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日本にいながら大谷翔平を投打ともにMLBトップクラスに育て上げた日本ハムの育成力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
投打ともにMLBトップクラスの活躍を続ける大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 シーズン開幕から投打ともに衝撃的な活躍を続け4月の月間最優秀新人選手に選出されると、5月も引き続きその勢いが止まらない大谷翔平選手。彼の活躍を受け各分野で彼のプレーがデータ解析されているが、すでに投打ともにMLBのトップレベルであることが明らかになっている。

 MLB通算696本塁打を記録しているアレックス・ロドリゲス氏が大谷選手のプレーぶりを「MLBがまるで高校野球のように見えてしまう」と評価しているように、23歳ながら世界最高峰リーグで圧倒的な存在を示している。それはロドリゲス氏がわずか18歳346日でMLB初昇格を果たし、20歳で首位打者のタイトルを獲得したようなインパクトといっていいだろう。

 仮に大谷選手が当初の希望通り、高校卒業と同時にMLBに挑戦していたなら、現在のようなインパクトを与えることはなかったはずだ。大谷選手本人も認めているように、直接MLBに挑戦していたら二刀流はできていなかったからだ。あくまで二刀流は彼を強行指名した日本ハム・栗山監督のアイディアであり、MLBのみならず日本球界でも“非常識”な育成プランだった。

 今だからいえることだが、日本ハムを選んでいなければ投打ともにMLBトップクラスに入れるような選手に絶対になれなかった。これまでMLBに挑戦した何人もの日本人選手から「こっちに来るのなら1日も早いほうがいい」と聞いていただけに、個人的には日本ハムを選んだ当初はMLB挑戦が遠回りになってしまうと危惧していたが、結果は大谷選手の選択は大正解であり、日本ハムで素晴らしい5年間を過ごし、最高のかたちでMLB挑戦へと移行することができた。そして今では彼の存在自体がMLBの常識をも覆してしまっている。

 ただ大谷選手の才能を考えれば、直接MLBに挑戦していたのならロドリゲス氏のように早くからMLBに昇格し、今頃は投手としてMLB屈指の豪腕投手になっていたかもしれない。だがMLBの現状をみれば、現実はそれほど甘くはなさそうだ。

 MLBの場合、大谷選手と同じ今年プロ6年目を迎える選手は2013年ドラフト組になるのだが、現時点でMLBでスター級の活躍をしている選手はクリス・ブライアント選手とアーロン・ジャッジ選手、コディー・ベリンジャー選手の3人くらいで、投手は1人も存在しない。しかも高卒プロ入り選手に限ればベリンジャー選手だけだ。

 ちなみに2013年ドラフト組の高卒選手ではベリンジャー選手を除けば、順調なパターンでも昨年辺りから出場枠拡大に伴いMLB初昇格を果たしているものの、まだMLBに定着できていない選手がほとんどだ。投手に至っては1巡目指名を受けた4人全員がまだ一度もMLBに到達できていない。プロ1年目から1軍でどんどん経験を積んできた大谷選手が、日本ハムの5年間でどれだけ順調に成長できたのかが窺い知れるだろう。

 「僕が考える大リーグへ行く理想の道は、細かい技術を覚えていくのは日本でやりながら技術を身につけ、そのままメジャー契約でアメリカに行く。これが一番いい道だと一生懸命説得しました」

 昨年11月15日に外国特派員協会主催の記者会見で以上のように話していた栗山監督の情熱と信念があったからこそ、誰もが驚嘆するような大谷選手が作り上げられたのだと思う。今でも有望選手が直接MLBに挑戦し、向こうの組織でどのように成長していくのかを見てみたいという期待は薄らいでいないが、ただ大谷選手の活躍を見ていて、育成の理想のかたちは決して1つではないということを認識することができた。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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