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大型契約を失っても早期MLB挑戦で得られる大谷翔平のメリット

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
来シーズンのMLB挑戦が噂されている大谷翔平選手(写真:アフロスポーツ)

 日米メディアが大谷翔平選手の話題で持ちきりだ。改めてその存在感の大きさを痛感させられている。

 最近は、昨年12月に施行された新しい労働協定により「外国人プロ選手」扱いが25歳(以前は23歳)まで引き上げられたため、来シーズンのMLB挑戦では大型契約が結ぶことができず、マイナー契約からのスタートになることがかなり注目されている。中には「2億ドルを不意にしようとする選手」として驚嘆とともに報じられているようだ。

 しかしその一方で、早期MLB挑戦で大谷選手が得られるメリットについてはあまり論じられていないように思う。あくまで個人的な見解ではあるのだが、来シーズンのMLB挑戦がマイナス面ばかりだとは思えないのだ。

 なんと言っても大谷選手にとって最大のメリットこそ、日本ハムの許可を得て23歳の若さでMLBに挑戦できることだ。これまで多くの日本人メジャー選手たちの取材をしてきたが、彼らの共通意見は一様に、「MLBに来られるなら少しでも早いほうがいい」というものだった。

 過去の例をみてもわかるように、選手がMLB挑戦希望を表明したとしても、海外移籍可能なFA権を取得するまで認めない球団も少なくなく、またポスティング制度による移籍を容認する球団でも、FA権を取得できる前年まで認めないケースが多かった。そのため早くても20代後半でのMLB挑戦を余儀なくされてきた。

 どんな選手であろうと、プレーする環境が変わればそれに適応しなければならない。それにはプレースタイルが完成された選手よりも、成長途上の選手の方がより適応しやすいだろう。また成長途上の状態で移籍できれば、MLB移籍後にピークを迎えることができ活躍できる年数も長くなるわけだ。23歳でMLB移籍できる大谷選手はいい意味でレアケースといえるのだ。

 しかも過去4年間の日本ハムでの実績により、MLBでも既成概念が変化し、大谷選手が夢見る二刀流での起用を表明するMLB関係者も現れるようになった。もし2012年に本人の希望通り高校から直接MLB入りしていたならば、たぶん現在の大谷選手は投手に専念していただろう。それが現在はMLBでも二刀流ができそうな環境が整ったのだから、もうこれ以上待つ必要はないのだ。

 また労使協定の変更によりマイナー契約からのスタートになったこと自体も、決してデメリットばかりではないと思う。MLBすべてのチームがほぼ横一線で契約提示できる状況になったのだから、すでにメディアでも報じられているように、全30チームが獲得に興味を示しているといっていい。現在MLBとNPBの間で新ポスティング制度が協議されているが、現行の入札最高額の2000万ドルを超えることはなさそうなので、どのチームも十分に対応できる額だ。

 つまり来シーズンMLBに挑戦すれば新ポスティング制度を利用したとしても、ほぼ全チームが獲得に名乗りを挙げることが予想されている。そうなれば交渉で各球団の起用法、育成プランなどしっかり確認できた上で、大谷選手の思い通りに意中のチームを探し出すことができるのだ。これが逆に大型契約を得られる25歳まで待つと、同じくポスティング制度を利用したとしても、高額な大型契約を提示できるチームだけに絞られてくるため、どうしても選択肢が狭まってしまう。チームを選ぶことに関しては、早期MLB移籍の方が理想的な環境を提供してくれるのだ。

 確かに新しい労働協定の下では、2013年にポスティング制度を利用してヤンキース入りした田中将大投手のような大型契約を手に入れることはできない。しかし昨今のMLBのトレンドとして、若手有望選手が早い時期から大型契約を獲得できるようになっているのも事実だ。

 例えばエンゼルスのマイク・トラウト選手だ。2011年にわずか19歳でMLB初昇格を果たし、翌シーズンからMLBに定着し、新人賞を受賞している有望選手だ。2013年シーズン終了後はまだ年俸調停の資格を得ていない選手としてはMLB史上最高額(当時)の100万ドルで契約したことでも注目を集めている。

 さらにトラウト選手は2014年オフにまだMLB在籍3年余りでありながら、6年間で総額1億4450万ドルの大型契約を結ぶことに成功。25歳で迎えた今シーズンの年俸は約2000万ドルに留まっているが、来シーズンから3年間は野手最高額となる3400万ドル以上を受け取ることになっている。

 また現在MLB最高年俸を得ているドジャースのクレイトン・カーショー投手も、まだFA権取得に満たないMLB在籍4年余りの段階で7年間総額2億1500万ドルの大型契約を結んでいる。さらに今年のキャンプ中にMLB在籍2年足らずでトラウト選手を抜き年俸105万ドルで契約したカブスのクリス・ブライアント選手も、FA権取得前に彼らに匹敵する大型契約を獲得すると予想されている。

 これらの例が示す通り、最初はマイナー契約からのスタートを強いられらとしても、大谷投手が周囲の期待通りの活躍さえ続ければ、わずか数年で2億ドルどころかそれを上回る大型契約を得られる可能性があるのだ。なんなら大谷投手が日本人選手として初めてMLB史上最高額で契約できるかもしれないのだ。

 来シーズンMLB挑戦した方がメリットが多いように感じるのは自分だけではないだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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