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キャンプイン直後の紅白戦実施にリスクはないのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLBでもオープン戦開幕前に紅白戦を実施するチームも存在するが…(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 NPB全12チームが2月1日、一斉にキャンプインした。現在はどこかのタイミングでキャンプ取材をしたいと考え現地情報をチェックしている日々だが、ロッテと巨人がキャンプイン直後に紅白戦を実施していたことをニュースで知り、ちょっと驚かされた。

 各チームそれぞれに事情があり、調整プランが違ってくるのは当然のことだろう。ただチームとしての練習が始まったばかりなのに、いきなり選手に実戦をプレーさせるのはいろいろな面から不利益が伴うように思えるのだ。

 昨今のNPB選手はオフ期間の体調管理への意識が高く、米国や国内のトレーニング施設などを利用してしっかり身体づくりをしてからキャンプに臨むようになったように思う。そうした自主トレ中に技術練習も行っているだろうが、さすがに最低でも18人以上が必要な実戦練習まで行う選手はほぼいないだろう。

 練習期間が短くすぐに実戦に移行すると言われるMLBですら、キャンプ開始直後に紅白戦を実施するようなことは絶対にない。いや、むしろMLBの方が選手の調整を重要視しており、キャンプ期間中に選手に無理をさせるようなことはしない。

 元々MLBがキャンプ中の練習期間が短いのは、NPBと比較してキャンプイン時期が遅いからだ。NPBとMLBはほぼシーズン開幕時期が同じなのに、MLBのキャンプイン時期はNPBより2週間以上遅いのだ。必然的に練習期間は短くなってしまう。MLBではキャンプイン後1週間程度でオープン戦がスタートするからこそ、選手たちは自己責任として、キャンプインする前にある程度実戦ができる身体を作ってくるのが求められるのだ。でもMLBとは違いNPBは十分な練習期間があるのだから、実戦を急ぐ必要はないのではないか。

 だがこれは、あくまで野手目線でのことだ。投手に関しては、実戦に移行するまで野手以上に時間を要すると考えられている。だからMLBでは、投手(とその球を受ける捕手)は野手より1週間ほど早めにキャンプインする形式をとっている。どのチームも基本的に最低でも1、2回はブルペンで投球練習をしてからでないと、打撃練習等で打者と対峙させることはない。きちんと順を踏んでいきながら実戦へと移行していく。MLBのどのチームにおいても、キャンプイン直後に試合で投げさせるような発想はないはずだ。

 いわゆる“ピーキング”という点で選手がシーズン中にピークをもっていかせるという面からも、オフ期間中にキャンプイン直後から実戦ができるような状態を整えさせるのはあまり得策だとは思えないし、逆に十分な準備ができない選手に実戦をプレーさせるのも故障のリスクを高めることになるだろう。特に自分なりの体調管理が確立できない、プロ経験の浅い若手選手ともなれば尚更のことだろう。

 そもそもキャンプ本来の目的は、チームとしてシーズンに臨む準備をする場のはずだ。選手レベルで考えれば、開幕に合わせ長いシーズンを戦えるコンディショニングを整えることにある。NPB、MLBとも開幕時期はほぼ同じなのだから、本来ならキャンプにおける選手の調整方法が類似してきてもおかしくはないところだ。だが実際は単純比較するのは難しいとはいえ、日米のスタイルはかなり違っているのが現実だ。

 もちろん選手の中にはキャンプが生き残りを賭けたアピールの場になっているのも理解している。だがキャンプ中にピークを迎えて首脳陣にいいアピールができたとしても、シーズンに入ってコンディショニングを落としてしまっては本末転倒だ。キャンプの調整方法がその年の選手たちの成否を握っているだけに、“MLB育ち”のスポーツライターとして現在の日米差が気になって仕方がない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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