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GM交代劇で本当に巨人は生まれ変わるのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
エプスタイン氏もカブス再建に4年以上の歳月を必要とした(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

今回の巨人が行ったシーズン途中でのGM交代劇に関して、多くのメデイアが“異例”という言葉を用いて報じている。

確かにNPBにおいては珍しい措置なのだとは思うが、長年MLBを取材してきた筆者からすれば何度となく経験してきた人事だ。シーズン途中でチームが正しい方向に向かっていないと判断した経営陣が、GM解任を決断することは決して珍しいことではない。まさに巨人も現状に危機感を憶えたからだろう。

だがMLBとNPBでは、そもそもGMの役割が根本的に違うように思う。MLBでは監督、コーチ、選手、スカウト等の人事権を含め、現場の総責任者としてチームづくりを行っていくのがGMだ。つまりGMを交代させるということは、チームの方向性さえも一新することを意味する。

例えばGMとしてレッドソックスを2度のワールドシリーズ制覇に導くなど黄金期を築き上げ、2012年から野球オペレーション担当球団社長(日本では編成本部長と訳す場合もある)としてカブスに迎えられたセオ・エプスタイン氏は、昨年期待通りにチームを108年ぶりのワールドシリーズ制覇に導いたが、就任から4年間、コーチ陣、選手の入れ替えはもとより、フロント・スタッフの刷新、若手育成を目指したファーム組織の強化など大幅なチーム改革に着手してきた。辣腕家と言われた彼でさえ、チームを根底から変革するにはそれほど時間と労力を必要とするのだ。

カブスでのエプスタイン氏はGM人事権をも掌握するさらに上の立場になっているが、現場の総責任者という意味で彼の役割はレッドソック時代と大きく変わっていない。つまりエプスタイン氏の例でもわかるように、野球オペレーションに長けた“専門家”たちは各チームからヘッドハンティングされながら徐々に役職を挙げていくというサクセスストーリーを歩んでいくのだ。

一方NPBではGM職を置かないチームも存在するように、現場を一手に掌握する人物を置かず分業制をとっているように思える。しかもGM職を置いているチームでも、野球オペレーション畑を歩んできた経験豊かなGMは日本ハムの吉村浩氏のみで、残りは元野球選手(DeNAの高田繁氏は日本ハム時代にGMを経験)ばかりだ。MLBのように現場の全権を掌握しているようには見えない。

これまで巨人は親会社の読売新聞出身者をGMに起用してきたが、今回初めてOBの鹿取義隆氏に白羽の矢を立てることになった。これまでの経歴から鹿取氏が素晴らしい指導者であることは疑いようのない事実だが、野球オペレーション、チームづくりという面では経験不足は否めない。しかも巨人が鹿取氏にどこまでの権限を委ねるのかも不透明であり、日本の事情を考えればシーズン中から大胆なチーム改革を断行するのは難しいだろう。

シーズン途中のGM交代は一時的なカンフル剤にはなるだろう。しかしMLB取材での実体験から言わせてらえば、GM交代でチーム事情が一気に改善し、そこから快進撃を続けたチームにお目にかかったことはない。

果たして巨人は今回のGM交代劇をどのように捉えているのか。もし今回を機に本格的にチーム変革を目指すのであれば、鹿取新GMの下、即効性を求めず数年がかりで着手していかねばならない。さらに言えば、現場の意見をまとめ上げチームを確実に一つの方向に向かわせるためにも、鹿取新GMがどこまで辣腕を振るわせてもらえるのかも成否のカギを握ることになるだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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