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“Mr.ハンナリーズ”内海慎吾ならではの絶妙なキャプテンシー

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
キャプテンとしてハンナリーズを支え続ける内海慎吾選手(筆者撮影)

 前節で島根スサノオマジック相手に連勝し、京都ハンナリーズが今シーズンの目標に掲げていたチャンピオンシップ(CS)進出を決めた。昨シーズンは25勝35敗で西地区5位に沈んでいたチームがまだシーズン14試合を残して早々にCS進出を果たしたのだ。今シーズン最もブレークしたチームといっていいだろう。

 昨シーズンから12選手中7人を入れ替え若手中心で臨んだ今シーズン。開幕から白星を重ねていく一方で、開幕当初はまだまだ荒削りな面が多かった。それが試合を重ねるごとに着実にチームとして成長していき、「選手自らが考えてプレーする」というバスケを標榜する浜口炎HCが納得できるチームへと変貌していった。

 それを象徴するのが前節の島根、前々節の大阪エヴェッサ戦だった。故障のため数人の選手を欠く中でも、代わりの選手たちがしっかり自分の役目を果たし4連勝を飾ることに成功。特にPG役を務めていた伊藤達哉選手、綿貫瞬選手、ジュリアン・マブンガ選手がすべて出場出来ないながらも大阪から勝利をもぎ取った後、浜口HCは以下のように現在のチーム状況を説明している。

 「シーズン当初だったらゲームにもなってないと思います。逆にプレータイムを分散させて、怪我なくこのゲームを乗り切ろうという考えになっていた可能性が高いです。後半になってそれぞれのチームの特長がわかって、いろんな選手がいろんな部分をそれぞれ補完できるようになりました。今日も最初からいつも通りのゲームができたと思います」

 個人成績だけ切り取れば、マブンガ選手とジョシュア・スミス選手への比重が高いように見えるかもしれない。だが実際はそれぞれの試合の流れを読みながら浜口HCの指示を受け、選手たちが自ら考えてプレーを遂行していくスタイルを確立している。試合ごとに日替わりヒーローが生まれるのも、そうした土台がしっかり確立できたからだろう。

 選手たちが気持ちよくプレーできる環境を整えるのはコーチだけの役目ではない。コート内外から細かく選手たちをチェックしながらチームをいい方向に向かわせる存在なのがキャプテンを務める内海慎吾選手だ。浜口HCの下で4シーズン目を迎える内海選手はまさに浜口バスケの申し子であり、同HCも全幅の信頼を寄せる“Mr.ハンナリーズ”と呼ぶに相応しい選手だ。

 「チーム一番のプロフェッショナルですね。準備とかケアとかは入念にしっかりするし、若い選手がいたなら『慎吾の真似をしなさい』という一言で説明できるというか、彼のような選手になってほしいといえる存在ですね。人柄もいいし、誰からも尊敬されるような選手ですし、外国人選手を含め誰とでもしっかりコミュケーションがとれます。その点もすごいですね。

 選手としても常に安定していてしっかりしています。コーチのやって欲しいことを忠実に遂行する能力が高くて、チームの中でも一番(チームのやるべきことを)憶えています。チーム事情によってプレータイムが変わってきても嫌な顔一つせず、チームのために一生懸命プレーしてくれます」

 実際のところ内海選手自身はチーム内でキャプテンとしてやるべき役割をどのように認識しているのだろうか。

 「正直京都ハンナリーズでキャプテンを務めるということがどれほど楽な仕事かと僕は思ってまして、それぞれがリーダーシップを持っている選手たち…。マーカス・ダブ、岡田優介、この辺は去年からいる選手ですし、本当にチームを引っ張ってます。また新しく入ってきた片岡(大晴)がこのチームにエネルギーをもたらしてくれて、伊藤達哉が若いエネルギーを全面に出しながら新人王候補に相応しい表現をしてくれていますし、また日本代表の永吉(佑也)が4番ポジションに入ってきてくれたお陰で安定したチームになっていますし、そういう風に数え上げていくと、キャプテンの仕事はないなというか(笑)、みんなそれぞれがやってくれているから(キャプテンとして)これっていうのがないんですよね(笑)。

 もちろん僕も(選手たちに)話しかけたりすることもありますけど、ただロッカールームの中や練習中であっても言葉を発信するのは必ずしも僕が最初ではないですし、ジュリアンが発信してくれますし、マーカスが積極的にコミュニケーションをとってくれます。僕がキャプテンだからここは引き締めなければいけないなとか、ここはこんなアドバイスをしていかなきゃいけないなっていう前に、それぞれが気づいて行動していくというチームですね」

 内海選手の説明だけ聞いているとキャプテンとして何もしていないように映るだろう。確かに試合中積極的に檄を飛ばすのも、マブンガ選手やダブ選手の外国人であり、表立ってキャプテンらしいことをしていないように見える。だが内海選手は、各選手がチーム内の輪を乱すことなく、プレーのみならずそれぞれの個性を最大限に発揮できる環境を創出しようとしているのだ。それこそが「チームのために何が出来るか」を追求した上で導き出した内海選手ならではのキャプテンシーといえるのではないだろうか。

 実はシーズン開幕当初から好調を維持し続けるチーム状態を確認するため、内海選手に対し定期的に「手応えは出てきたか」という質問を繰り返してきた。だがその答えは決まって「まだまだです」だった。そして今回も帰ってきた答えは何も変わらなかった。

 「まだまだです(笑)。その理由が何故なのかはシーズンが終わったら聞いてもらった方がいいと思うんですけれども、僕はこのチームに手応えだったりとか、自信であったりとかはシーズンが終わるまで『まだまだ』と言い続けると思います。僕が発する言葉ってチームを代表する言葉だと思うんですよ。だから僕が安心したりだとか自信をもったりという(発言を)いわないんじゃないかという感じですかね。

 僕個人としてはこのチームに対する期待値はすごく高いですし、それこそ開幕からこのチームが想像を超えてくるようなプレーをしてしまうのを観ていて楽しいんです。今は試合を重ねるごとにもっとできると感じているので、ハードルはどんどん高くなっていますよね」

 実は「まだまだです」を続ける内海選手にはそれなりの真意があった。自分が気を抜くような発言をすることで、それがチームに広がっていくことを懸念する一方で、常に気を抜かない姿をチームに見せることでチームから気の緩みを排除しようとしているのだ。

 内海選手がいる限りCS進出を決めた後もハンナリーズの快進撃はまだまだ続いていきそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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