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3ポイント王者に輝いた岡田優介はなぜ公認会計士資格を取得したのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
日本Bリーグ屈指の3ポイント・シューターの岡田優介選手(筆者撮影)

 先週末に開催されたBリーグのオールスター戦で、3ポイント・コンテストに出場し見事優勝を飾ったのが京都ハンナリーズの岡田優介選手だ。

 今シーズンの前半戦を終えた時点で、ここまでの岡田選手シュート本数は2ポイント・シュートが49本に対し3ポイント・シュートが137本。リーグ内でも屈指の3ポイント・シューターとして知られている。3ポイント・シュート成功率でトップ10に入っていないものの、一度リズムを掴むと3ポイント・シュートを量産し手がつけられなくなる存在だ。今回コンテストを制したことで、改めて3ポイント・シューターとしての質の高さを証明することになった。

 チームはここまで西地区2位につける健闘を続けているが、チーム念願のチャンピオンシップ進出を果たすためにもシーズン後半戦で岡田選手の果たすべき役割は重要になってくるだろう。岡田選手自身は自分のプレーについてどのように考えているのだろうか。

 「もちろん3ポイントなんですけれど、勝負の流れを変えるだとか、勝負を決定づけるとか、そういう大事なところでは必ず狙いたいなというのは思っています。(1試合)何点とったとかではなく試合を勝たせることを考えないといけないので、それを40分の中でどういうペースとかチョイスをするかですね。そして40分の(試合終了の)笛が鳴った時に勝てるかどうかをうまく考えるようにはしています。

 そこは経験がある選手の方が全体が見えるし、どの選手を使ったらいいのかもそうなんですけど、その辺りの判断を、できる限り自分はベテランとしてやっていこうと思っています。それが(チームの中の)役割かなと思っています」

 岡田選手が指摘するように、ここまでの京都の得点パターンはジュリアン・マブンガ選手(平均14.6得点)とジョシュア・スミス選手(同14.5得点)が中心で、岡田選手は同8.8得点でチーム3位に留まっている。あくまでコート上で試合の流れを把握しながら、必要とされる局面で的確なシュートを狙っていくのが岡田選手のスタイルだ。

 「相手がどういう守り方をして、何が効くのか、効かないかを前半で見極めて、後半でどういったプレーが有効なのか、どこがオープンになるのかを考えながらやっています。

 当然彼ら(マブンガ選手とスミス選手)が相手にとっても脅威なので、そこを守らなければいけないと。僕は僕で向こうも3ポイントに対してかなり警戒心を持って守ってくるので、それって逆にいうとこちらからすると読みやすいんですよね。ある特長を持った選手、相手が対策を立てなくちゃいけない選手というのは、すごく重宝するんです。例えばスミス選手だったら(相手は)必ずダブルチームしないと大変ですよね。だから向こうもあらかじめ対策を立ててくるというのが解るんです。

 それは逆に自分にとってもそうで、自分の場合は絶対に3ポイントを打たせないようにしようと付いてくるんですよ。なので他の選手とは違った守り方をしてくるんです。それはある意味逆に裏をつけたりとか、向こうがどう意識してディフェンスしているか読み合いができるんです。うちはそういう選手が何人かいるので、いろんなフォーメーションのチョイスとかがやりやすいというのがありますね」

 ここまで28試合すべてに先発出場している岡田選手。時にはフォーメーション・プレーに徹し、前半は1本もシュートを打たないで終わることもある。しかしそれは岡田選手にとって、後半で岡田選手とチームが爆発するための“エサ撒き”でもあるのだ。チーム全体の試合運びを想定できるベテラン選手ならではの“匠の技”と言っていい。

 前述した通り、岡田選手は一度リズムを掴み出すと次々に3ポイント・シュートを決め、まったく手がつけられなくなってしまう。いわゆる“ゾーン”に入ってしまうのだ。岡田選手自身はその時の心理状態をどう感じているのだろうか。

 「ここでやらなきゃなと思う時がありますよね。その時は本当に躊躇なく(シュートを)打ちますし、状況によるかなというのがありますね。もちろん最初からシュートタッチが良くて入っているという場面もあるかもしれないですけど、多くの場合は状況がそうさせてくれるというか、勝手に集中力が増す、一番面白い場面ですかね…。特にそういった状況になることが多いですかね。そういう時は本当に落とす気がしない時もありますし、とにかくオープンになったら打とうと思ってますね」

 また岡田選手の特長の1つがパスを受けてからシュートを打つまでの時間の短さ、いわゆる「クイック・リリース」だ。相手選手が付いていたとしてもシュートのタイミングが早いため、ディフェンスが間に合わないようなケースもしばしば見受けられるほどだ。これは徐々に身についていったスキルなのだという。

 「自然と速くなっていった気がしますね。元々クイック・リリースで打つつもりはなくて、学生時代はゆっくり打っていた気がしますし、プロ1年目は逆に高く跳んでジャンプシュートみたいな感じだったんですけど、ちょっとずつ変わってきてるかなというか、この世界で生きていくために勝手に進化していったみたいな(笑)。

 どうすれば自分のシュートが打てるか、やっぱりハンディキャップはあるので、サイズが他のSGから比べれば小さかったり(岡田選手は185センチ)するので、その中でやっていくためには自然とそういうシュートが身についたというか、動きながらそういうシュートが打てる選手はそういないと思うので、そういったシュートを常に練習してきているので、それは自分の強みというか、自信を持ってやってきているところでもあります」

 ところで岡田選手はプロ選手として現役を続けながら、2010年に公認会計士の試験に合格するという異色の経歴の持ち主として知られている。普通に考えれば引退後の生活設計なのだろうと捉えられても不思議ではないが、岡田選手の真意はまったくかけ離れたものなのだ。

 「こういうふうにBリーグができる前はバスケ界は非常に良くない時代でした。こんなに面白いスポーツなのになんで日本でメジャーになっていないんだという思いが強くあって、自分の中で何かできることがあるんじゃないかと思ったんです。会計士になりたいというよりは、そういった知識とか資格を持つことによって1つの武器になると思ってやってました。

 僕は常にプロフェッショナル意識を持っていたつもりなので、プロ選手というものはどうあるべきか、コート上で結果を出すのは当たり前だと思っています。それは当然の使命なんですけど、本当のプロというのはコート外でもプロでなくちゃいけないと思っているので、どういう人が応援しているのかとか、ファンが見ている、スポンサーの人たちが見ているという中で、どういう振る舞いをしなければならないのか、そもそもプロスポーツ・ビジネスはどんな風にお金が回っているのかを自分でも知らなければいけないですし、伝えていかねばいけないという中で、コート外でもやっていかなきゃいけないというのがありました。

 特に30歳を超えてから他の選手たちと同じ行動をとっていてはいけないというか、いろいろ経験してきたからこそ伝えられるものがあると思うし、外に発信していくとか、今はSNSとかで情報発信する時代だと思うので、それもプロに求められる1つの手段だと思います。そういったことをできる限り積極的にやっていきたいです。

 だから会計士というのはそこから始まっているかなと思います。僕はセカンドキャリアでどうのこうのいうのはないですし、元々何しようと食っていけるという自信はあったので、やっぱり何をしたいのかというのを軸足に置きたいというのがあって、軸足は必ずバスケなんです。ただいろんな顔を持っているかもしれないですけど、軸足は必ずバスケに置いてます。だからどうせやるんだったらバスケに関わることをいろいろやっていきたいというのが元なので、別に会計士になりたいと思ってないですし、たぶん会計士にならないと思います」

 岡田選手の話を聞きながら、TV番組でインタビューに応じていたイチロー選手のある言葉を思い出した。

 「失敗をしないで辿り着いたところ…、まったくミス無しでそこまで辿り着いたとしても、深みは出ないですよね。単純に野球選手としての作品がいいものになる可能性があったとしても、やっぱり遠回りすることはすごく大事です。僕の中で無駄なことは結局無駄じゃないという考え方がすごく大好きで、もちろん今やっていることが無駄だと思ってやっているわけじゃないですし、無駄に飛びついているわけではないですけど、後から思うとすごく無駄だったというのがすごく大事だと思います。僕は合理的な考え方というのがすごく嫌いです」

 もちろん岡田選手が公認会計士を取得したことを無駄だと言いたいのではない。むしろその反対で、バスケ選手としてバスケに軸足を置きながらいろいろなことに挑戦している姿勢がまさにイチロー選手の思考法に類似していることを強調したいのだ。イチロー選手の言葉を借りれば、公認会計士を含め岡田選手の取り組みすべてが選手としての“深み”に繋がっているのだ。

 現在33歳の岡田選手の目標は少しでも長くバスケを続けることだという。もちろん47歳で現役を続けている折茂雄彦選手から相当の刺激を受けているようだ。今後もバスケ界に何を残していくのか、コート内のみならずコート外の岡田選手に注目したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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