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背番号「25」を永久欠番にしたジャイアンツがバリー・ボンズに捧げる無償の愛

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ジャイアンツで使用していた背番号「25」が永久欠番になったバリー・ボンズ氏(写真:ロイター/アフロ)

 ジャイアンツは現地6日、同チームに15年間在籍したMLB史上最強の打者の1人、バリー・ボンズ氏が使用していた背番号「25」を永久欠番にすると発表した。併せてチームとして8月11日に本拠地で行われるパイレーツ戦で記念式典を実施する予定で、先着2万人のファンに25番入りキャップを無料配布するという。

 すでにツイッターの公式アカウントでも以下のような動画を固定ツイートにし、早くも祝賀ムードを盛り上げている。

 もちろんボンズ氏の経歴を考えれば当然の判断だろう。在籍15年間でMVP受賞5回、首位打者2回、本塁打王2回、打点王1回に輝き、オールスターゲーム出場も12回を数えるなど、ジャイアンツの象徴ともいえる存在だった。今でも本拠地球場のAT&Tパークには25番のユニフォームを着て応援に来るファンが存在するほどだ。

 だがその一方で、MLB史上最多の762本塁打を放ちながらも、MLBの黒歴史ともいえる「ステロイド時代」の象徴的な存在として現役続行を希望しながらも追われるようにグラウンドを離れ、今なお多くの人たちがボンズ氏の経歴を色眼鏡で見ようとしている。先日発表された2018年の野球殿堂入りにおいても、資格保持者になってから6年経っても75%以上の得票率を集めることができていない。

 それでもジャイアンツは常にボンズ氏に手を差し延べ続けた。2008年以降本人の希望に沿うことなく現役を続行する場を与えなかったのは事実だが、一連のステロイド疑惑の裁判が終結した後、2014年にスプリングトレーニングの臨時インストラクターとして招聘し、グラウンドに呼び戻したのはジャイアンツだった。さらに昨年7月にはジャイアンツの殿堂的な存在である「Giants Wall of Fame」に加えてもいる。

 今年はジャイアンツが本拠地をニューヨークからサンフランシスコに移して60周年を迎える記念すべきシーズンでもある。その大切なシーズンに合わせてボンズ氏の背番号を永久欠番にするということは、ボンズ氏が改めてチームにとって特別な存在だということを指し示すものなのだろう。

 しかも記念式典は、今年の野球殿堂入り式典が実施される7月29日からほぼ時を置かずに実施されるのだ。もちろんボンズ氏がジャイアンツ前に所属していたパイレーツ戦に合わせたかったのが最大の理由なのだろうが、それでもパイレーツがボンズ氏に対しこれまで何もしてこなかったことを考えれば十分にジャイアンツの敬意が伝わってくる。

 ジャイアンツ同様に、レッズも未だに永久追放処分が解かれていないピート・ローズ氏に対し無償の愛を注ぎ続けているのは有名だ。彼が使用していた背番号「14」を永久欠番にするばかりか本拠地球場が接する道路に「Pete Rose Way」と名付けてしまうほど、街ぐるみでローズ氏を支えている。野球賭博で永久追放処分を受けているローズ氏にさえレッズはこれだけの神対応をしているのだ。ジャイアンツが決して異様な対応をしているわけではないことは理解できるだろう。

 最近ではメディアの間から、殿堂入りの判断基準としてステロイド時代の選手の扱いに不公平感があるとの指摘も出始めている。ステロイド使用が疑われた“グレー”領域の選手たちがすでに殿堂入りし始めている中、ボンズ氏をはじめとする数人の“黒”と断定された選手たちだけが別扱いされるのはやはり疑問しかない。

 明らかな犯罪に手を染めてしまったローズ氏ならともかく、ボンズ氏は一昨年にマーリンズで打撃コーチを務めるなど今でも球界に身を置いている人物なのだ。これからもジャイアンツが無償の愛を注ぐことによって、いつしかボンズ氏を取り巻く環境が変化していくことを願わずにはいられない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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