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強硬なトランプ大統領にみせつけたファンと一体化したNFLの団結力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
国歌斉唱を行った歌手もひざまずく行為を行い選手支持の意志を示した(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ドナルド・トランプ大統領が米国最大のプロリーグであるNFLを敵に回し、全面対決の姿勢を示している。

 22日にアラバマ州で行った演説で、トランプ大統領の対応のまずさから国内に人種問題が拡大する現状を憂い、試合前の国歌斉唱の際にひざまずく行為を実行したNFL選手に対し、汚い表現を使い「オーナーたちは(国歌斉唱で)起立できない選手をフィールドから追い出せ」と激しく批難した。

 この批難を機に選手のみならず、コミッショナー、オーナーたちが次々に大統領への不信感と批判を強めると、さらに大統領は声を大にして批難を繰り返した。

 そしてシーズン第3週が行われる24日早朝、以下のような2つのツイートを投稿し、ファンに対し試合ボイコットを進言するまでに至ったのだ。

 「もしNFLファンが選手たちが国旗、国に対する侮辱的な行為を止めるまで試合観戦を拒否すれば、すぐに変化が起こるだろう。(選手たちを)解雇か出場停止処分にすべきだ」

 「…NFLの観客動員と視聴率は極端に落ちている。試合がつまらない。皆が(NFLから)離れている。皆が国を愛しているからだ。リーグは国(の誇り)を取り戻すべきだ」

 しかしファンは大統領に従うことはなかった。この日15試合が実施されたのだが、どのスタジアムもリーグ、選手たちを支持するファンで埋め尽くされた。

 ジャガーズ対レイブンズ戦はロンドンで開催されたため参考にはならないが、国内で開催された14試合中半数の7試合が完売(うち5試合は収容人員を上回るファンが集まっている)。残り7試合も、この日唯一ナイターで行われたレッドスキンズ対レイダース戦だけが収容人員の84%(それでも7万7123人を集客)に留まったが、それ以外はすべて90%を超えている(91~98%)のだ。まさに大統領がツイートした「NFLの観客動員は極端に落ちている」が、完膚なきまでに完全否定されてしまった。

こんな熱いファンを後ろ盾に、大統領の意向に背き選手たちも抗議活動を繰り広げた。国歌斉唱の際起立する選手、ひざまずく選手のみならず、コーチ、OB、オーナー、スタッフらがすべて腕を組み国歌に耳を傾けた。それぞれチームの結束力を指し示すものだった。

 またチームによっては、選手たちに起立するか、ひざまずくのかの選択を迫る恐れがあることを危惧し、国歌斉唱の間はチームすべてがロッカールームに待機することを決めた。国歌斉唱中にひざまずく行為を「国、国旗を侮辱するもの」と批難するトランプ大統領からすれば、グラウンドに姿を見せないことの方が許せない行為であり、見事な抗議活動に映ったことだろう。

 自分のツイートとは裏腹に、NFLで盛り上がりをみせたアメリカの現実をトランプ大統領はどのように受け止めているのだろうか。彼が今後も批難を繰り返せば繰り返すほど、NFLはさらに団結力を増すことになるだろう。そしてこの動きは競技の枠を超えてスポーツ界全体に広がり始めている。

 今後の対応を見誤ると、トランプ大統領は自身の政治家生命を危うくすることになるのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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