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MLBのGMたちはこんなに凄い! 史上最強殿堂入りGMの足跡から考える彼らの手腕と影響力 

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
GMを務めた全4チームを最低でも地区優勝に導いたパット・ギリック氏(写真:ロイター/アフロ)

 オフシーズン中MLB最大のイベント「ウィンター・ミーティング」は現地9日から5日間の日程で、ラスベガスで開幕した。期間中はフロント、監督、コーチ、スタッフらMLB関係者が一堂に会し、来シーズンに向け様々なミーティングが実施される。またこの時期に移籍市場も活発化することから大物FA選手の契約もまとまるケースが多く、メディアも注目しているイベントだ。

 オフシーズン中にチームの鍵を握り、主役に躍り出るのが編成部門責任者である各チームのGMだ。最近ではGMから昇格してベースボール・オペレーション(いわゆる日本でいうところの編成部門)担当社長などに就任しているケースもあるが、とにかく彼らの方針一つでチームは大きく様変わりしてしまうほどの影響力を持っている。

 このオフもマリナーズがチーム解体&再建に舵を切り、すでに昨シーズンの主力選手たちが次々にチームから放出されているが、そうした判断はすべて編成部門責任者としてジェリー・ディポトGMが下したものだ。チームづくりという面ではある意味、オーナー陣よりも権力を握っている。だからこそオーナー陣は、チームの将来を大きく左右するGMを含めた編成部門責任者の任命に細心の注意を払っている。そうした選定作業は成功する時もあれば、失敗する時もある。それはそのままチームの栄枯盛衰に繋がっているといっていい。

 その端的な例が、かつてブルージェイズなど4チームでGMを歴任し、2011年に殿堂入りを果たしているパット・ギリック氏だ。彼の功績を振り返ると、どれほどGMという存在が重要なのかを再確認することができる。

 ちなみにギリック氏の名を知るMLBファンも少なくないのではないか。2000年オフにイチロー選手がマリナーズ入りした際、GMを務めていた人物だ。

 野球選手としては大成できなかったギリック氏は5年間のマイナー生活を終え、1963年にアストロズのフロント入りする。そこからヤンキースのスカウト部長を務めるなど経験を積み重ねながらステップアップを重ね、1977年に誕生したブルージェイズのフロント陣に迎えられ、翌年GMに就任している。

 そこから新規チームの強化に取り組み、1985、1989、1991年とチームを地区優勝に導いた後、1992、1993年とワールドシリーズ制覇を達成し黄金期を築き上げた。だがギリック氏の伝説ともいえる偉業はブルージェイズを去った後からの方が目覚ましい。

 1994年シーズンでブルージェイズを去ったギリック氏はその後、オリオールズ(1996-1998)、マリナーズ(2000-2003)、フィリーズ(2006-2008)でGMを歴任することになるが、就任2年目ですべてのチームを最低でも地区優勝に導いているのだ。しかも2001年のマリナーズでは年間116勝を飾り、MLBの年間最多勝記録を更新し、2008年には自身3度目のワールドシリーズ制覇を果たしている。

 またギリック氏が去ってからはすべてのチームが低迷期を迎えている。ブルージェイズは1993年のワールドシリーズ制覇を最後にポストシーズンから遠ざかり、再びポストシーズンに進出するまで22年を要しているし、オリオールズも1997年の地区優勝以来、ポストシーズン進出まで15年かかっている。

 さらにマリナーズに至っては、ご存じのようにギリック氏がチームを去ってから一度もポストシーズンに進出できていないし、フィリーズも2011年の地区優勝を最後にポストシーズンから遠ざかっている。ギリック氏ほどMLB史上“優勝請負人”という言葉が相応しいGMは存在しないといっていい。

 現在ヤンキースでGMを務めるブライアン・キャッシュマン氏やアスレチックスで長年編成部門責任者を務めるビリー・ビーン氏のように、長期にわたり成功を収めているGMも存在するが、チームを渡り歩きながらすべてのチームで実績を残しているGMはそう多くはない。最近ではマーリンズ、タイガース、レッドソックスを強豪チームに仕立て上げ、2度のワールドシリーズ制覇を成し遂げたデーブ・ドブロウスキー氏、またレッドソックスを86年ぶり、カブスを108年ぶりに編成部門責任者としてワールドシリーズ制覇に導いたセオ・エプスタイン氏らがギリック氏の功績に迫ろうとしている。

 セイバーメトリクス全盛時代となった近年は、データ解析に長けた人物が重宝されるようになりGMも世代交代が進行しているが、それでもドブロウスキー氏のように62歳ながら辣腕を振るい続けているベテランも存在している。結局のところ、いつの時代も成功するGMはどれだけの素養を有しているかにかかわってくるものだ。

 日本ではなかなかチームの編成部門責任者に目を向けられることはないが、MLBではチームの命運を握る存在としてファンからもメディアからも注目される存在だ。今後は選手や監督だけでなく、編成部門責任者の人事に注目してみると面白いかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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