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海外7カ国のリーグを渡り歩いたウィリアム・マクドナルドがBリーグ初参戦で翻意したこと

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨年まで14年間海外7リーグで戦ってきたウィリアム・マクドナルド選手(筆者撮影)

 シーズン途中の昨年11月に横浜ビー・コルセアーズ入りしたウィリアム・マクドナルド選手。ここ最近は元NBA選手のハシーム・サビート・マンカ選手に代わり先発センターを務めるなど、すっかり主力選手に定着している。

 Bリーグ初参戦となるマクドナルド選手だが、その経歴は実に興味深い。Bリーグにやってくる外国人選手の場合、マンカ選手のようにNBAでの実績が脚光を浴びがちだが、38歳のマクドナルド選手は一度もNBAのコートに立っていない。それでもサウスフロリダ大を卒業すると翌シーズンから海外プロリーグに参戦。これまでフランスを皮切りに、スペイン、中国、フィリピン、プエルトリコ、イラン、アルゼンチン──と7カ国のリーグを渡り歩いてきた。

 特に主戦場をスペインから中国に移した2011年以降は、中国リーグのシーズンが短いこともあり、1シーズンに3カ国リーグに所属した過去もある。Bリーグにやって来るまで14シーズンもの間、外国人選手として海外リーグで期待に応え続けてきた、まさに“猛者”ともいうべき選手だ。尺野将太HCは現在のマクドナルド選手をどう評価しているのだろうか。

 「スペインの強豪チームでやったりと、かなりキャリアのある選手で、チームワーク、チームプレーを大事にしてくれる選手です。コートの中でも外でもすごくいいリーダーシップを発揮してくれています。

 その中でプレーも最近良くなっていて調子が上がってきているので、最初の頃は『オンザコート1』で誰にするのかっていうのがあったんですけど、今は経験だけではなくプレーだったり頭をしっかり使ったり、パスをさばける起点にもなれるなど、いろいろな面でスタートを任せられる存在になりましたし、勝負所もベテランらしくスマートなプレーをしているのでオフェンス、ディフェンスで信頼できる選手です。

 来た時よりも体重も20キロくらい落ちているんじゃないですかね。その努力も凄いです。食事管理も自分でできる選手ですし、ベテランらしい本当に頼りになる選手だと思います」

 今では尺野HCから全幅の信頼を得ているマクドナルド選手だが、同HCが説明するようにチーム合流時は決して万全なコンディションではなかった。実はエージェントから横浜からのオファーが届くまで、マクドナルド選手は現役引退へ心が傾いていたのだという。

 「今シーズンは中国に戻るつもりでいたんだけどその可能性が小さかったこともあり、現役引退を考え始めていたんだ。もう長年プレーできたし、ある程度のお金も稼げたからね。そんな時にエージェントから日本でプレーできるチャンスがあるとの連絡があり、そのまま日本にやって来たんだ。その時は十分なコンディションではなかったよ。

 ただそれ(コンディション不備)がいいプレーができなかった理由ではない。正直にいうと元々Bリーグでプレーするつもりではなかったからね(笑)。チームに合流してからはチームと、今までとは違った自分の役割に適応する時間が必要だった。これまではチームのためにスコアすることが役目だったけど、ここでは他の外国人選手のヘルプとしてチームのためにしっかり役割を果たすことが求められた。そうして試合を重ねながら、自分が果たす役割もより重要になっていったんだ」

 横浜で新しい役割を求められても、チームの要求通りに対応したマクドナルド選手。それも彼が7つの海外リーグを渡り歩きながら計13チームに所属してきた経験値があるからなのだろう。改めて言語、文化も様々な地域で14年間もプレーできた秘訣とは何なのだろうか。

 「どうなのかな…。今シーズンが自分にとって15年目になるけど、たぶん自分は適応しやすい性格なんだと思う。自分にとって最も辛いのは妻や子供たちと離れて生活しなければならないことだ。それ以外では異なる文化や異なる人々に適応することはそんなに難しいことではない。特に日本は本当に適応しやすかった。街はクリーンだし、食事はすごく美味しい。中国はサラリーはよかったけど、食事は合わなかったよ(笑)」

 マクドナルド選手が説明するように、海外で成功した大きな要因としてずば抜けた対応力があった。だが今回話を聞いてみて、その本質は彼のバスケット選手としての能力の高さなのだと理解できた。というのも、彼の実力は掛け値無しでNBAクラスだったのだ。

 「実はミルウォーキー・バックスと3年契約を結んでいたんだけれど、そんなにいい契約じゃなかったんだ。もっといいサラリーがもらえるというのでヨーロッパに行くことにした。それ以降も(海外リーグで)いいプレーをすることができたから、15年間のプロ生活で12シーズンはNBAの最低年俸以上の契約を結ぶことができた。だからNBAでプレーする必要がなかったんだ(笑)」

 今ではすっかり日本が気に入っている様子のマクドナルド選手だが、来日前は現役引退すら考えていた彼がBリーグでプレーしながら何か心境に変化はあったのだろうか。それとも今シーズン限りでコートを去ろうとしているのか。

 「もう引退したくない。今は少なくともあと3シーズンはプレーしたいと思っている。コンディションは戻ったし、僕はまだまだプレーできる。10歳以上も若い選手に負けないくらい速く動けている。引退する理由はないよ(笑)。このチームもとても気に入っている。チームが自分に、またここに戻ってきてプレーさせる気にしてくれたよ」

 現役続行と横浜残留を高らかに宣言してくれたマクドナルド選手。あくまでまだ本人の希望とはいえ、横浜ブースターにとってこれほどの朗報はないだろう。いずれにせよBリーグがマクドナルド選手に現役を続行する気にさせたということが、日本人として何となく嬉しくなってしまう。彼のような選手がさらにBリーグに参戦してきてくれることを願うばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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