マイク・ムスタカスが激安年俸でロイヤルズと再契約した意味

最終的にロイヤルズと再契約することになったマイク・ムスタカス選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ロイヤルズが現地10日、同チームからFAになっていたマイク・ムスタカス選手との再契約を正式発表した。合意内容は1年契約で年俸基本額は550万ドル(約5億8000万円:報道では660万ドルとなっているが、19年の契約オプション解除の100万ドルが含まれている)で、翌2019年については双方合意による契約オプションが付帯されているという。

 ムスタカス選手はこのオフの目玉FA選手の1人だったが、結局この時期まで所属先を見つけることができなかった。彼のエージェントを務めているのがMLB最強と謳われるスコット・ボラス氏だ。同選手はFAになると同時にロイヤルズから2018年の年俸1740万ドル(約18億6000万円)が保証されるクォリファイイング・オファー(いわゆる有力選手の流出を制限するような制度)を提示されていたが、それを拒んで大型契約獲得を狙っていたのだが、辣腕エージェントの思惑は完全に失敗に終わったようだ。

 オフ突入当時はムスタカス選手に対し5年で9000万ドル程度(約95億4000万円)の大型契約が予測されていたこともあった。だがあまりに冷え込んだFA市場の中、彼らが期待するようなオファーが届くことはなかった。一部の米メディアが報じたところでは、エンゼルスから3年4500万ドル(約47億7000万円)の提示があったようだが、ボラス氏が首を縦に振ることはなかったという。

 オフの間FA選手の獲得に消極的だったMLBや各チームに対し、選手会のトニー・クラーク専務理事やボラス氏らエージェントが不満と怒りの声を挙げ続けた。彼らの立場からすれば、今回のムスタカス選手の契約合意も“買い叩かれた”ことになるのだろう。だが希望に届かなかったとはいえ、ある程度の大型契約の提示を受けていたのにそれを自分たちの意思で拒んでいたという事実は否定できない。

 米メディアの中には、このオフを象徴するようなムスタカス選手の結末を「年俸高騰時代の終焉」と形容するものがいる。決して大袈裟な表現だとは思えない。選手、エージェントのみならずメディアも、このオフが1つの時代の過渡期を迎えたことを確実に嗅ぎ取っている。

 きっかけ(一昨年1月に合意された統一労働協約でぜいたく税の課税率が大幅に変更になったこと)はともかく、資金力が潤沢なチームといえども有望FA選手を獲得するために無尽蔵に年俸を積み上げるような積極果敢さは完全に影を潜めることになった。このオフに予算カットを目指したマーリンズが長期大型契約下(13年で総額約344億5000万円)にあるジャンカルロ・スタントン選手の処遇に相当苦労したように、それぞれのチームが長期大型契約を結ぶことのリスクに気づき、このオフの動きは彼らの反省がその根底にあるからだ。

 来オフのFA市場はブライス・ハーパー選手らの大物選手が控えている。だが今後各チームが彼らに年俸3000万ドル(約31億8000万円)を超える年俸を提示するのはそう簡単ではなくなったし、ましてや30代後半まで年俸を保証する長期契約を用意するようなリスクを冒すことはないように思う。やはり米メディアが報じたところでは、ある大物エージェントは「現在の統一労働協約の有効期間内(2021年)までは現在の状況が続くことになるだろう」と嘆いているという。

 たぶんエージェントや選手たちは現在の状況を“受難の時代”と呼ぶのだろう。しかしMLB公式サイトや有名スポーツ専門サイトに寄せられたFA市場関連の一般人のコメントをチェックする限り、ファンを含めた米国世論が同じ考えだとは到底思えない。

 このオフは結果としてエージェントの見誤りもあり、大物FA選手たちの契約の遅れが他のベテランFA選手たちまでがしわ寄せを被ることになったといっていい。球界全体を見渡した時に、果たしてそれが選手にとって本当に有益なことだったのだろうか。来オフはそんな犠牲者たちが減ることを祈るばかりだ。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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