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MLB版「統一球問題」が勃発!今季はやはり「飛ぶボール」だった?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
マンフレッド=コミッショナーは公式球について作為的な変更を否定しているが…(写真:つのだよしお/アフロ)

パッサン記者が寄稿した記事はかなりの長文で、ここではすべてを紹介しきれないが、とりあえず記事の概要を説明していきたい。

まずは今季の驚異的な本塁打ペースについて確認しておこう。ここまでの1試合当たりの平均は1・27本(『Baseball Reference』の最新データでは1・28本)で、このままのペースで推移していくと今年は6186本となり、最も本塁打が記録された“ステロイド時代”と言われる2000年の平均1・17本、5693本をはるかに上回ることになるとしている。

この状況についてパッサン記者はマンフレッド=コミッショナーに直撃したところ、コミッショナーは以下のような返答をしている。

「最も重要なのは、現在の状況をファンがどのように見ているか、だ。我々の調査によれば、ファンは本塁打が生まれることを期待しているし、またたくさんの三振も楽しんでいる。我々が(現状について)弁護的な姿勢に回る、回らないに関わらず、我々の最大の関心事はファンが何を考えているかを理解することであり、調査から導き出された指標は、ファンはそれを喜んでいるということだ」

その発言通り、マンフレッド=コミッショナーは現状を満足しているようだ。だがステロイド時代とは違い厳格な禁止薬物規定がある現在、急激に選手たちのパワーが増すはずもない。誰もがボール自体が変化したと考えるのは当然だし、その事実を確認したいのも当然のことだ。しかしコミッショナーは、ボールが飛び始めた2015年シーズン後半以降の公式球の作為的な変更について完全否定している。

「人々が陰謀めいた話題に興味があるのは理解している。だが自分はシーズン途中でそうした変更を陰で操れるほど、聡明でもないし、影響力もない。もしそんなことができるほど賢かったなら、コミッショナーとしてもっといい仕事をしているだろう。説明困難な変化が起こっていることは理解している。だがその一方で、我々にシーズン途中でこれまでの傾向を歪めてしまうような変更を実行するプランがあったということ自体、推論の域を超えてない」

さらにパッサン記者は、ボールが飛ぶ傾向にあるという研究機関の調査報告なども持ち出し、コミッショナーの説明を求めているが、これについても以下のような説明に留まっている。

「我々も長期間、定期的に公式球のテストを実施している。確かに他の機関が検査し、調査結果を発表しているのは知っているが、我々が信頼を寄せている研究機関を使っての調査結果では、公式球そのものが本塁打量産につながるようなものは一切でていない。

これは自分にとってタフな質問だ。なぜならこの件について明確な説明をすることができないからだ。これは性格的な欠点なのかもしれないが、自分は何か説明できないことや物事に対する明確な説明ができないことが好きではない。だが今回の件はまさにそうだ。自分としてはどうしようもない。

我々は、試合傾向が日々変化しているという事実をしっかり認識している。投手がより速い球を投げるようになれば、我々が何もしなくても文字通りその方向にシフトしていった。その結果打者は今まで以上に三振を喫することに耐えながら違ったアプローチをするようになり、より本塁打が打てるようなスイングに辿り着いた。選手たちは一流のアスリート達であり、そうした適応をしているものだ。まさに彼らの欲望がなせる変化なのだと考えている」

果たしてマンフレッド=コミッショナーの説明が、読者の方々にとって納得できるものなのか、否かは定かではない。だが今季はステロイド時代を上回るペースで本塁打が量産されいることは疑いようのない事実であり、さらに言えばマンフレッド=コミッショナーが就任以来、MLBがさらに積極的にファン獲得を目指した姿勢を打ち出しているのも間違いないところだ。

日本で巻き起こった統一球問題もそうであったが、今回の「飛ぶボール」問題がこのまま収束するとは思えない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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