日本メディアにやや誤解されているイチローが置かれた現状

FAとなり来シーズンの所属先を探すイチロー選手だが…(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 マーリンズが、チームが保有するイチロー選手の来季契約オプション権を行使しないと発表したのが米国時間の11月3日のことだった。その結果FA選手となったイチロー選手だが、1ヶ月以上が経過した現在も新しい所属先は決まっていない。

 そんな現状を踏まえ日本の一部メディアから、50歳まで現役を続けたい夢を明らかにしているイチロー選手の将来を不安視するような声が挙がり始めているようだ。残念ながらかなり的外れな見解だと言わざるを得ない。1995年に野茂英雄投手がMLBに挑戦してからというもの、日本でもMLBの情報が大量に流入し、様々なメディアが取り上げるようになった。だが20年以上が経過した今でも、なかなかMLBの一般常識が日本のメディアに浸透していないようだ。

 確かにNPBでは12月に入りFA宣言した選手たちの所属先が次々に決まり、それ以外の選手たちも次々に契約更改を終えている。日本では年俸公開が年明けまでもつれるケースはほとんどあり得ない。しかしそれはあくまでNPBの一般常識だ。

 これがMLBになると、つい最近各チームから日本の“戦力外”に相当する「non-tender(契約提示しないという意味)」対象の選手が発表されたばかり。本格的なチーム編成に取りかかるのはこれからだ。しかもMLBの場合、長期契約を結んでいる選手以外は在籍年数が6年に達すると自動的にFA選手になるので、毎年のように主力選手クラスのシャッフルが行われている。それ故各チームが最初に取り組む作業はチームの核になる選手を確立することだ。まずそれらの選手に大きな予算を割かなければならないので、チームの核が決まらないことには、それ以外の補強を決めることができないのだ。

 実は今回ポスティング制度を利用してMLBに挑戦する大谷翔平選手の交渉期間が通常の30日間から21日間に短縮されたのも、新制度の合意が遅れただけでなく、大谷選手がどのチームにとっても核になる選手だと考えられているからだ。彼の処遇が決まらないと、どのチームもなかなか動きにくいのだ。

 そうしたチームの核になるだろう大物FA選手の契約が決まり始めるのが通常ウィンター・ミーティング前後だとされている。今年の開催期間は12月10~14日なので、今まさに各チームは大谷選手やダルビッシュ有投手らの大物FA選手との交渉を続けている真っ只中にいるというわけだ。

 今更解説するまでもないだろうが、44歳を迎え、ここ数年は先発出場数も限られているイチロー選手を、チームの核として扱うチームが存在すると考えるのはあまりに非現実的だ。つまり彼がFA選手になった時点で、MLBを取材してきたメディアならばイチロー選手の所属先がすぐには決まらないだろうことは簡単に予測できていた。

 ただそれ自体が、イチロー選手がもうMLBで通用しなくなったことを意味するものでは全くない。むしろ今シーズンの後半の活躍を見ていれば明らかなように、もう少し出場機会を得ていたならばもっといい成績を残していたであろうし、予算激減で主力選手を放出する可能性が高いマーリンズに来シーズンも残っていれば、また出場機会も増えていたはずだ。今回の措置は、あくまで新しい経営陣が若手選手主体のチーム構成に切り替えることを望んだに過ぎないのだ。

 とりあえず今は、各チームがチームの核となる選手を決めるまで待つしかない。そうした作業が一段落し、それぞれのチームが残された予算内でチームの戦略に見合う選手をどう補強できるかを考えるようになった時、ようやくイチロー選手の出番がやってくるのだ。そうした交渉が順調に進んだとしても、新しい所属先が決まるのは早くて年末になるだろうし、普通に考えれば年明けになってもおかしくない状況だ。これはイチロー選手に限らず、ベテランでFAとなった上原浩治投手や青木宣親選手においても同様だ。

 これがベテランでFAになったイチロー選手が直面しているMLBのポストシーズンの現実だ。もちろん厳しい世界だけに、まだまだ十分にプレーできるベテラン選手たちが契約できないケースがないわけではない。だがその反対に、キャンプ開始後でさえ契約が決まることだって珍しくないのだ。

 イチロー選手の将来を心配するのはまだまだ先でいい。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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