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敗け試合を覚悟しながらも京都ハンナリーズが利き腕が使えない主力選手を強行出場させたワケ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
利き腕が使えない状態で強行出場したデイヴィッド・サイモン選手(筆者撮影)

【敗戦を覚悟していた第2戦、それでも負傷のサイモンを強行出場】

 西地区2位の京都ハンナリーズがシーズン第31節で、同3位の名古屋ダイヤモンドドルフィンズと対戦し、1勝1敗のタイに終わり、1ゲーム差のリードを守ることに成功した。

 第1戦を90-78で制したハンナリーズだったが、翌日の第2戦をかなり厳しい状況で迎えていた。第1戦でチームのスコアリングリーダーであるデイヴィッド・サイモン選手が第1戦で右ひじを負傷、翌日も患部が腫れており、プレーできるような状態ではなかった。だが浜口炎HCはサイモン選手と話し合いを行い、強行出場させることになった。

 もちろん利き腕が使えないサイモン選手からの得点を期待できるはずもなく、彼を強行出場させたとしても試合に敗れることはほぼ確定的だった。それでもサイモン選手を38分49秒出場させ、試合も68-85で落としている。

【その裏に隠された熾烈な2位争い】

 しかし第2戦が大敗で終了したものの、アリー内からはブースターから大きな歓喜の叫び声が上がった。実はハンナリーズはこの第2戦で、勝敗とは別にもう1つの戦いを演じていたのだ。

 それはBリーグの順位決定ルールに関するものだ。もし2チームが同じ成績で並んだ場合、両チームの対戦成績で、さらに対戦成績もタイなら両チームの得失点差で順位が決められることになっている。

 第2戦に臨む時点で、ハンナリーズはダイヤモンドドルフィンズと対戦成績は3勝2敗で、得失点差はプラス19点だった。つまり第2戦に敗れたとしても19点差未満の敗戦なら、たとえ最終成績でダイヤモンドドルフィンズと並んでも2位の座を確保できるのだ。浜口HCはその事情をサイモン選手に説明すると、彼はチームのためになるならと強行出場を快諾したのだ。

【HCの説明に強行出場を決めたサイモンの献身】

 試合後浜口HCは以下のように説明している。

 「本当はD(サイモン選手のニックネーム)は今日出られる状態ではなくて、彼も出られないので荷物を持ってこないで(アリーナに)来たんですけど、得失点差の話やリバウンドだけでもヘルプになるような話をしたら、『右手は使えないけど力になれるのならやる』と言って出てくれました。

 左腕だけで15点、9リバウンド…。これはやっぱり、今の私たちだと残念ながらサブのベンチプレーヤーのビッグマンたちにはこの数字は出せないので、彼が左腕1本しか使えなくても、彼のお陰で今日のゲームになったかなと思います」

 本来ならサイモン選手の負傷を受けて、第3の外国籍選手であるシャキール・モリス選手が出場するケースだった。だが不運にも彼は肉親の体調不良で帰国中だったため、まだ若い特別指定選手の日本人ビッグマン2人には荷が重すぎるため、サイモン選手を強行出場させるしかなかったのだ。

 そうした浜口HCの思いをくみ取り、サイモン選手は左腕一本で最後まで懸命なプレーを続けた。

 「骨には異常はなく筋肉を痛めたものだった。ただ右手でシュートを打てるような状況ではなかった。だがコーチから話を聞き、チームにとってすごく重要な試合だということを聞き、リバウンドとディフェンスで頑張ろうと思った。

 これが自分の仕事だ。チームが勝つ手助けできることなら何だってやる。これまでも自分は何事にもトライしてきた。今日もとにかくトライしてみようと思った」

【HCが危機感を抱くチーム状況、残り8試合は総力戦必至】

 サイモン選手の滅私奉公の活躍でタイに持ち込み、3位陥落という最悪のシナリオは回避したハンナリーズ。だがこの5試合は1勝4敗に留まっているように、チームはかなり厳しい状況に置かれている。

 伊藤達哉選手が3月17日の栃木ブレックス戦で脳震盪を起こし、今も医師からプレー再開の許可がおりていない。さらにもう1人のPGの綿貫瞬選手も左手首と右足アキレス腱を痛め、プレー時間を制限するしかない状態だ。そこに来てサイモン選手も大きな負傷をしてしまい、回復状況次第では3日の滋賀レイクスターズ戦に間に合わない可能性がある。

 浜口HCは「危機感しかないです」とした上で、苦しい胸の内を明かしてくれた。

 「今日試合前のミーティングで言ったのは、60ゲームが終わった時点で2位以内、もしくはワイルドカードでチャンピオンシップに行くという目標をたてて、ここまでみんなでやってきたのだから、あと8ゲームを何とか全員の力で1つ1つを頑張ろうと…。今うちらにできるのはそれだけだから、その気持ちがまず大切なんで…。せっかくここまで来たので、誰かが出られないのはしようがないので、できるメンバーでやるしかないとは話しました。

 (場合によっては最後にダイヤモンドドルフィンズに逆転されても)仕方がないと思います。名古屋さんは力もありますし、外国籍3人もフレッシュでローテーションができますし、ベンチも使っているメンバーもうちと比べると多いので、もしかして終盤は連勝で抜けるかもしれないくらい、いいチームだと思います」

 いずれにせよハンナリーズは2年連続のチャンピオンシップ進出を目指し、残り8試合に全身全霊を注ぎ込む覚悟だ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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