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侍ジャパン主力選手が次々にMLB挑戦表明! 彼らにとって東京五輪の価値とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今や誰もが侍ジャパンの主砲と認める筒香嘉智選手(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 DeNAの筒香嘉智選手と広島の菊池涼介選手が契約更改の場で球団側に対し将来的なMLB挑戦の希望を伝え、さらに西武の秋山翔吾選手も公の場でMLB挑戦の可能性を示唆する発言をしている。

 かれらはいずれも長年にわたり侍ジャパンを牽引してきた主力選手ばかりだ。もし仮に来年オフに彼らのMLB挑戦が正式に決まり、彼らが2020年に海を渡っていったとしたら、MLB選手の出場がほぼ絶望的な東京五輪に彼らは間違いなく侍ジャパンのユニフォームを着られなくなる。

 これまで侍ジャパンやマスコミは東京五輪での金メダル獲得を旗印に、懸命に盛り上げようとしてきた。しかし選手たちのこうした言動を目の当たりにして、グラウンドで戦う彼らは果たして同じ思いを共有していたのか多少なりとも疑念が沸いてきてしまう。

 今回の3選手はいずれも小久保裕紀監督時代から代表入りし、様々な強化試合を経て王座奪還を目指して2017年WBCに挑んだ主力選手たちだ。それまで豊富な国際試合を経験し、そうした国際試合で実際にグラウンドで相まみえながら相手チーム、相手選手の真剣度や力量を感じ取ってきたはずだ。

 彼らにとって唯一MLB選手が参加するWBCは、やはり特別な存在だったはずだ。侍ジャパンが3連覇を逃した2013年の第3回大会からMLB選手たちのWBCに臨む姿勢は明らかに変化していたし、昨年も初優勝を飾った米国代表のみならず、ドミニカ代表やプエルトリコ代表も真剣に優勝を狙いにきていた。改めて彼らはMLB選手たちの力量を実感できたことだろう。

 一方で東京五輪はどうだろう。前述通りMLBの協力は期待できず、MLB選手は間違いなく参加することはない。マスコミがどう盛り立てようとしても、WBCのような高い競技レベルを期待するのは実質不可能といえる。それを理解している選手たちにとって、東京五輪の価値とは一体どの程度のものなのだろうか。

 少し昔の話になるが、WBCとは別の国際大会に位置づけられるWBSCプレミア12が2011年に初めて開催された。だが国際大会とは名ばかりで、MLB選手は一切参加しなかったし、メキシコ代表などはギリギリまで選手が集まらず急造チームで来日するような始末だった。大会後に某侍ジャパン選手から話を聞かせてもらったのだが、選手たちのモチベーションは決して高くなかったそうだ。試合の中で相手チームの真剣度を感じられなければ、仕方がないことだろう(だからといってそれを優勝できなかった言い訳にしていたわけではない)。

 もちろん地元開催の五輪で金メダルを獲れるチャンスがあるのなら、協議に関係なく日本人アスリートとして誰しもが参加してみたいだろう。だが今回の3選手からすれば、このタイミングを逃してしまうとMLBに挑戦するチャンスを失うかもしれないのだ。少し極端ないい方をすれば、彼らは東京五輪よりもMLBに魅力を感じているということなのだ。

 また彼らは昨年のWBCで、準決勝を前にMLBの充実したキャンプ施設で練習を行い、さらにMLBの公式戦が行われる球場で準決勝を戦った。そうした選手として夢のような環境に身を置いたことでMLBへの憧れがさらに増したとしても仕方がないことだ(残念ながら施設面での日米格差は紛れもない事実だ)。

 もし東京五輪にMLB選手が出場できるようになるなら、彼らはMLBに移籍しても間違いなく侍ジャパンに参加してくれるだろう。だがそれは無理だと承知しながらも、MLBに挑戦したい気持ちを優先させようとしている彼らの思いを、球界関係者たちはどのように受け止めているのだろうか。

 個人的には2013年の田中賢介選手以来となる日本人野手のMLB挑戦が実現することを心の底から期待しているし、東京五輪以上に彼のMLB入りを魅力的に感じている。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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