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大谷翔平の投手復帰が間近に迫りエンゼルスに託された“究極の二択”

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大谷翔平選手の投手復帰が間近になりマイク・ソーシア監督(左)の決断は?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 すでに複数回のブルペン入りを果たし、大谷翔平選手の投手復帰が秒読み段階に入ってきた。チーム、ファンともに大谷選手の本格的な二刀流復帰を待ち望んでいるのは間違いないところだが、その前にエンゼルスは大谷選手に関し“究極の二択”ともいえる大きな決断を下さなければならないのだ。

 この二択については大谷選手がキャッチボールを再開した時点で有料記事で指摘させてもらっていたのだが、いよいよそれが間近に迫り改めて考えてみたいと思う。

 負傷した投手の復帰プランは、通常キャッチボール再開から始まり、ブルペン入り→シート打撃登板(もしくは模擬試合登板)→マイナーでの実戦登板→メジャー復帰──となる。現時点で大谷選手はブルペン入りまで進んでいるので、次回はシート打撃や模擬試合で投げることになるのだが、問題は最終調整段階のマイナーでの実戦登板だ。

 というのも、故障者リスト(DL)入りしている投手なら「リハビリ登板(英語ではRehabilitation Assignment)」として最大で30日間まで“特別枠”でマイナーで実戦登板できるのだが、二刀流の大谷選手はすでに打者として復帰を果たし、すでにDLから外れているので、このリハビリ登板の対象外選手になってしまう。

 NPBの場合なら1軍の出場登録をしている選手は、登録抹消されなくても2軍戦に出場することが可能だ。しかしMLBではマイナーにも25人の登録枠が設定されているので、それ以外の選手が出場することができない。そこでDL入り選手を対象にリハビリ登板という特別枠が設定されているわけだ。つまり現時点での大谷選手はDLから外れメジャーの25人枠に入っている状態なので、通常のリハビリ登板ができないのだ。

 もし大谷選手をマイナーで実戦登板をさせたいと考えるならば、一度マイナーに降格させなくてはならない。もちろんMLB1年目の大谷選手はマイナーに降格させることができるオプションを有しているので、手続き上は何の問題もない。だが一度マイナーに降格してしまうと、最低10日間経過しないとメジャーに再昇格できないので、その間は打者としてメジャーの試合に出場できなくなってしまうのだ。

 大谷選手がリハビリ登板目的で期限ギリギリの10日間マイナーに回ることになれば、中6日間で投げている大谷選手は2度の実戦登板を果たすことができるし、その間はマイナーで指名打者として打席にも立てるので二刀流としての調整はまったく問題ない。だが現在チーム最強打者のマイク・トラウト選手がDL入りしている中で、トラウト選手以外で(最低50試合以上出場している選手中で)最も高いOPS(長打率+出塁率)を残している大谷選手を10日間マイナーに回すのはチームにとってあまりにも大きな損失となってしまう。

 つまりエンゼルスに突きつけられている二択とは、大谷選手を打者として起用し続けながら模擬試合だけで実戦登板無しで投手復帰させるのか、それとも戦力ダウンを覚悟してマイナーに降格して実戦登板をさせてから投手復帰させるのか──のいずれかを選ばなければならないということだ。まさに二刀流選手ならではの究極の選択といっていいだろう。

 とはいえ、有料記事で指摘させてもらった時とは、チーム事情が多少変化してきている。ウェーバー無しのトレード期限内にマーティン・マルドナド選手、イアン・キンズラー選手の主力2選手を放出し、チームは今シーズンのポストシーズン争いから事実上撤退をしている。すでにチームは来シーズン以降を見据えた戦いをしており、目前の勝利にこだわる必要は無い。大谷選手は6月6日から2ヶ月以上も実戦から遠ざかっていることを考えれば、やはり復帰前に次戦登板を踏んだ方が理想的だし、マイナーに回しやすい環境になっていると考えられる。そういった意味では難しい選択ではないのかもしれない。

 ただチームが熾烈なポストシーズン争いをしている中で、大谷選手が同じような状況を迎えていたとしたなら、この時期に10日間でも彼を失うという決断を下すのはかなり難しいものになっていただろう。さらに将来的に大谷選手がマイナー降格のオプションをすべて消化してしまったら、マイナー降格させるという選択肢そのものもなくなってしまうのだ(たぶん再度DL入りさせてリハビリ登板させるしかないのだと推測する)。

 これもNPBとはルールが違うMLBで二刀流を続ける難しさなのだろう。いずれにせよエンゼルスがどのような決断を下すのか注目したい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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