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Bリーグ公式戦に海外リーグが参戦 韓国チームが日本人選手たちにもたらした確かな刺激

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
韓国チームでPGを任されていたグレン・コージー選手(筆者撮影)

 2018-19シーズンに先駆け、Bリーグは9月7~9日の日程で、全国6会場で『B.LEAGUE EARLY CUP 2018(以下、アーリーカップ)』を開催した。シーズン開幕前の公式戦として同リーグ所属35チーム(うちレバンガ北海道が地震の影響で出場辞退する)が参加し、熱い戦いを繰り広げた。

 そんな中、大阪で行われた『2018 KANSAI(以下、関西大会)』だけ唯一海外リーグのチームが参戦していた。韓国のプロリーグ『KBL』に所属するソウル三星サンダースで、名古屋ダイヤモンドドルフィンズとの練習試合のため日本に遠征していたこともあり、アーリーカップの参戦のオファーが届いたようだ。

 昨シーズンのサンダースは25勝29敗でリーグ10チーム中7位に終わり、6位までが進出できるプレーオフに回ることができなかったが、過去に2度リーグ制覇を達成している実績あるチームの1つ。しかも韓国は現在のFIBAランキングで日本の49位を上回る33位に入っており、KBL自体が決してレベルが低いわけではない。

 だがアーリーカップでは1回戦で西宮ストークスに58対61で敗れ、バンビシャス奈良との5位決定戦に回り、この試合を82対56で勝利し、1勝1敗で大会を終えた。結局今シーズンB2に所属する2チームと対戦しただけで、B1のトップチームとの対戦は実現せず戦績そのものは決して素晴らしいものではなかった。

 多少肩を持たせてもらえれば、サンダースは今シーズンに向け外国人2選手がチームに合流したのと同時に日本に乗り込んできた。チーム練習に十分な時間を割けていない中での実戦だったので、これがサンダース本来の実力ではないのは当然で、イ サンミンHCも勝敗を度外視した上でのアーリーカップ参戦だった。

 しかもKBLは今シーズンから外国人選手を対象に200センチ以下でないと契約できないという身長制限ルールを採用しており、関西大会に参加した他チームと比較してもサイズは明らかに小さかったことも、厳しい戦いを強いられる要因になっていたようだ。だがその戦績とは裏腹に、サンダースと対戦した2チームに確かな刺激を与えている。

 まずサンダースに敗れた奈良の石橋晴行HCはBリーグには珍しいプレースタイルを敗因に上げ、以下のように説明している。

 「韓国のチームによくある3ポイントにまったく対応できなかったのと、0番の選手に好き放題やられてしまったのが今日の敗因だと思います。(中略)あれだけ積極的に3ポイントを打ってくるチームはリーグにはいないので、そういった時にどういうふうに対応していかなければいけないかというのをこれから考えていかなきゃいけないと思いました」

 チームを強化していく上で様々なスタイルと対戦し、その時々に課題を見つけ出していくのは重要なことだ。それが海外のチームとの対戦ともなれば、チームにとってはまたとない好機といえるだろう。

 ちなみに石橋HCが指摘する「0番の選手」とは、今季サンダースに新加入したグレン・コージー選手のことだ。外国人選手に関してはビッグマンの補強が一般的なBリーグでは滅多にみられないPGの選手だ。前述通り彼はチームに合流したばかりで、今もチームメイトの特長や戦術を学んでいる最中だという。それでも彼の個人技は特筆すべきものがあり、西宮戦、奈良戦を通して印象的なプレーを披露していた。それはコート上でマッチアップした選手たちも同様だった。

 以下、コーディ選手と直接マッチアップした選手たちの声を紹介する。

●道原紀晃選手(西宮)

 「僕がマッチアップした選手とかも上手にピック&ロールを使ってきて、ビッグマンをうまく使っているなと。スカウティングレポートやビデオをチェックしたんですけど、シュート以外のところが凄く上手だなと実際の試合で体感しました。そういうのが上手にならないと世界とかに通用していかないなと実感したかなと思います。当たった時もすごく体幹がしっかりしているなという印象が僕の中にあって、すごくいい影響をもらえました。これを成長のきっかけにしていくべきと感じさせられたゲームでした」

●松崎賢人選手(西宮)

 「自分もシーズンに入る前にいろいろ試せる試合でもありましたし、その中で外国人とマッチアップというのはシーズンに入ってもなかなかないとは思うんですけど、貴重な経験をさせてもらったというのが率直な意見です。実際は思っていたよりサイズが小さかったというのがあるんですけど、その中でクイックネスというのはマッチアップしてみないと分からないところだったので、その中で自分が通用する部分としなかった部分が出たので今後に繋げていきたいなと思います。こうやって海外の選手を見本として、自分もそういったところを盗んでいってレベルアップを図っていきたいと思っているので、そういった部分で本当に良かったなと思います」

●横江豊選手(奈良)

 「外国人選手とのマッチアップというのはあまり気にしていなかったんですけど、結果的にそこですごくズレをつくられてしまったかなと感じて、1試合を通してみると、そこ(PG)からキックアウトして3ポイントを高確率で決められたというところで、もうちょっと内側のディフェンスをしっかりと全員が決まりを守ってやっていかないといけないと思いました。日本人では打たないところで3ポイントを打ってきたりしてました。今までプロのキャリアでやってきた中でもっとクリエイトする選手も見てきているので、そこまで驚かなかったというのが正直なところですね」

●前村雄大選手(奈良)

 「外国人選手がPGでしたけど、個人的にはやらせないように激しくディフェンスをチャレンジしていこうと思っていましたけど、チームとしてあそこが起点になっていたかたちになっていて、それがチームがいい方向に向かっていい雰囲気になっていたと思います。まあガードの選手が外国人選手というのは滅多に経験できないことですけど、それを試合中で監督の指示の下アジャストしていくという部分では、もの凄くチームとして成長できる試合だったかなと思います」

 サンダースと対戦して選手たちはこれだけのことを感じ取ることができたのだ。こんな貴重な経験を関西大会に参加したチームだけに限られているのは勿体ないことこの上ない。むしろ将来的にはアーリーカップすべての大会で海外リーグのチームが参戦できるようにしていくのが理想的ではないだろうか。

 これはサンダーズにとっても貴重な実戦経験を積める場としてアーリーカップ参戦を歓迎している。昨今のKBLはプレシーズンマッチが組まれなくなっており、練習試合を行わなければ開幕まで実戦を経験できる機会はないらしく、イHCは以下のように説明している。

 「今回は日本遠征を兼ねてこちらに来て大会に参加していますが、最後のゲームに勝てて良かったというのが1つと、KBL開幕の準備の過程で勝敗というよりチーム合わせが重要でしたのでいいかたちで終えられて良かったと思います。

 (アーリーカップは)練習試合というより公式の大会ですので、外国人選手が合流してからのチームにとってもいい成果が上げられたと思っています。機会があればまた参加したいと考えています。遠征を兼ねてこうした大会にできるということはとても意味があることなので、他のチームもこういうチャンスがあれば参加するのではないでしょうか」

 すでにBリーグから発表されているように、昨シーズンのリーグ覇者のアルバルク東京は、9月27日から始まるアジアのクラブチャンピオンを争う『FIBA Asia Champions Cup 2018』の出場が決まっている。Bリーグは今後も同イベントにリーグ覇者を送り込んでいく予定で、アジア最強のリーグを目指していく上でもKBLに限らず中国、台湾、フィリピン、タイなどの各リーグからの参戦を打診してみるのも面白いだろう。

 アーリーカップは、シーズン開幕前に応援チームを公式戦で観てみたいというブースターにとって楽しみなイベントではあるだろう。だがその一方で、この時期は各チームとも開幕前の準備段階であり、代表活動で出場できない選手もいる中ではどうしてもシーズン中のようなプレーを披露するのは困難なのも事実だ。それならばアーリーカップでしか味わえない付加価値を増やしていくことで、ブースターの関心を増していくというのも1つの手段だ。海外リーグの更なる参戦はまさにその付加価値になるのではないだろうか。

 ぜひBリーグには検討をお願いしたいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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