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今こそアスリートと性の関係について考える

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
アジア大会日本代表団の認定を取り消され帰国後謝罪会見を行ったバスケ代表4選手(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 アジア大会バスケ日本代表4選手が試合後に繁華街に外出し買春行為を行っていたことが判明し、JOC代表選手団の行動規範にある「競技を離れた場合でも社会の規範となる行動を心がける」に抵触したとして代表団の認定を取り消され、20日に緊急帰国した。その後選手たちはJBA主催の記者会見に出席し、謝罪を表明している。

 彼らが行動規範に抵触したのは揺るぎのない事実だ。選手村から離れた場であればこそ、公式ウェアを着用している責任感を抱くべきであるにもかかわらず、彼らのとった行動はあまりに軽率すぎた。会見で4選手すべてが違法性を感じていたという認識を示しているなら、尚更罪深いものだ。

 今回の一件で日本バスケのイメージダウンは免れないし、3シーズン目の開幕を10月に控え、更なるファン層の拡大を目指しているBリーグに対しても多大な悪影響を及ぼすのは必至だろう。選手を出席させての記者会見を実施したのは決して悪い対応ではなかったが、今後もJBA、Bリーグがしっかりした措置を講じていかないと、ファンを含め世間を納得させることはできないだろう。また当該選手たちはこれ以降、その行動が必要以上に衆人環視の中に置かれることになるだろう。それを肝に銘じておくべきだ。

 ただ今回の件を機に、選手と性の関係もしっかり考えていくべきではないだろうか。

 国を代表するアスリート達は、人々から参加する大会で最高のパフォーマンスを披露することを期待されている。それが五輪やW杯などの国際大会となれば、その期待値はさらに高まる。だがその一方で、アスリートたちが環境の違う国外で実施される国際大会で、自分のパフォーマンスを発揮するのは決して簡単なことではない。

 アスリートが最高のパフォーマンスを発揮する上で、“オン”と“オフ”が重要だといわれている。“オン”である競技の場で最高のパフォーマンスを発揮するために、休養の場である“オフ”で心身ともにリラックスさせることは必要不可欠だ。拘束時間が長くなる大きな大会になればなるほど、その必要性は高まることになる。そしてそのリラックスの手段として性行為を利用しているアスリートもいるだろう。いや、長年の取材活動の経験から、間違いなくそうしたアスリートは存在している。

 すでに各五輪大会の選手村でコンドームが無料配布されているのは、あまりに有名な話だ。2016年のリオ五輪では史上最多、アスリート1人当たり42個に相当する45万個(うち10万個は女性用)が無料配布され、今年の平昌五輪でも同37個に相当する11万個が無料配布されている。選手村内でのアスリートたちの性交渉は公然と行われているといっていい。

 また自分が長年取材してきたMLBでは、2014年まで売春が完全合法だった(現在は一部違法になっている)カナダに遠征にいくと、買春を利用している選手がいることはメディアの間で公然の秘密だった。知り合いの米国人メディアから何度となく話を聞かせてもらっている。もちろん違法行為は一切ないし、彼らにとっての大事な“オフ”の場であるのだから何も問題もないので、そうしたことが報道されたこともない。

 さらに公になっているものでも、今年のW杯に参加するメキシコ代表チームの複数人が渡欧直前に大勢の売春婦とパーティーしていたことが判明し大騒ぎになっているし(ただメキシコサッカー協会は選手たちの行為を不問に付し、当該全選手をそのままW杯に参加させている)、またゴルフ界のスーパースターだったタイガー・ウッズ選手が買春行為も含め複数の女性たちと次々に関係を持ったことが発覚し、セックス依存症と診断されたこともあった。

 ちなみに世界中の論争等について調査している米国の非営利無党派団体である『ProCon.org』によれば、インドネシアには売買春に関する法律はなく合法だということだ。つまり当該4選手はあくまで行動規範には抵触しているものの、同地での違法行為は行っていないことになる。

 改めて断言するが、国費を利用しているJOC選手団に所属しているのであれば、その行動規範に従わなければならない。たとえ公式ウェアではなく私服だったとしても、インドネシアでは合法でも日本では違法である買春行為を行ったことは、間違いなく行動規範に抵触している。だがその一方で、行動規範を遵守するため大会期間中の性行為を禁止するとなれば、それはまた別次元の話になってこないだろうか。大会期間中といえども性行為そのものを否定してしまうというのは正しい考え方だとは思えない。

 仮定の話で恐縮だが、もし仮にどこかの五輪大会である日本人アスリートが私服姿でその国では合法の買春行為を行い、また別の日本人アスリートは選手村内で他のアスリートや村内のスタッフを口説いては複数回に及び性行為を行い、いずれも素晴らしい成績を残したとしよう。行動規範に抵触しているという点では両アスリートともに同じだと思うが、前者のアスリートの行為は今回のように発覚する可能性がある一方で、後者アスリートは決して公になることはないだろう。

 両者の違いは、後者が性行為のパートナーを自分で探したのに対し、前者は合法的に買春によって性行為を行ったということだ。そういった面から考えれば、買春行為が発覚した前者アスリートが糾弾され、後者アスリートは問題にすらならないというのは、決して公平ではないと考えられないだろうか。

 アスリート達も人間だ。趣味嗜好、リラックス方法も十人十色だ。2020年の東京五輪で多くのアスリートたちの活躍が期待されている。選手たちに最高のパフォーマンスを発揮してもらうためにも、JOCは行動規範だけにとらわれず、様々な角度からアスリートをサポートできるガイダンスを検討していくべきではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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