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就任1年目で琉球ゴールデンキングスを地区優勝に導いた佐々宣央HCの流儀

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
前節で地区優勝を決めた琉球ゴールデンキングスの佐々宣央HC(筆者撮影)

 Bリーグの西地区首位争いで独走態勢を固めていた琉球ゴールデンキングスが前節の新潟アルビレックスBB戦との2試合目を85-68で制し、シーホース三河に続き地区優勝を飾った。昨シーズンはチャンピオンシップ進出を決めながらも29勝31敗と負け越しに終わっていたものの、今シーズンは文句なしにトップチームの仲間入りを果たし、堂々の初タイトル奪取となった。

 チームを率いたのは就任1年目の佐々宣央HCだ。これまで東海大を皮切りに、ユニバーシアード日本代表、サンロッカーズ渋谷、栃木ブレックス、日本代表──と様々な舞台でACとして経歴を積んできていたが、自身にとってもHCは初体験だった。それでもチームをまとめ上げ、Bリーグ最強のディフェンス(1試合平均失点66.8点はダントツでリーグ1位)を築き上げることに成功。bjリーグからBリーグに加わったチームとしても初めての地区優勝を成し遂げた。

 だがシーズン開幕当初から順調だったわけでは決してない。10月を終えた時点で7勝4敗と突出した成績を残してはいなかった。この時期に、すでに残留プレーオフ行きが決まっている島根スサノオマジックに敵地で連敗を喫してもいた。そこから佐々HCが試合を積み重ねながら常勝軍団へと変革していったのだ。

 地区優勝を決定づけることになった3月31日からの京都ハンナリーズ戦2連勝後に、佐々HCはディフェンスの考え方について以下のように説明してくれている。

 「ディフェンス・プランがしっかり徹底できたというのが非常に収穫です。もちろんマンツーマンは激しくやるのと同時に、相手の個々の特長をしっかり搾りながら賢くやらないといけないんです。やっぱり点を取られても、僕自身も『いいよいいよ、それは』というのがあるので…。やはり0点で抑えるようなサッカーではないので、どれだけ確率を落として得点効率を悪くするかというところです。

 (京都の)ジョシュア・スミス選手のところは今日も、昨日も20点やられるなと計算している中で、確率をどれだけ下げさせられるかというところだったので、普通の選手なら(シュート成功率)53%は全然高いんですけど、スミスにしたら僕からしたら全然いい方です。ただリバウンドでやられてしまいましたけど、こぼれ球をどうにか拾おうとしてみんな戦っていたと思います。琉球はサイズが小さいですけど、気持ちと飛び込む意識というのがありました。(試合前に)僕がいってたのはリバウンドのところでラグビーでいうスクラムの状況をつくれということだったので、何回か出てたと思うので選手たちも意識してやってくれたと思います」

 佐々HCが「得点効率を悪くする」と話しているように、ミスを恐れず気持ちを切らさずディフェンスを展開することで、相手チームに気持ちよくプレーさせないことを目指しているのだ。オフェンスはどうしても選手の好不調に左右されてしまう部分があるが、ディフェンスは手を抜かなければ常に安定した力を発揮できる。今シーズンの琉球は佐々HCの意識が浸透している証なのだろう。

 それでは今後のチャンピオンシップに向け、現在のチーム状態をどう捉えているのだろうか。

 「去年とはちょっと比較しきれないのが選手が大分替わって、大学選手が2人いる中で彼らの経験値というのもありますし、ただ去年からいる岸本(隆一)選手とか田代(直希)選手とかがコンスタントにやってくれ、また金城(茂之)とか津山(尚大)とかが自分のバスケットに対して上手くなろう、選手として一皮剥けようという気持ちを持ってくれています。彼らの成長は非常に頼もしく思っていますし、より安定してくれたらいいなと思いますね。

 ただ一方で、やっぱりいろんなところでもっと厚みをみせるために、今日はこの人、次はこの人と、プレーオフを勝ちきると思ったらみんな調子よくないとキツいですよね。調子悪い時のレベルがそれなりのパフォーマンス(にならないと)。スポーツ選手はみんなそうだと思うんですけど、調子いい時は誰でも結果出せると思うんですよ。調子悪い時にどれだけ最低限のパフォーマンスを出せるか(だと思います)。うちのチームは調子悪いと本当に悪くなっちゃうんで…。

 それは僕の伝え方とか、メンタルの持っていき方とか、バスケットのスキルも含めて全部そうなんですけど、(状態が)低くなった時にそれが気にならないくらい…。やっぱり気になっちゃうんです、『お前ダメだな』といっちゃうような(笑)状態のパフォーマンスになるケースがあるので、そこが最後の一伸びだと思いますね」

 人間には感情がある。どんな選手であろうとも、好不調によってパフォーマンスが左右されるのは仕方がないことだろう。だがそれをある程度コントロールできた選手が一流になれる。佐々HCはそうした精神面からも選手へのアプローチを続けている。

 「スポーツだけでなく普通の仕事もそうだと思うんですけど、精神状態が深く関わることで、僕はそっちの方からアプローチすることが多いんです。やっぱりいい人間になってほしいというか、リーダーシップを発揮してほしいというか…。僕自身もそうだったんですけどコーチングしながらリーダーシップって人を勇気づけたりだとか…。僕からすると(精神的に)浮き沈みのある奴って自分のことしか考えてないんですよ。ある程度のレベルにいったら自分のことなんて考えていないです。

 味方がどうなのかとか、自分のことでいっぱいいっぱいになっている選手ってたまにいるんですけど、僕はそのことがすごく嫌いで、それが陸上選手ならまた別かもしれないですけど、(チーム)スポーツ選手だったら自分のパフォーマンスもある中でチームの仕事もあって、チームの顔もあって、そういった意味で浮き沈みを何とかしようと思っている時点でダメだと思います。普通にチームのために何をするかとずっと考えていれば、自分が悪くても悪い時に自分の力でチームに最大限何ができるのかって出し尽くしたら、それしかないじゃないですか。そこで出し尽くしたら僕も何も怒れないです。

 うちの選手はそういう選手が多いです。この試合(京都2連戦)に臨むまでリーダーシップを発揮する選手が少ないなというのが悩みでもあったんですけど、落ちちゃう時は落ちちゃうというのがあったので…。まあ僕もHCをやる中で結構怒る方なんですけど、ちょっと止めようと(笑)。試合中は自分が引っ張っていくしかないなという感じで、なるべく選手たちをポジティブに奮い立たせることを意識しました」

 5月に34歳を迎える佐々HCはまだ現役選手に近い年齢だ。単にコーチとして選手と接するだけではなく、最近は試合中に精神面で選手たちを支え牽引していきながら、選手たちにリーダーシップが芽生えるのを促そうとしているようだ。

 琉球は残りシーズンでアルバルク東京、三河、千葉ジェッツ──と強豪チームとのマッチアップが控えている。チャンピオンシップ前に佐々HCがどうチームをまとめ上げていくのかを見極める上でも、重要な試金石になりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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