最近起こった悲劇から考える大谷翔平の右ヒジ
大谷翔平選手が右ヒジ内側側副じん帯損傷によりDL入りしたニュースは日米に大きな衝撃を与えた。すでに本欄でも報告している通り損傷の詳細はチームから明らかになっていないが、損傷程度の「グレード2」は軽傷ではなく決して楽観視できる状況ではない。
とりあえず再検査までの3週間でどこまで回復できるか次第だが、最悪の場合は新たなじん帯を移植するトミージョン手術を受けることも想定しておかねばならない。だがビリー・エプラーGMが手術回避を願っているように、すでに投打ともに大きな存在感を示している大谷選手の長期離脱は避けたいところだろう。
今ではヒジ内側側副じん帯損傷の治療法としてすっかり定着しているトミージョン手術だが、もちろん100%信頼できるものではない。それを物語るように、つい最近トミージョン手術に関連して、1つの悲劇が起こっているのだ。
カージナルスのアレックス・レイエス投手は大谷選手と同じ23歳の有望右腕投手だ。2012年にドミニカ在住のアマチュアFA選手としてカージナルス入りし、4年後の2016年に21歳でMLBデビューを飾り、そのシーズンは5試合の先発を含む12試合に登板し、4勝1敗1セーブ、防御率1.57、46イニングで52奪三振──と堂々の成績を残した。
しかし2017年2月に右ヒジ内側側副じん帯が完全に断裂しているのがみつかり、即座にトミージョン手術を受けざるを得なくなった。昨シーズンはリハビリを続け、ようやく5月20日のブルワーズ戦で復帰したのだが、その復帰戦で右広背筋の違和感を訴え、4イニングで交代していた。翌日精密検査を行ったところ広背筋の腱に断裂箇所がみつかり、その修復手術を受け再び長期離脱を余儀なくされたのだ。
今回の広背筋の負傷とトミージョン手術との関連性を明確にすることは難しいだろう。だがカージナルスのメディカル・スタッフは細心の注意を払ってレイエス投手の復帰をモニタリングしてきたはずなのに、復帰初戦で別の大きな負傷を招いてしまったことは変えようのない事実だ。一応来シーズンの開幕から復帰できる予定だというが、今後は先発での起用法について見直さざるを得ないという。
そこで改めてトミージョン手術について考えてみたい。MLB公式サイトにはトミージョン手術について紹介している『TOMMY JOHN FAQ』という特設ページが存在している。それによればトミージョン手術は他の手術と比較して復帰率が非常に高く、手術を受けた選手の70~80%が手術前のレベルに戻っているという。
それ以外にも2014年に発表された医学論文でも、トミージョン手術を受けた179人のMLB投手のうち83%の148人がMLBで復帰登板を果たし、97.2%の174人がマイナーを含めて試合で登板できるまで回復しているという。
例えば今シーズンからレイズに所属する中継ぎ左腕のジョニー・ベンタース投手は3度目のトミージョン手術を受け、6年ぶりにMLBで復帰登板を果たしている。やはりトミージョン手術の復帰率の高さを物語るものだろう。
だがその一方でMLB公式サイトが紹介しているところでは、1999年から2011年までにトミージョン手術を受けた投手の半数以上が復帰後に腕の負傷でDL入りを経験している調査があるほか、また別の調査ではトミージョン手術から復帰した投手の19%が新たなヒジの手術を余儀なくされ、25%が投球腕の肩の手術を受けているのだ。
つまりトミージョン手術は復帰率が高く、ヒジ内側側副じん帯を損傷した選手たちに最も有効な治療法ではあるが、今回のレイエス投手の悲劇が示すように、手術を受けた選手は復帰後に別のリスクに見舞われる可能性があることを見逃すことはできないのだ。
もちろん大谷選手の回復が芳しくなければ、トミージョン手術を回避できない場合もあるだろう。だが手術から復帰後のリスクを考慮すれば、右ヒジにメスを入れるのは避けたいところだ。とりあえず再検査の結果が待たれる。