大統領訪問辞退を表明していたウォリアーズがワシントンDC遠征中に子供たちと交流する意味
米国のプロリーグの優勝チームがホワイトハウスを表敬訪問して大統領と交流するのが儀礼的なイベントになっているが、昨シーズンのNBA覇者であるウォリアーズが昨年9月の段階で、表敬訪問を辞退することを正式表明していたことを、本欄でも報告させてもらった。
本来ならウォリアーズは、3月1日に予定されているワシントンDCを本拠地とするウィザーズとの遠征試合に合わせてホワイトハウスを訪れることになるのだが、『ESPN』が報じたところによると、ワシントンDC遠征を控え選手全員で話し合い、トランプ大統領に会う代わりに地元の子供たちと交流することを決めたという。
記事によれば、今回の選手の決定に対しスティーブ・カーHCも全面支援しているという。ただ今回の活動はメディア非公開で行われる予定で、選手、コーチが子供たちとプライベートで触れ合うことになるようだ。
改めて振り返るが、ウォリアーズが表敬訪問辞退を正式表明していた当時は、NFLを中心にしたスポーツ界とトランプ大統領が対決姿勢を見せ始めていた。大統領がツイッターを通じて、国歌斉唱時に起立せずにひざまずく行為(米国内に広がる人種差別問題への抗議活動)を行った選手とそれを許しているNFLを猛烈批判したことで、逆に大統領への批判がリーグ内に留まらずNBAやMLBなどスポーツ界全体に拡大していき社会問題へと発展していった。
だがウォリアーズに在籍するケビン・デュラント選手やステフェン・カリー選手は対決姿勢が顕在化する前から、人種差別問題に臨むトランプ政権の対応に疑義を呈しており、両選手ともに早い時期からホワイトハウスを訪問しないという意思表示をしていた。これを聞きつけた大統領もツイッター上でウォリアーズをホワイトハウスに招待しないことを表明したため、チームも全員一致で辞退することを決定していたものだ。
とりあえずNFLで始まった国歌斉唱時にひざまずく行為はNBAの選手に拡散しておらず、また最近は大統領もNFLや選手たちを批判するツイートもなくなり対決は沈静化しているように見えるのだが、決してそうではない。今回のウォリアーズの行動からも明らかなように、今もスポーツ界と大統領は“冷戦”状態が続いている。
ESPNの記事では、なぜ今回ワシントンDCの子供たちと交流することを決めたのか、その理由まではわかならい。しかし個人的には明確な意思があるとしか思えないのだ。
実のところ、只今の米国の子供たちは不安と怒りを抱え込んでいる。2月14日にフロリダ州パークランドで起きた高校での銃乱射事件は、襲われた高校のみならず全国の学生たちに改めて衝撃を与えている。また元在校生だった18歳の少年が何の規制もなく自動小銃を購入し、無差別殺人を実行できる米国社会に巣喰う矛盾に憤りも感じている。最近になって被害に遭った高校の生徒たちは、全米ライフル協会(NRA)から寄付金を受け取る政治家のみならず、銃を野放しにしている社会そのものを批判する声を挙げ始めた。今やその声は全国に広がろうとしている。
これまで米国社会でプロのアスリートたちは、社会、特に子供たちに対し“role model(社会的規範)”であることを求められてきた。一流選手になればなるほどアスリートたちは、チームを通して、また個人としても積極的にコミュニティ活動に取り組んできた。ある意味下手な政治家以上に地域社会について真剣に考えている立場かもしれない。
カリー選手やデュラント選手もそんなアスリートの代表的存在であり、彼らの立場から積極的に声を挙げ続けてきた。リーグそのものも、そうした選手たちを表彰するなどしてずっと応援し続けている。先日開催されたオールスターゲーム期間中にレブロン・ジェームズ選手が銃規制に関する現行制度に疑問を呈する発言を行った一方で、アダム・シルバー=コミッショナーも選手たちが社会問題について発言していく姿勢を歓迎しているのだ。
人種問題に限らず米国内に社会問題が存在する限り、これからもアスリートたちは声を挙げ続けるだろう。そしてトランプ大統領がまたスポーツ界に牙をむけば、必ず彼らは強い団結を見せつけるはずだ。ウォリアーズが下した今回の決定に、そんな思いが滲み出ているように感じるのは自分だけではないだろう。