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ドラフトさえも社会貢献活動に活用するMLBのイメージ戦略

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ドラフト会場でランディ・シムズ君を紹介するロブ・マンフレッド=コミッショナー

MLBのドラフトは完全ウェーバー制だ。12日に開幕したドラフトでも、ロブ・マンフレッド=コミッショナーが指名順に従い、指名された選手を手際よくアナウンスしていった。

順調に指名が続き、1巡目16位指名権を持つヤンキースの順番になると、マンフレッド=コミッショナーは指名選手を読み上げるのではなく、彼の代役としてヤンキースの指名選手をアナウンスしてくれる少年を紹介するという異例の行動にでた。

少年の名はランディス・シムズ君、11歳。彼はMLBネットワークでも取り上げられるなど熱狂的なヤンキース・ファンとして知られる野球少年で、6月11日のオリオールズ戦でも始球式を務めている。

シムズ君はどこにでもいる野球少年だが、多少人と違うのは生まれた時から両手両脚がないということだ。それでも彼は普通の少年と同じように自分自身もプレーに熱中し、ヤンキースを応援し続けている。

以前にも『MLB公式サイトが注目する左腕だけの隻腕中学生捕手』という記事をアップしているが、米国ではこうした例は枚挙にいとまがない。それはシムズ君のようなハンディがある子供でも一般人と同様に受け入れてくれる環境があるからであり、またMLBのようなプロスポーツ組織も、今回のように率先して彼らの夢を応援するサポートを惜しまないという社会が出来上がっているからだ。

画面上からも緊張が伝わってくる中、きちんと指名選手をアナウンスできたシムズ君。実はそんな彼自身も、将来はヤンキースに指名されるのを夢見ているという。もちろん周囲の人々は惜しむことなく応援を続けることだろう。

言うまでもなくプロスポーツはファンによって支えられている。それ故にリーグ、チーム、選手たちは社会、ファンに還元していなければならないという信念なのだ。

残念ながら日本ではこうした思考法がまだまだ根付いていないのが現実だ。だがしかし、これが実現できない限り、本当の意味での地域に根ざしたチームづくりなど不可能だと思っている。

米国のプロスポーツのあり方をすべて受け入れろ、などというつもりは毛頭ない。だがいいものは積極的に導入していくという姿勢は大切ではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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