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特別指定選手・佐藤卓磨が見つめるBリーグのその先

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
先月から先発に定着し成長を続ける滋賀レイクスターズの佐藤卓磨選手(筆者撮影)

 昨年12月5日に、滋賀レイクスターズは東海大4年で同大バスケ部のキャプテンを務めていた佐藤卓磨選手と特別指定選手契約を締結したと発表した。U-24日本代表やユニバーシアード日本代表にも名を連ねた逸材は1月19日から始まったシーズン後半戦からチームに合流し、Bリーグの舞台でプレーを続けている。

 195センチという身長から大学時代は主にPFでプレーしてきたが、滋賀ではSFという新たなポジションに挑戦中だ。3月11日の京都ハンナリーズ戦以降は先発に定着しているが、まだプレー時間は20分未満が多く、まだ主力としてショーン・デニスHCから全幅の信頼を勝ち得ているわけではない。それでもしっかり出場機会をもらいながら着実に成長を続けている。

 大学バスケからレベルアップしたBリーグのコートに立ち続けることについて、佐藤選手自身はどう感じているのだろうか。

 「Bリーグのトップで活躍する選手は圧倒的なシュート力と状況判断がすごく優れているなと思いました。ただ自分が思ったほど驚異的なものではなかったんですけど、しっかり集中すれば全然やれるなと思ったのと同時に、ちょっとでも気を抜いた瞬間に一気に流れが変わるので、より(バスケを)繊細に感じているというところですね。

 大学の時より相手のディフェンスを見たりだとか…。まあ状況判断はまだまだなんですけど、そういう風にしっかり周りを見る機会が多くなりました。(Bリーグ合流後は)思い切りの良さが徐々に出てくるようになったと思います。特にディフェンスでもオフェンスでもここぞという時に決められる時もあるんですけど、そういったプレーをもっと増やしていきたいと思うし、そこがコーチにいわれなくても自分で判断してできるようになってきていると思います」

 佐藤選手が自ら説明するように、徐々にプレーに対する意識は変わってきているようだ。ただBリーグのコートに立ち始めてから3ヶ月が経過し、周りが見え始めたからこそプレーに迷いが生じているともいう。そうしたほんの一瞬の迷いが状況判断を鈍らせているのかもしれない。ではデニスHCは現在の佐藤選手をどのように捉えているのだろうか。

 「まだ彼は判断能力の点で成長する必要がある。まだ若く学んでいる最中ではあるが、(4月7日の京都戦の第4クォーターに)ディフェンスの判断ミスで6失点されてしまった。そうしたものを学んでいくためには時間と経験が必要だ。ただ彼が才能溢れる選手であり、いつしか素晴らしい選手になってくれると信じている。

 若い選手はすごくいいプレーをする時もあれば、まだ選手として成長し切れていないため間違った判断をしてしまうこともある。ただ彼はこちらの話をしっかり聞き学ぼうとしている。必ずいい方向に向かっていくだろう」

 デニスHCも佐藤選手の才能を高く評価し、経験を積ませながら選手として成長を促そうとしている。チームは現在、残留プレーオフに回るかもしれない厳しい戦いを強いられている中で、佐藤選手を先発に固定しているのもコーチの期待度の表れなのだろう。もちろん佐藤選手も向上心は強く、Bリーグに対しても気後れしているわけではない。

 「大学時代はほぼ4番ポジション(PF)でやっていたことが多かったんですけど、今は3番(SF)でやってて動きも全部変わった中でまだまだ足りないことばっかですけど、それには適応できるかなと思います。(外国人選手とのマッチアップも)自分たちウィングはピック&ロールを使ったりしてビッグマンと対決することが非常に多いんですが、上手い選手を見ていると自ら接触を怖がらないでアドバンテージをとっているので、そんなにびびることはないと思いますし、簡単にフェイクにひっかかるのでそんなに脅威に感じないです。

 自分がダメな時は何か仕事を絞れていない時だと思います。人それぞれリズムのとり方があると思うんですけど、僕の場合はディフェンスで身体を張ってリバウンドに飛び込んでポゼションを味方に増やせるかで気分が乗ってくるタイプだと思っているので、点を狙うことも大切だと思いますが、まずそうしたディフェンスとリバウンドから自分のリズムを確立することができれば、もっとプレーが安定してくると思います」

 佐藤選手は数チームからの誘いを受ける中で自ら滋賀を選んだ。その理由はデニスHCの存在だったらしいのだが、そこには佐藤選手ならではの考えに裏づけられている。

 「ショーンさんがオーストラリア人のコーチということで、その繋がりか何かで日本で活躍してオーストラリアとかにいって多くのお金をもらえるような選手になって、その先は世界で活躍できるような選手になりたいと思ってます。そのきっかけになったのが大学4年のユニバーシアードで、やれることもあったし、できないこともあったんですけれども、自信がついたことの方が多くて、日本人で意外とびびっているだけだなと思ったんです。技術的な面が足りないとかいう前にフィジカルにやることを恐れている感じが世界大会とかA代表を見ていてもあるので、そういうところを怖がらずにやっていけばできるのかと思ってます。

 まずは目の前のことだと思うんですけど、せっかくいいコーチの下でやっていますし、このままで終わりたくないという気持ちもあるので、いけるところまでいきたいなと思ってます」

 今シーズン開幕から特別指定選手としてアルバルク東京に在籍してきた同学年の馬場雄大選手も、将来の目標としてNBA挑戦を公言している。彼らはアマチュア時代からBリーグを成長の場として利用できるようになった“新世代”選手であり、今後さらにその数は増えていくことになる。あれらの台頭こそが日本バスケをレベルアップさせ、新たに“Bリーグから世界へ”という潮流をつくっていくことに繋がっていくのだろう。

 Bリーグも今年1月に特別指定選手の年齢制限を撤廃する方針を決めた。多くの若手有望選手がBリーグを経由して世界に羽ばたいてほしいと願うばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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