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「チームに迷惑かけない間は続ける」 42歳になった桜木ジェイアールが今も抱き続ける鈴木HCへの忠誠心

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
42歳になっても存在感を示し続ける桜木ジェイアール選手(筆者撮影)

 開幕5連敗と予想外のスタートを切った、昨シーズン中地区覇者のシーホース三河が、ようやくその本領を発揮し始めた。シーズン第6節で滋賀レイクスターズと敵地で戦い、77-56、78-75と連勝に成功し、5連敗の後5連勝を飾り、勝率を5割に戻している。

 鈴木貴美一HCもようやくチーム状態が上向いてきたことを認め、以下のように話している。

 「(5連敗から)一番変わったのはオフェンスですね。去年のガード陣2人(比江島慎選手、橋本竜馬選手)が移籍してしまったので、そういうイメージでバスケットを5試合やってしまった。(2選手がいた)前だったらそういうかたちでいい感じで点数がとれたんですけど、今は前みたいにとれないと…。その状態で無理なシュートをしている回数が多かったんですけど、しっかりチームでボールを回してシェアして動きながらやるという意識が出てきたので、オフェンスが改善されていいディフェンスもできるようになったということですね。

 シーズン当初とはまったく違う感じになって、ディフェンスっていうのはある程度の根性じゃないですけど、ディフェンス・ドリルをやったり球際の練習をすれば、ある程度のチームのディフェンスはできるんですけど、オフェンスっていうのは何回も失敗しながら成功しながら経験を積んで繰り返していかないと、なかなか簡単にはいかないんですけど、ちょっとした意識ですね。相手を思いやるとかメンタリティな部分も含めて、みんなでやらなきゃダメなんだ、個人でやったら勝てないよというのが、大分練習中から分かってきてですね、少しずつ変化してきました。理想とすればもうちょっと点数をとりたいというのがあるんですけど、まあ70%ぐらいにはなっていると思います」

 鈴木HCによれば、連敗を脱した第4節のサンロッカーズ渋谷戦がきっかけとなり、練習、試合ともに状態が上向いたようだ。1995年に同チームのHCに就任して以来ずっとチームを常勝軍団に仕立て上げてきたコーチだけに、ここから本格的に巻き返し態勢に入っていきそうだ。

 比江島選手、橋本選手という主力2選手を失いながらも、今シーズンもチームの精神的支柱になっているのが桜木ジェイアール選手だ。2001年に前身のアイシンシーホースに加わり、以来ずっとチームを支え続けてきた超ベテラン選手。前述のレイクスターズとの第2戦で42歳の誕生日を迎えることになったが、試合が接戦だったこともあり、チーム最長の38分29秒の出場時間で、13得点(チーム3位タイ)、8リバウンド(チーム2位)、8アシスト(チーム1位)──という大車輪の活躍でチームを勝利に導いている。

 40歳を超えて今なおチームの中心選手であり続ける桜木選手に対し、鈴木HCはどう感じているのだろうか。

 「(チームに)来た頃は元NBAということもあって40点ぐらい点数をとってパスしなかったんですよ。それがだんだん日本人選手を信用してパスをさばくようになってきて、それから急にチームが良くなっていきました。

 今ははっきりいって体力はありません。今日(10月29日の滋賀戦。一方的な試合展開で後半はあまり出場せず)なんかあまり出られなかったんですけど、しっかり出ている間にパスを配球して金丸選手に出そうと努力してくれるので…。どうしてもプライドのある選手は『今日はオレ2点しかとってないよ。今日は10点とりたい』と、どんどんスコアをとりにいっちゃうんですけど、彼はそこを我慢して他の選手を信用してパスしてくれるので、そういった意味ではやればやるほどチームのケミストリーが高まっていく1つの要素だと思います。

 経験を積めば人間が成長するかといえば大間違いで、後退する人もいるし、仕事でも何でも年をとれば成長するかといえば逆で、ダメになっていく人もいるけれど、彼の場合は毎年成長してくれているので本当にビックリしています」

 それでは当の桜木選手は、今シーズンのチームや自分の役割についてどう考えているのだろうか。

 「メンバーが入れ替わったし、スロースタートは覚悟していた。でもようやくチームのケミストリーも上がってきて、今は自信も出始めている。(自分の役割は)毎試合変化するものだ。その時々でチームが自分に求めていることをしっかり遂行できるように常に準備しているつもりだ。ただ基本的に自分はチームのファシリテーターであり、試合をつくり、オープンな選手にパスを回し、コート上のすべての選手をプレーに参加させるようにしている。

 今は自分自身を含め皆がよりよいプレーができる方法をみつけたんだ。(現在のプレースタイルなら)疲労も少ないし、身体への負担も減る。皆がシュートを放ち得点に絡めばハッピーになれるし、それで自分もハッピーになれる。前に自分がリーグの得点リーダーになりながらチームがプレーオフに進出できなかったことがあったんだ。その時にこのままじゃいけないなと思い、自分だけじゃ何もできない、チームメイトが必要だと考え方を変えたんだ」

 桜木選手自身も鈴木HCが期待する通り、自分がチームのまとめ役であることを十分に自覚してプレーを続けている。だが同HCが指摘するように年齢を重ねながら体力が落ちている一方で、日本バスケのレベルは確実に高くなっている。桜木選手にとってコートに立ち続けることは決して簡単なことではないはずだ。

 「とにかくしっかり管理することだ。ダイエット、練習、休養、すべてにおいてしっかり管理するしかない。もう若い時のように好きなものを好きなだけ食べるわけにはいかないし、そうした犠牲が必要になってくる。もう夜更かしはできないし、決まった時間には寝なきゃいけない。この年齢になれば自分がすることすべてが(選手生活に)影響している。

 このチームに長く在籍し、ずっとチームの成功を見てきたし、これからも見続けたいと思っている。自分はすごく競争心の強い性格で、毎年のチャレンジが楽しみで仕方がない。確かに年々タフになってくるけれど、だからこそ自分にとって大きなモチベーションになっている」

 今も前を向き続ける桜木選手だが、そう遠くない将来にコートを離れる決断を下さなければならない年齢に達しているのも事実だ。現時点で引退という2文字と、どう向き合っているのだろうか。

 「まだ考えてはいない。まだ身体は元気だ。どこか痛みを抱えるようになったら、考えないといけないだろうね。ただ自分が試合に出てチームに迷惑をかけるようになったら、その時は辞めるしかない。昨シーズンも得点、リバウンド、アシストとチームにポジティブな影響をもたらすことができた。そうやってチームにポジティブな面をもたらし迷惑かけない間は続けるつもりだ」

 ところで桜木選手は前述通り、入団以来ずっとシーホースでプレーし続けている。2007年には日本国籍を取得し、現在のBリーグなら帰化選手として引く手あまたの存在のはずだ。なぜシーホースに所属し続けているのだろうか。

 「すべてはコーチだ。自分はすごく忠誠を感じている。彼(鈴木HC)はNBA、大学時代を含めた自分のバスケ人生の中でナンバーワンのコーチであり、彼も自分のことを常に信頼してくれている。せっかく築き上げた信頼関係を自分から壊すようなことは絶対にしないだろう」

 まさに鈴木HCと桜木選手との信頼の歴史が、そのままシーホースの歴史といっても過言ではない。この2人がチームに揃っている限り、これからも成功の道を進み続けていくのだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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