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開幕前の“超窓際族”からオールスター戦出場を果たしたマット・ケンプの大逆転人生

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
6年ぶりにオールスター戦出場を決めたマット・ケンプ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLBは現地8日、今月17日に開催されるオールスター戦に出場する全選手(最終ファン投票による選手は除く)を発表し、その中にドジャースのマット・ケンプ選手が入った。ケンプ選手にとって6年ぶり3回目の出場で、ファン投票選出により先発ラインアップに名を連ねる栄誉にもよくした。

 ここまでの今シーズンの成績は打率.319、15本塁打、57打点と打線の主軸を担い、左手首骨折で開幕に間に合わなかったジェフ・ターナー選手や右ヒジのトミージョン手術のため途中離脱したコーリー・シーガー選手の穴を埋め続けた。まさにオールスター戦選出に相応しい活躍だった。だがシーズン開幕前にここまでの活躍をするとはケンプ選手本人も含めて誰も想像しなかっただろう。むしろ多くのメディアは、彼がドジャースのユニフォームを着て開幕を迎えることはないだろうと予測していたほどだった。

 ケンプ選手は昨年12月16日にブレーブスとの間で成立したトレードで、4年ぶりに古巣ドジャースに復帰した。トレード成立当初は両チームによる余剰人員の整理が目的だとされ、批難を受けたりもした。実際のところブレーブスに移った4選手のうち、エイドリアン・ゴンザレス選手とスコット・カズミア投手の2人がブレーブスから解雇されている。

 ケンプ選手を獲得したドジャースも昨シーズンまで地区5連覇を達成し、さらに昨シーズンは29年ぶりにワールドシリーズ進出を果たしている。次々に若手選手が台頭し選手層も厚く、ケンプ選手が付け入る隙はなさそうに見えた。また当のケンプ選手自身もすでにピークを過ぎた選手だと目されていた。

 2003年にドラフト6巡目指名でドジャース入り。06年に若干21歳でMLBデビューを飾ると、08年から先発外野手に定着し、11年には39本塁打、126打点で二冠王に輝き、すっかりドジャースの若きエースの座に君臨した。12年オフには8年間の大型契約を結び、将来を約束されたかに思われた。

 しかし11年の二冠王をピークに成績は下降線を辿り、負傷も手伝って出場試合も限られるようになった。しかも見るからに体重も増えていきベストコンディションを維持できなくなり、ドジャースはケンプ選手の将来性を見限り、14年オフにパドレスに放出する決断を下した。

 パドレスに移籍してからもドジャース時代の輝きを取り戻すことはなく、今度は16年のシーズン途中にパドレスからブレーブスにトレードに出される始末。結局ブレーブスでも目立った活躍ができないまま、ドジャースに戻ることになったわけなのだが、昨年も相変わらず体重オーバーは明らかで、誰もが人員整理目的のトレードだと考えてもおかしくない状況だった。

 ところが、だ。今年ドジャースのキャンプ施設に現れたケンプ選手はまったく別人になっていた。オフの間に41パウンド(約19キロ)のダイエットを敢行し、キャンプインしてきたのだ。ちなみに昨年ブレーブス時代の公表体重は210パウンド(約95キロ)だったのだが、仮に身長193センチの彼が210パウンドから41パウンドの減量に成功すれば、170パウンド(約77キロ)とあり得ない体重になってしまう。昨年までどれほど体重オーバーしていたかが窺い知れるだろう。

 生まれ変わったケンプ選手は身体のキレも取り戻した。キャンプ中に打撃はもとより守備面でも大幅な改善を披露し、最終的に周囲の予測に反しドジャースの一員として開幕を迎え、シーズンに入っても前述通り目覚ましい活躍を続けた。

 現在33歳のケンプ選手の契約は来シーズンまで残っている。シーズン後半戦もこのままの活躍を続けられれば、ドジャースで契約を全うできるばかりか契約延長をも期待できるだろう。まさに見事すぎる大逆転劇ではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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