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Bリーグでアーリーエントリー制度の導入は難しいのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大学活動に戻るためエヴェッサを退団した佐々木選手(左)と吉井選手(筆者撮影)

【大阪エヴェッサが大学活動復帰の特別指定選手2人の退団を発表】

 大阪エヴェッサが2日、特別指定選手として入団していた吉井裕鷹選手、佐々木隆成選手の退団を発表した。特別指定選手の活動期間は3ヵ月に制限されているが、吉井選手は1月22日付で入団、佐々木選手も2月8日付の入団なので、シーズン最後までエヴェッサに帯同することが可能だったが、両選手ともに卒業前の現役大学生のため、新年度を迎え大学活動に復帰するためのものだった。

 2選手は3日のライジングゼファー福岡戦に揃って出場し、有終の美を飾った。佐々木選手は計8試合で計11分11秒の出場に留まり、なかなか出場機会に恵まれなかったが、吉井選手は一時は負傷欠場している熊谷尚也選手に代わり先発起用されるなど、16試合(うち6試合に先発)に出場し、平均得点5.13を記録するなど、十分に爪痕を残している。

【若手育成に有効な特別指定選手制度、一方で即戦力レベルの選手には不十分?】

 特別指定選手はBリーグ発足と同時に導入された制度で、満22歳以下の大学生及び高校生選手(現在は年齢枠が撤廃され中学生選手も対象)を各チーム2名まで登録できるというものだ(活動期間は3ヵ月に限られている)。若手有望選手に高いレベルで経験を積ませることで更なる成長を促すことを目的しており、これまでも多くの学生選手たちがBリーグで貴重な体験を積んできた。

 今回エヴェッサでプロ選手たちと同じ時間を共有した吉井選手、佐々木選手も、「素晴らしい貴重な体験ができた」と口を揃えてエヴェッサに感謝している。だが3月卒業予定の大学4年生なら、1月下旬に契約すればシーズン最後までチームに帯同することが可能だが、卒業前の吉井選手や佐々木選手の場合どうしても大学活動が優先されるので、この時期に大学に戻らなければならなくなる。

 だがエヴェッサから高い評価を受けた吉井選手のように即戦力として期待できる選手になると、選手育成という面からも、本来なら活動期間にとらわれることなくBリーグで経験を積んだ方が理想的なのは確かだろう。エヴェッサの穂坂健祐HCも吉井選手について「夏の頃からここで練習していたらもっと活躍できていたと思います」と話しているほどだ。

 また吉井選手は、大学とBリーグではポジションが変わってくるため(エヴェッサでは3番で大学では4、5番)、大学に戻り違うポジションをすることで「(これまで経験してきたことを)忘れてしまうんじゃないか」との不安を感じている。彼のようなケースだと、特別指定選手として積んだ経験を大学に戻って有効に生かすのが多少難しくなってしまうことになる。

【実力があれば10代からプロ入りしていく海外リーグ】

 現在日本では、日本代表の若きエースであり、米の名門校ゴンザガ大に所属する八村塁選手がNBA入りするかどうかが注目を集めている。彼はまだ大学3年だが、NBAの場合「アーリーエントリー制度」が存在するため、本人が希望すれば卒業前でもNBAドラフトの対象選手になることができる。

 この制度は2005年から19歳以上という年齢制限が設定されているため高校生は対象外になっているが、早ければ2022年シーズンから年齢制限が撤廃されることが正式決定しており、再び高卒選手にも門戸が開かれる予定だ。

 さらにヨーロッパのリーグに目を向けると、現在NBAで活躍するリッキー・ルビオ選手は母国スペインで史上最年少の14歳でプロデビューを飾るなど、ヨーロッパの各リーグでは高校生と変わらない年齢の選手たちが次々にプロの世界に足を踏み入れている。

 世代別の国際大会になると、こうしたプロ選手たちと対戦しなければならないのだから、日本としても若い世代からプロ選手を輩出できる環境が必要になってこないだろうか。

【アーリーエントリー制度の魅力】

 もしBリーグにアーリーエントリー制度が確立し、大学の卒業を待たずにプロ入りできるようになれば、特別指定選手以上に若手有望選手の育成に繋がるのは間違いない。オクラホマ州立大に留学経験もあり、現地のバスケット事情に精通している穂坂HCは、以下のようにアーリーエントリーの有効性を説明している。

 「アーリーエントリーすることによって選手たちは早くプロの世界に順応できますし、(大学より)サイズがありフィジカルが強い選手とプレーできます。もしかして短いバスケットボールのキャリアになってしまう可能性もありますが、それでもチャレンジしていく選手は好きです。

 (プロの世界に飛び込んだことで)そこから次は世界に羽ばたいていくという風に、アメリカだけじゃなくてヨーロッパもそうですし、また夏の間はフィリピンとかに行って、フィジカルとかガンガンやられて強くなっていくとか…。またオフシーズンになって日本にいるよりもワークアウトでアメリカに行ってNBAのコーチだとか、そういった環境に身を置くとか、アーリーエントリーし(プロとして)お金を稼ぐことで、しっかり自分のバスケットボールのために自己投資ができると思います」

【アーリーエントリー制度導入の障害は大学と家族?】

 実のところ根本的な部分として、Bリーグは大学生選手とプロ契約を結ぶのを禁止しているわけではない。アルバルク東京に在籍する馬場雄大選手は、大学4年時の6月に同チームとプロ契約を結び、卒業を待たずしてプロ選手になっている。ドラフト制度のないBリーグの場合、選手の方で問題がなければチームの判断でいつでもリクルートできる状態にある。

 ただ馬場選手は、所属していた筑波大から了解を得られ、しかもBリーグで活動してもすでに卒業できる目処が立っていたからこそ実現した特殊なケースだ。普通は大学途中でプロ入りしてしまえばお世話になった大学に迷惑をかけてしまうし、場合によっては大学を中退してプロ入りすることになるので、家族からもなかなか賛成してもらえないだろう。

 実際アーリーエントリーについて尋ねてみると、吉井選手は「今の時代大学を出ておいた方がいいというか、何とも言えないですね」と複雑な表情を浮かべた。

【リーグと大学が連携してアーリーエントリーの環境づくりが重要】

 これが米国ではかなり事情が違ってくる。たとえアーリーエントリーしてNBA入りしたとしても、選手が希望しさえすれば通信教育やサマースクール(夏休み期間中に実施される講義)などを利用して大学を卒業できるのだ。有名なところではマイケル・ジョーダン選手やシャキール・オニール選手はプロ入り後に、それぞれ出身校であるノースカロライナ大とルイジアナ州立大から学位を取得している(オニール選手に至ってはその後マイアミで大学院に通い博士号を取得している)。

 もし日本でも同様に、アーリーエントリーでプロ入りしても中退にならず最後まで学業を修められることができるようになれば、選手たちの考え方もかなり変わってくるだろう。エヴェッサを退団する2選手に聞いても、「大学を中退する必要がないなら思い切って挑戦できますよね」(佐々木選手)、「それだったら全然挑戦できる環境だと思います」(吉井選手)――という反応が返ってきた。

 これは大学制度にも関係してくる難しい問題ではあるのだが、リーグと大学が連携しながらアーリーエントリーする選手をサポートする体制を整えていければ、若手有望選手の育成環境がさらに充実していくのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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