゃったりとかあるけど、コーチがいるとかじゃなくて真剣にみんなと楽しくやっているというのがすごく…。チームメイトの関係は中学校と全然変わらずに、練習の質というか、どんな練習でのよくやろうという心がけが全員にあって、それは(中学校の)みんなには伝えていこうかなと思います。

 僕が元々ジャンプシュートが苦手で、ジャンプシュートの基本が何だろうと考えてフリースローの練習を(エヴェッサのコーチに)教えてもらっているうちに、周りの選手がぼんぼん入っているのが僕が入らなかったという時もいっぱいあるんですけど、それが段々減ってきて周りよりちょっと入るようになったかなというぐらいに上手くなって技術も良くなってます。バスケはチームでやるものだから、そういう練習法、どうやったら入りやすくなるというのも、自分だけの技術ではなくみんなにも教えてあげたいなと思います」

 如何だろう。他の中学2年生と比較して、森川くんがバスケ選手として意識が相当に高いことが伺い知れるだろう。この点については父の弘奏(ひろやす)さんも息子の成長ぶりを実感できているようだ。

 「今日やった1on1ていうのが(エヴェッサに)入るときにやりたいという目標にしていたとこにちゃんと辿り着けたというところは、人としても目標を達成できたという意味で成長できたでしょうし、これまで7か月間一生懸命この活動に参加して、チームのためになろうと努力したところが結び付いたところもあると思うので、そういう意味でも人間的に成長できたんじゃないかなと思います」

 もちろん森川くんに限らず、現在中学でプレーしているバスケ選手がBリーグまで到達できるのはほんの一握りしかいない。彼が100%目標を達成できるものではない。だが彼が7ヵ月間の活動を通じて、バスケ選手として人間として大きく成長できたことは疑いようのない事実だ。

 近い将来森川くんとBリーグのコートで再会できる日を願うばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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