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マイク・トラウトとの契約延長に成功したエンゼルス これは大谷翔平との別れを意味するものなのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
エンゼルスは将来的に大谷翔平選手と長期高額契約を結ぶ余裕があるのだろうか(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【エンゼルスが正式発表 年俸総額、平均年俸額ともにMLB史上最高額】

 エンゼルスが現地20日、前日にメディアから第一報がもたらされていた、マイク・トラウト選手との契約延長合意を正式に発表した。チーム広報が発信したリリースによれば、シーズン開幕直前に実施される毎年恒例のドジャースとの「フリーウェイ・シリーズ」に合わせ、24日の試合前にエンゼルスタジアムで記者会見を実施する予定だ。

 チーム側からは12年という契約延長期間のみが発表されただけで、契約内容については明らかにされていないが、すでに多くのメディアが報じているように、2014年オフに合意した6年契約の残り分2年6650万ドル(約74億円)に、さらに10年3億6000万ドル(約400億円)を加え、計12年で、総額4億2650万ドル(約474億円)で合意した模様だ。

 契約総額で4億ドルを超えたのはMLB史上初めてで、平均年俸額3554万ドル(約40億円、MLB公式サイトでは3583万ドルと計算)もザック・グリンキー投手の3440万ドル(約38億円)を上回り、こちらも史上最高額を更新している。また今回の契約延長には契約途中で契約解除できるオプション権(いわゆるオプトアウト)が盛り込まれておらず、さらにトラウト選手がトレード拒否権を有していることから、エンゼルスは2030年まで契約保証した“生涯契約”と呼ぶに相応しいものだ。

【関係者から当然の声続出!メディアからは「FAだったら5億超え」の意見も】

 今オフの注目FA選手だったマニー・マチャド選手がパドレスと10年総額3億ドル(約333億円)で合意し、さらにブライス・ハーパー選手が13年総額3億3000万ドル(約366億円)でフィリーズ入りした大型契約をさらに上回る大型契約での契約延長となったが、関係者はみな一様に歓迎の声をあげている。

 MLB公式サイトでは第一報が報じられて以降、選手たちの反応を動画付きで集めているが、「現在地球上で最も素晴らしい選手に対する正しい評価」「これだけの契約を獲得できるのは彼しかいない」等々、全員がトラウト選手の契約延長を当然のことだ捉えているようだ。

 これはメディアも同様だ。トラウト選手の選手としての価値(現在選手の評価基準として最も信用されるWARにおいて、26歳シーズン終了時点でのWAR64.3はMLB史上1位)を考慮した上で、マチャド選手やハーパー選手と比較すれば彼らの大型契約を超えるのは当然だと考えるメディアがほとんどだ。中には「むしろ今回の契約延長は安く済んだ。もし2020年オフまで待ちFA選手になっていたら総額は5億ドルを超えていただろう」と予測しているほどだ。

【今後トラウト中心のチーム編成でチームは勝てるのか?】

 以上のように、多くのMLB関係者が今回の契約延長を好意的に捉えているのが理解できる。だがその一方で、エンゼルスは2030年まで約40億円の年俸をたった1人の選手に支払い続けなければならない中で、優勝を狙えるチームを作り上げていくことを意味しているのだ。

 昨年周囲からかなりの期待を受けながらシーズン開幕を迎えながら、故障者が続出するという不運にも見舞われシーズン中盤でポストシーズン争いから撤退。シーズン終盤にはメディアから「チーム再建の道は高額年俸のトラウトを放出するしかない」という意見まで飛び出してた。それをエンゼルスは敢えてトラウト選手中心に長期にわたりチーム編成していく道を選んだのだ。今後も大物FA選手の補強は難しく、若手有望選手を育成していかねばならない。

【もし大谷翔平がトラウト・クラスの選手に成長したならば…】

 そこで気になるのが大谷翔平選手の存在だ。昨シーズンはセンセーショナルなデビューを飾り、MLBに二刀流という新たな概念をもたらすとともに、関係者からその才能を高く評価されている。エンゼルスはFA資格を得る2023年シーズンまで大谷選手の保有権を有しているが、このまま大谷選手が期待通りの成長を続けた場合、彼とも長期契約を結ぶ財政的余裕があるのだろうか。

 とりあえずトラウト選手以外で大型契約を結ぶアルバート・プホルス選手の契約(10年総額2億4000万ドル)が2021年で完了することになり、そこからは多少の財政的余裕が生まれてくる。2020年オフに年俸調停権を得る大谷選手とうまく入れ替わる格好になるので、タイミング的にも申し分はない。ただ今回のトラウト選手のように、FA資格取得前に大型契約で契約延長を結べるかは多少の疑問が残る。

 今シーズンのトラウト選手の年俸は3408万3333ドル(約38億円)に上り、エンゼルスのチーム年俸総額(1億6953万4333ドル)の2割以上を占めている。もし仮に大谷選手がトラウト選手並みの平均年俸額3000万ドル前後の大型契約を結んだとしたら、た年俸総額の4割近くをたった2選手に割かれることになってしまうのだ。これはチーム編成上かなり厳しくなってくる。エンゼルスが国庫府に大物FA選手に手が出せなかったのも、トラウト選手とプホルス選手という高額選手がいるからに他ならない。

【かつて大黒柱2選手を1人に絞ったブルワーズ】

 かつて2011年のブルワーズは、主力選手が皆20代という若手有望選手中心のチーム編成で19年ぶりの地区優勝を飾った。その象徴的な存在だったのが若き主砲コンビのライアン・ブラウン選手とプリンス・フィールダー選手だった。ともに27歳だった2選手がこのままチームを支え続ければ、黄金期を築ける可能性もあった。

 だがチームの決断は違った。年俸予算が厳しいこともあり、このまま両選手をチームに抱えておくことは不可能と考え、先にFA権を取得するフィールダー選手に契約延長のオファーをすることなく、FA選手として他チームに移籍することを受けいれたのだ。結局チームはブラウン選手中心のチーム編成に乗り出したが、昨シーズン地区優勝するまでずっと低迷期を迎えることになった。

【決してMLBトップクラスとは言い切れないエンゼルスの財政事情】

 ただエンゼルスの年俸予算はブルワーズほど低くはない。ここ10年間の年俸総額の推移をみても、2016、2017年シーズンでそれぞれMLB全体で11位に留まったが、それ以外は常にトップ10(4~8位)にランクインしており、ある程度の予算を用意しているのは間違いない。

 その一方で、ヤンキース、レッドソックス、ドジャースのような予算が潤沢なチームには及ばないのも確かだ。昨年ワールドシリーズを制覇したレッドソックスなど、ここ数年は年俸総額で2億ドルを超えるチームが出現するようになっている中で、エンゼルスが2億ドルに迫ったこともない。もしエンゼルスが2億ドル近い年俸予算を抱えていたならば、このオフも大胆な補強策を打ち出すことができていただろう。

 果たして大谷選手は今後数年間でどこまで成長できるのか?我々の期待に応える活躍をしてくれるとするならば、その時はエンゼルスのユニフォームを脱ぐ時なのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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