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ダルビッシュ有は“負の連鎖”を断ち切ることができるのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今も完全な体調を取り戻せず苦しんでいるダルビッシュ有投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLB公式サイトは現地29日、右上腕三頭筋腱炎のため故障者リスト(DL)入りしているダルビッシュ有投手が、今度は右ヒジ炎症を起こしコーチゾン注射(消炎効果のある治療法)を受けたと報じた。

 5月26日にDL入りしたダルビッシュ投手は復帰を目指しリハビリに専念し、先週模擬試合での投球を実施するまでに回復。7月2日からマイナーリーグで実戦登板に移行する予定だったが、28日に実施されたブルペン投球で右ヒジ痛を訴えたため、急きょコーチゾン注射の治療を行った。さらにチームが発表したところでは、ダルビッシュ投手は29日にチームを離れダラスに飛び、レンジャーズ時代のチーム医師の診断を受けたという。

 とりあえず診断結果を待ちその間はキャッチボールも再開できないことになるが、ブルペン投球を見守ったジョー・マドン監督は「通常の投球ストロークでなかったのは明らかだった。普通に考えれば、またリハビリに戻ることになるだろう」と説明し、復帰が先送りになった見通しを示した。

 今シーズンのダルビッシュ投手は明らかに万全の体調を維持するのに苦しんでいる。インフルエンザの症状で登板回避を余儀なくされたことがあり、それ以降右脚のふくらはぎがつり4回途中降板、そして上腕三頭筋腱炎を起こしDL入りし、復帰間近になって今度は右ヒジ痛が発生と、明らかに“負の連鎖”が続いている。

 今回カブスのチーム医師ではなく、わざわざレンジャーズ時代のチーム医師の診断を仰いだわけだが、やはり2015年に受けたトミージョン手術を執刀した医師の意見を聞くのは懸命な判断だろう。当時も右ヒジ内側側副靱帯の損傷が発見される直前に、ダルビッシュ投手は上腕三頭筋の張りを訴えていたのだ。やはりその関連性を含めての医師の意見を確認すべきだろう。

 本来ならトミージョン手術後2年目以降(ダルビッシュ投手の場合は2017年以降)はヒジの状態を含め体調面に問題はなく投げられるようになるといわれている。だからこそカブスもこのオフに、ダルビッシュ投手を6年契約で迎え入れたのだ。まさに今回の長期離脱はチームにとって不測の事態といっていい。

 だがその一方で、ダルビッシュ投手自身はトミージョン手術後ずっと試行錯誤の状態だった。4月16日に投稿したツイートからも彼が抱えている現状が理解できるだろう。

 すでに本欄でも指摘しているように、復帰率が高いとはいえトミージョン手術は完璧な治療法ではない。MLB公式サイトが紹介している調査では、トミージョン手術を受けた投手の半数以上が今回のダルビッシュ投手のように投球腕の負傷でDL入りしているし、さらに復帰した全投手の19%が再びヒジの手術受け、25%が肩の手術を受けている。つまりトミージョン手術を受けたからといって、手術前の状態に戻れない投手も少なからず存在しているのだ。

 これまで何度も批判を浴びたダルビッシュ投手を擁護してきたマドン監督が説明しているように、体調が万全であれば現在でもMLB屈指の先発投手であることに疑う余地はないだろう。そのもどかしさに一番苦しんでいるのはダルビッシュ投手本人のはずだ。しかし研究家の彼をもってしても、右ヒジを手術前とまったく同じ状態に戻すことは不可能だ。今後も試行錯誤を続けていくしかない。

 果たしてダルビッシュ投手は“負の連鎖”を断ち切ることができるのだろうか…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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