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不祥事が相次いだ京都ハンナリーズはファン、スポンサーの信頼を取り戻せるのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
記者会見に臨む高田典彦代表取締役社長(左)と阿部達也強化編成担当部長(筆者撮影)

 Bリーグの京都ハンナリーズは5日、チームオフィスで記者会見を開き、先の8月30日に窃盗容疑で逮捕されていた(さらに翌31日も別件の窃盗容疑で再逮捕されている)坂東拓選手について、Bリーグの選手統一契約書に違反したとして9月4日付けで契約解除したことを明らかにした。現在も拘留中の坂東選手に接見した上で、本人にも通達済みだという。

 ハンナリーズとしては、同チーム所属の永吉佑也選手が、日本代表として参加していたアジア大会中に買春行為が発覚し、日本バスケットボール協会から1年間の出場停止処分が下ったばかりの今回の不祥事だっただけに、チームに与えた衝撃は相当に大きなものであることは間違いない。だがそれ以上に、不祥事が相次いだことでチームに対するファンやスポンサーの信頼は完全に失墜したことを忘れてはならない。

 会見に臨んだチームの運営母体である『スポーツコミュケーションKYOTO』の高田典彦代表取締役社長は「管理監督責任があると重く受け止めています」とした上で、坂東選手の処分の他に、高田社長(3ヶ月間の役員報酬の30%)、阿部達也強化編成担当部長(2ヶ月間の契約書に基づく報酬の10%)、浜口炎HC(2ヶ月間の契約書に基づく報酬の10%)の減俸処分も併せて明らかにした。

 ただ高田社長が説明したところでは、永吉選手の一件が起こって以降、社長自ら選手、スタッフに対し2度にわたり行動を注意するよう訓辞を行っていたという。にもかかわらず罪を犯してしまった坂東選手の道徳性の欠如は言語道断であり、チームへの同情の余地がないとは言い切れない面もある。

 そして高田社長は今後の再発防止策として以下の3つを提示し、「二度とこのようなことが起こらないことをお約束します」と力を込めた。すでにBリーグと話し合いの結果3)に関連して、9月10日に選手、スタッフ、職員の前で大河チェアマンの講話が実施されることが決定しているという。

 1)社長・役員による定期的な選手・スタッフ・職員との個別面談の実施

 2)専門家による選手・スタッフ・職員へのメンタルカウンセリングの実施

 3)Bリーグが行う選手研修内容に基づいた、集合研修の定期的な実施

 今回の会見では処分発表と謝罪が目的だったこともあり、参加したメディアからの質問が尽きるまで高田社長が丁寧に対応した。だがここ最近バスケットのみならず各スポーツ界で不祥事が相次ぐ中で、様々な当該協会、チーム、指導者、選手らの対応を目撃してきた中で、ハンナリーズの対応がファンやスポンサーを納得させるに十分なものだったかについては多少の疑問が残るところだ。

 坂東選手の事件が発覚してからチームがとった対応は、当日に高田社長が公式サイトを通じて声明を発表し、さらに9月1日に奈良で実施されたバンビシャス奈良とのプレシーズンゲームで高田社長が挨拶に立っただけで、今回の記者会見までチームから坂東選手の件に関する状況説明はなされなかった。

 会見上で高田社長は今日の会見に至るまで、「情報収集と事件の確認に努めてきました」と説明している。確かに情報が確認できるまでは公に伝えるような具的的な要素がなかったのかもしれない。だが不祥事が発覚してからは、間違いなくファンやスポンサーはやきもきしている日々を過ごしていたはずだ。そうした人たちを納得させるためにも、新しい情報がなくても何らかのかたちで状況説明していくべきではなかったのではないか。

 しかも今回の会見はSNSなどのライブ配信を通じてファンやスポンサーに直接届けられてはいない。あくまで彼らは自分を含めたメディアを通して内容を知るしかないのだ。ただスポンサーは営業スタッフを通じて謝罪や説明を直接受けることは可能である一方で、ファンはそういうわけにはいかないのだが、高田社長は「今後興行等の場所をお借りしまして、その場でブースター(ファン)の方々に説明を行っていきたいと考えております」と説明している。本当にそれでいいのだろうか。

 ファンが集まる興行となればやはり一番はホーム試合になってくる。現時点で確認できる限り、ハンナリーズが最初にホームで戦うのは10月12日であり1ヶ月以上も先の話だ。たぶん高田社長はホーム試合の興行を考慮しているのだろうが、それでも坂東選手の件はチームの責任である以上、すぐにでもファンに直接メッセージを伝える場を設けるべきではなかろうか。

 さらにいえば、ファンが今一番に聞きたい声は高田社長ではないと思う。2つの不祥事を乗り越え、浜口HC以下選手たちがどう考え今シーズンに臨もうとしているのか、そうした彼らの声を聞きたいと願望しているはずだ。そうしたファンの思いにも応えていくべきだろう。

 チームにとってメディアはメッセージを伝える相手ではない。メディアは仲介者であって、あくまでメッセージを届けるのはファンであり、スポンサーでなければならない。ハンナリーズも“ファン第一、“スポンサー第一”を意識して入れば、もう少し違った対応ができていたように思う。

 いずれにせよ今シーズンのハンナリーズは信頼回復の1年になる。まさにチームとしての真価が問われる時だ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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