すでにMLBではフル活用されている選手会が標榜する現役ドラフト
『日刊スポーツ』が報じたところでは、2日にNPBと事務折衝を行ったプロ野球選手会が、現役ドラフトの必要性を説き、引き続き両者間で討議を続けていくことになったという。
記事によれば、選手会は7月のオールスター戦期間中に臨時大会を開き、構造改革ビジョンの一環として現役ドラフトについて話し合っており、その実現に向けて早速今回の事務折衝で議題にあげたようだ。もし同制度が実現すれば、選手会の狙い通り移籍の活性化に繋がることになるだろう。
同制度の実現性については今後の話し合いを見守っていくしかないが、同制度の効用についてはある程度推察できる。というのも、MLBではすでに長年にわたりMLB版の現役ドラフトが存在し、それがどのように機能しているのかを考察していけば、おおよその見当がつくだろう。
今年もウェーバー無しのトレード期限日内に多くのトレードが成立し、FA移籍も活発なMLBではあるが、実はワールドシリーズが始める前の1892年からMLB版の現役ドラフトは存在に、時代とともに変遷を繰り返しながら今も脈々と存在し続けている。現在は『Rule 5 ドラフト』というかたちになり、毎年多くの若手有望選手たちが指名を受けている。
中でもMLB版の現役ドラフトの指名を受け、大きな成功を収めた選手の1人が、ロベルト・クレメンテ選手だろう。1954年に19歳でドジャースと契約したものの、その年は一度もMLBに昇格できないままシーズンを終えると、パイレーツから現役ドラフトの指名を受け移籍。翌年から新チームで主力として活躍し、飛行機事故で他界するまでパイレーツ一筋18年間で、MVP受賞1回、オールスター戦出場12回、通算3000安打を記録し、他界した翌年に特別枠で殿堂入りを果たしたMLB史に刻まれる名選手だ。
とりあえず現行制度について簡単に説明しておくと、毎年12月に開催されているウィンターミーティング期間中に実施され、ドラフト対象になる選手はすべて現役選手だ。毎年6月に実施されているアマチュア向けドラフト(こちらは『Rule 4 ドラフト』と呼ばれる)とは違い、すべてのチームが必ず指名する必要は無く、希望チームだけが指名するというものだ。
指名有資格選手は、18歳以下でプロ入りし5年以上のプロ経験のある選手、もしくは19歳以上でプロ入りし4年以上のプロ経験がある選手で、しかも40人枠(MLBの公式戦に出場できる最低条件)に入っていないことが条件となる。指名を受けた選手は新チームで25人枠(MLB公式戦にベンチ入りできる出場枠)入りが義務づけられおり、自動的に翌シーズンの開幕メジャーが保証されることになる。
だが新チームで開幕メジャーが難しいと判断された場合、その選手はウェーバーにかけられ、ウェーバーにクレームするチームが現れればまた別のチームで25人枠入りが保証され、もしくはウェーバーがクリアになれば指名前の所属チームに戻らなくてはならなくなる。これが大まかな流れだ。
つまりMLB版の現役ドラフトは、長年マイナーで“飼い殺し”状態にある若手有望選手の救済制度といえる。もちろんすべての選手がそのチャンスを生かせるわけではなく、再び旧チームに戻らなければならない場合も多々ある。だが指名を受けた選手たちは全員が最低でもオープン戦を含めMLBレベルで出場できる機会が与えられるのだ。これほど大きなチャンスはないはずだ。
実際そのチャンスを生かした選手は、クレメンテ選手のみならず数多く存在している。オールスター戦に出場したような有名なところだけでも、ジョシュ・ハミルトン選手、ホゼ・バティスタ選手、シェーン・ビクトリーノ選手、ヨハン・サンタナ投手、RA・ディッキー投手、ワキーム・ソリア投手、ダレン・オデイ投手──と枚挙にいとまがない。特にビクトリーノ選手に関しては、2度も現役ドラフトの指名を受けているほどだ。
NPBにもなかなか1軍に昇格できない若手有望選手が存在するはずだ。そうした選手にチャレンジする機会を与える意味でも、現役ドラフトは日本でも導入されるべきではないだろうか。