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予想外の開幕3連敗! レッドソックス・エース左腕に何が起こっているのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
開幕3連敗と厳しいスタートを切ったクリス・セール投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【誰もが予想しなかったまさかの開幕3連敗】

 昨シーズンは5年ぶりにワールドシリーズを制したレッドソックス。連覇を目指す新たなシーズンの開幕投手に選ばれたのがクリス・セール投手だった。2016年オフにトレードで移籍してから、先発の柱として活躍してきた速球左腕投手。シーズン開幕前に5年で総額1億4500万ドル(約161億円)の契約延長に合意し、盤石の態勢でシーズンに臨んだはずだった。

 ところが開幕戦でマリナーズ打線につかまり、3回6安打7失点で敗戦投手になると、続くアスレチックス戦では6回3安打1失点の好投を演じながらも敗戦投手に。さらにホーム開幕戦での登板となったブルージェイズ戦では4回7安打5失点と乱れ、開幕から3連敗という予想外のスタートを切ってしまった。

【かつて見せたことのない大量失点】

 開幕3連敗が予想外なのは当然だが、それ以上に気になるのが3試合中2試合が5回まで投げ切れず大量失点されていることだ。

 セール投手の安定感はMLB屈指だといわれてきた。これまでホワイトソックス、レッドソックスと9年間ア・リーグのチームに在籍しながら、彼の通算防御率が2.92であることからも一目瞭然だ。2015年と2017年には奪三振王のタイトルを獲得するなど、三振奪取率は常にMLBの上位にランク。被打率においても、これまで一度たりとも.240を上回ったシーズンはない(2012年の.235が最高)。

 ところが今シーズンは、ここまで登板した3試合の防御率は9.00で、被打率に至っては.308に上る。セール投手が別人になってしまっているのは明らかだ。

【開幕戦から指摘されている明らかな球威不足】

 すでに開幕戦での乱調から米メディアの間で指摘されていたのが、明らかな球威不足だ。MLB公式サイトのセール投手の投球データをチェックしてみると、すべての球種で極端に球速が落ち込んでいるのが理解できる。

 例えば2018年のフォーシーム(いわゆる真っ直ぐ)の平均球速は95.2マイル(約153キロ)だったのが、今シーズンはここまで90.7マイル(約146キロ)に留まっている。さらに他の球種(スライダー、チェンジアップ、シンカー)においても2~3マイル程度球速が低下しているのだ。

【投球の変化でフライ打球が急激に増加】

 このセール投手の投球の変化が、打者の打球傾向にも如実に反映されている。これまでセール投手が打たれる打球は、フライ打球(通算平均24.1%)よりゴロ打球(同42.3%)の方が圧倒的に多かったのだが、今シーズンに限ってはフライ打球の割合が32.2%と大幅に増加しているのだ。

 フライ打球が増えるということは長打に繋がる確率も高くなることを意味しており、今シーズンの「XSLG(相手の守備に関係なく長打に繋がる打球を打たれた率)」は.637でMLBでも最低クラスだ(ちなみに昨シーズンのXSLGは.293でMLBのトップ5%に入っている)。

【セール投手の復調なくしてレッドソックスの連覇は不可能?】

 今年3月に30歳になったばかりのセール投手の球速減退が、体力面が起因しているとは考えにくい。また現時点で負傷を抱えているわけではなく、健康面にも不安はない。セール投手本人も原因不明の乱調に戸惑いを感じているようだ。

 「(原因が)何なのか分かれば修正するだろう。とにかく今は自分のタイヤは回り続けている状態だ(すでにシーズンを戦っているという意味)。メカニック、投球、角度、あれこれ見ながら(原因を)探しているところだ。だが必ずそれを見つけ出す。自分を理解しているし、自分のできることも知っている」

 セール投手の復調がなければ、レッドソックス連覇の可能性は確実に弱まる。果たして彼は本来の投球を取り戻すことができるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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