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まさにGMの鑑? ジョシュ・ドナルドソン獲得でブレーブスGMが競合選手たちにみせた気配り

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨年11月にブレーブスGMに就任したアレックス・アンソポウロス氏(写真:ロイター/アフロ)

 ブレーブスは現地27日、前日に契約合意を正式発表していたジョシュ・ドナルドソン選手の入団会見を開いた。

 今オフの大物FA選手の1人として大型契約を得られる可能性があるドナルドソン選手が、なぜ1年契約の2300万ドル(約26億円)でブレーブス入りを決めたのか、非常に気になるところではあった。そして会見冒頭で彼が発した言葉は以下のようなものだった。

 「アレックス(アンソポウロスGM)と僕はかつて一緒に素晴らしい成功体験をもっている。自分が一言いわなければならないのは、彼はオークランドからトレードした時も熱心に動いてくれた人物で、今回も再び熱心に働きかけてくれた。ここに来られて本当に嬉しく思っている。これまでの2人で素晴らしい思い出を築き上げてきたし、それを今後も続けていきたいと思っている」

 ジョージア州に隣接するアラバマ州とフロリダ州で育ったドナルドソン選手にとって、ブレーブスは小さい頃からの憧れのチームであったこともブレーブスを選んだ要因になっているようだが、その発言からも明らかなように、彼が如何にアンソポウロスGMとの関係を大切にしていたかが理解できるだろう。

 昨年11月にブレーブスに迎え入れられたアンソポウロスGMは2010年から6年間、ブルージェイズでGMを務めていた。当時のブルージェイズは1993年以来ポストシーズンに進出できない弱小チームだったが、2014年オフにアンソポウロスGMはチーム再建策としてアスレチックスからドナルドソン選手のトレードを敢行。翌2015年シーズンはドナルドソン選手がMVPを受賞する活躍をみせるとともに、チームも25年ぶりの地区優勝を飾ることに成功している。ドナルドソン選手はこの時の体験を話しているのだ。

 ただドナルドソン選手を取り巻く状況は2014年の時とは違う。当時は主力としてほぼ全試合に出場しており健康上の問題はまったくなかったが、2018年シーズンは故障に泣かされ、ブルージェイズ、移籍後のインディアンスの2チームで計52試合の出場に留まっている。本人は「疑問の余地はなく自分は今もそうした(毎試合出場する)タイプの選手だと思っている」と話しているが、来年で33歳を迎えベテランの域に入ろうとしているドナルドソン選手の健康上の不安が払拭できたわけではない。

 しかも2018年シーズンのブレーブスは5年ぶりに地区優勝を果たし、若手有望選手の台頭で投手以外のスタメン8選手を固定することに成功している。ベテラン捕手のカート・スズキ選手がFAでチームを去ったが、その穴埋めとしてブライアン・マッキャン選手を獲得しており、逆にドナルドソン選手の獲得は余剰選手を抱える可能性も生じてくる。特に彼と同じ三塁を任されていたヨハン・カマルゴ選手にとっては死活問題ともいえるだろう。

 しかし「現在のチームはチャンピオンになることがすべて」だと断言するアンソポウロスGMにとって、ドナルドソン選手こそチームの攻撃力を完成させる最後のピースだったのだ。それは彼の説明を聞けば一目瞭然だ。

 「我々は彼(ドナルドソン選手)をグランドに立たせ続けることに自信を持っている。それに関しては頭を働かせるつもりだし、責任も感じている。彼が必要な時には休養を与えることも考えないといけない。彼は周りのすべての選手たちを引き立たせてくれる選手だ。彼は例となって選手たちをリードし、皆をまとめてくれる。

 来シーズンは選手たちに休養できる機会を与えるようにしたい。昨シーズンはニック・マーケイキスとフレディ・フリーマンは毎日(全試合)出場し、(オジー・)アルビースもほぼ毎日(158試合)に出場している。そこでヨハンはセカンドもショートも守れるし、ジョシュが休みが必要な時はサードもできる。また場合によってはファーストや外野に回ってもらうことも考えていきたい。とにかくベンチ選手を含めて選手層を厚くして、すべての選手がフレッシュな状態を維持できるようにしていきたい。

 我々にとって彼(カマルゴ選手)は重要かつ必要な選手だ。スイッチ打者でパワーもある。我々の打線にとって大切な打者だ。今後も出場し続けるし、ただ彼の起用法のオプションが増えるだけだ」

 つまりカマルゴ選手を定位置のない“スーパー・ユーティリティ”選手として先発起用していくことで、他の主力選手たちに適度な休養を与えようと考えているのだ。ワールドシリーズ制覇を目指す上で、長丁場の公式戦でどれだけ疲労を残さずに主力選手たちがポストシーズンに臨めるかは重要なポイントになってくる。アンソポウロスGMが本気でワールドシリーズ制覇を狙っているからこそ、攻撃力の底上げだけでなく若手主体のチームの精神的支柱になってくれるドナルドソン選手をどうしても必要としていたのだ。

 そうしたアンソポウロスGMのプランはメディアに説明されただけではなかった。彼はドナルドソン選手の獲得が正式発表された26日夜にカマルゴ選手と二塁手のアルビース選手に連絡をとり、直接彼らに伝えたことを明かしている。特に定位置がなくなるカマルゴ選手に対しては、どれだけチームが彼を必要としているのかをしっかり説明したという。

 こうしたGMの何気ない気配りが、どれだけ選手の気持ちを楽にさせることだろうか。ドナルドソン選手獲得で感じていた選手たちの不安を解消させることで、彼らはオフは心置きなくトレーニングに集中できるし、またカマルゴ選手に至ってはユーティリティ選手として事前に準備も進めることができるのだ。

 チームに必要な戦力を揃えるのはGMの最重要任務だ。だが選手は感情のある人間だ。ただ理想の選手を集めただけでは、期待通りに機能しないこともあるだろう。今回アンソポウロスGMを慕ってブレーブス入りを選んだドナルドソン選手、そして同選手獲得で他選手への気配りを忘れなかったアンソポウロスGMの姿を見て、どこまで選手たちと心を通わせることができるかがGMの重要な資質であることを再認識させられた。

 まあ人間味溢れる上司がいる職場がうまく機能するのは、MLBに限ったことではないだろうが…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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