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京都ハンナリーズが今シーズン成し遂げたブースターを魅了するチームづくり

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ホーム最終戦はほぼブースターで席を埋め尽くした(筆者撮影)

 今シーズンは開幕から快進撃を続け、チーム初のチャンピオンシップ進出を決めた京都ハンナリーズが今節、横浜ビー・コルセアーズを迎えホーム最終戦を戦った。

 横浜といえば中地区最下位に沈み、残留プレーオフ争いをしているチーム。決して集客が期待できるチームではなかったし、京都も何か記録がかかった試合でもなかったにもかかわらず、本拠地ハンナリーズ・アリーナには2試合で6561人(1試合目3537人、2試合目3024人)のブースターが集結し、熱い声援を送り続けた。

 この現象は今節に限ったわけではない。3月以降は栃木ブレックスや琉球ゴールデンキングスなどの人気チームと試合が組まれていたこともあるが、計7つのホーム試合中5試合で3000人を突破し、4月1日の琉球戦に至っては4207人とチーム記録の更新に成功している。昨シーズンはBリーグで唯一平均集客数が2000人を下回った京都だっただけに、その健闘ぶりは明らかだろう。

 「フロントスタッフがホーム試合前は朝と夕方にチラシ配りをしてましたので、その他にも今週ですといろいろなところに電話して営業をしているのは僕も選手も知っていますので、その部分に関してはフロントの力が大きかったというのと、そこで僕たちがいいプレーをしてブースターの心を掴むことができていい試合ができれば、少しずつですけどリピーターが増えて戻ってくると思いますので、そういう部分が後半戦によく繋がっていたんじゃないかと思います。

 (チームはシーズン開幕時の期待値を)上回っていると思います。大幅に選手も入れ替わりましたし他のチームもたくさん補強をする中で、本当にどこが飛び抜けているのか解らない状況で、僕たちはシステム的にボールを動かしたいチームということで連携というのがキーになってきます。そういう意味ではけが人が多くて全員が揃っているのがなかなかないぐらいのシーズンだったんですけど、それぞれがお互いをカバーしながらチームになっていっているなという気がしています」

 浜口炎HCが指摘するように、開幕から快進撃を続けていたとはいえ、けが人続出の厳しい状況の中で新しいチームを作り上げていくしかなかった。だがそうした状況がチームの結束力を高めることになり、ほぼ同じメンバー(一度だけ外国人選手を一時補強しただけ)で戦い続けながら徐々にトップチームと渡り合える地力を養っていった。

 そうした選手たちの一体感は着実にブースターにも浸透していき、チームの勝利を共有したいというブースターが増えていきアリーナに足を運ぶようになった。そうしてチーム、フロント、ブースターの思いが見事に交差しながら、遂にトップチームに負けない試合会場の雰囲気を創出していったのだ。

 「1年を通して観に来てくれている人が増えたんじゃないかなと個人的に思っていて、自分も京都で1年生活していろいろ友だちもできたりしてそういう友だちも観に来てくれたりとか、去年からいらっしゃるブースターの方がいろいろ声をかけてくれたりして、自分の成長も実感できたけど、ブースターを含めたチームの成長を感じることができました。

 チームスタッフもそうですし、いつも来てくれる人たちが自分たちに対して声援を送り続けてくれたエナジーっていうんですかね、それが自分の背中を押してくれているので、自分の成長がどうのこうのいうよりはブースターの皆さんに成長させてもらったというふうに感じています」

 今シーズンからチームに加わった永吉佑也選手。外国人選手と対等に渡り合った日本人ビックマンの台頭もチーム躍進の一助になった。そんな永吉選手もブースターとともに成長できたことを実感しているし、現在新人賞最有力候補の伊藤達哉選手も同じ意見だ。

 「開幕から比べて本当にお客さんが入っているというのが選手たちの力になっていて、毎試合このような環境でプレーできればというのが一番なんですけど、今シーズンはフロント・スタッフも含めて全員が頑張った結果がこれだと思うので、あとは選手たちが(更なる)結果を出すだけだと思っています。

 (ファンを盛り上げられるようなバスケができるようになった)実感はあります。ただこの現状にまだまだ満足してはいけないと思うので、また来シーズンに向けてチャンピオンシップで結果を出せば、もっと京都のファンが来てくれると思うので、そこを目指して僕たちはやっていけばいいと思います」

 伊藤選手がチームの考えを代弁しているように、選手たちは現状に満足しているわけではない。ホーム試合が終了したとしてもシーズン最後までブースターに熱い試合を披露し、少しでも多くの勝利をもたらすことが彼らに報いることだと考えている。

 シーズン開幕当初キャプテンの内海慎吾選手は、多くのブースターを集めるためには特にホーム試合の勝利にこだわりたいと話していた。その言葉通り18個の白星をブースターに届けることができ、最後はアリーナをブースターが埋め尽くすことに成功している。

 「今日みたいな環境が最近当たり前の様になってきたというか、昨日も今日も僕ら選手が会場に入った時に『おっ、お客さん入っているな』という感じではなくなってきているという感覚になっているというのが本当に嬉しくて、もちろん選手たちだけではなくてフロント・スタッフ、施設運営すべての皆さんの努力の結果が目に見えているというのは嬉しいと思います。

 レギュラーシーズンとしては今日がホーム最終戦になりますけど、僕自身が(自分たちの試合を)ハンナリーズ・アリーナでまた観たいなと思っているんですけれども、たぶん皆さんもちょっとは思ってくれていると思ってまして、なのでブースターの皆さんが『またこのチームを応援したいな』、『またハンナリーズ・アリーナで試合観たいな』というふうに思ってもらっているんじゃないかなと感じます」

 ファンを集めるためには勝利は至上命題かもしれない。ただ今シーズンの京都の魅力はそれだけではなかった。内海選手が説明するように、浜口HCの元で各選手の個性が見事に結集し、選手たちがそれぞれ一緒に戦うことが楽しくて仕方がないチームだったように感じる。もちそんそんな姿を見て、ファンが魅了されないはずはないだろう。逆に低予算チームだからこそできたチームづくりだったのかもしれない。

 これまで長年米国で取材を積み重ねながら、様々なスポーツで弱小チームがファンと一体となって盛り上がりながら強豪チームへと変貌していく姿を目撃してきた。3選手の言葉からも理解できるように、今シーズンの京都には同じ“臭い”を感じ取ることができた。何度味わってもスポーツライターにとって格別に心地いいものだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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